「凪咲!」

「わかってる!」


 牙呂に呼ばれた凪咲が即座に魔法を展開する。前線でモンスターと戦っていた牙呂は魔法が発動する前に飛び退いた。


 モンスターが入り乱れる中に、炎の嵐が吹き荒れる。


 だが、炎を掻き分けてモンスターが飛び出してきた。


「んんっ!」


 そこに奏の無数斬撃が放たれ、大抵は細切れになっていく。

 だが一部の、宙に浮くクラゲのようなモンスターは頭以外再生する。というか上手く斬撃の間を見つけていた。


「よっと!」


 だが動きは遅いので、接近した牙呂が脳天に刃を突き刺し倒す。


「え〜い」


 通路の反対側では桃音がメイスを振り下ろした。衝撃波がモンスターの群れを襲うが、ほとんどのモンスターは粉砕されず耐えている。桃音と言えど直接攻撃でないと致命打にならなかった。


 だが勢いが削がれれば充分だ。


 俺は取り出した弓を構えて矢を番える。機械的なデザインの弓だ。

 左目に投影ウインドウが表示され、敵の数がカウントされる。そして矢を引いて溜めることでゲージが溜まっていった。敵の数を捕捉した上で必要なチャージ量を割り出してMAXとしてくれる。


「ロア」

「YES、マスター」


 俺はこの武器になくてはならない存在を呼ぶ。


「モンスターを捕捉。急所を判定。行動予測完了。――撃てます」


 ロアが割り出した敵の情報から更に詰めていき、俺は矢を放った。


 矢は光を放って飛ぶと空中で分裂し、軌道を変えて飛来する。矢の数はモンスターの数に等しく、しっかり1体ずつへ向かっていった。

 避けようとしても追尾して、急所を撃ち抜く。


 高性能AIであるロアの行動予測によって追尾を可能とした、分裂弓矢。

 分裂機弓バルトロア。ダンジョンに入る前試しに造ってみた逸品だ。


 そうしてモンスターの群れを殲滅したわけだが。


「次が来るぞ!」


 牙呂が言った直後、大量のモンスターが接近してきていることを感知した。


 モンスターの先頭は最初に戦った獣。素早く接近してきたところを対処して出鼻を挫くまでの動きは問題ない。


「村正ぁ! 正面側に新モンスターだ!」

「了解」


 これまでとは違い、本格的なパーティ攻略が求められる場面が続く。


 牙呂は斥候。感知範囲の広さと速さで敵を掻き回しつつ注意を促す。

 奏、凪咲が主力。斬撃と魔法で敵を阻み、倒すのが役目だ。凪咲に関しては他にも役割があるが。

 桃音は回復。当たり前だが怪我を負ったら即座に回復する。また持ち前のぱわーで敵の牽制、排除もできる。

 俺は補助と言ったところか。4人で手が足りていないところの加勢やモンスターの特徴を覚えて倒す優先順位をつけるなどをしている。


 牙呂に言われて新モンスターを注視した。


 姿形はウミウシに近く、地面を這う様子から速度はない。大きさは全長5メートル程度。色は黄色で、翼や触手などはなさそうだが。


「動きがあんまり速くない! 多分だが遠距離攻撃をしてくるモンスターだ! 凪咲! 色から雷モンスターの可能性が高いから、雷と一応光以外の魔法で攻撃してくれ!」

「わかった!」


 モンスターの色から使う属性を推測できる。素材を多く扱ってきた俺も、その意見には賛成できる。だからまずは避けるべき魔法だけ凪咲に伝えた。


「後ろからもまたモンスターが来ますぅ! 結構いっぱいいますね〜!」


 桃音から報告が上がってきて、敵を視認。まだ遠い、と思ったが素早い黒い獣がいる。すぐ近づいてくるだろう。


「ロア、もう一度だ」

「YES、マスター」


 俺や桃音ではあいつらの動きについていけない。だからロアの行動予測に対処を任せることにした。再び矢を番えて、チャージ完了とロアの捕捉が終われば矢を放つ。

 どうにか敵の先鋒を挫くことには成功したが。


「マサ君! あいつ魔法を吸収するみたい!」


 凪咲からの悲鳴に近い報告を受けて眉を寄せた。……ここに来て魔法吸収の敵か。


「わかった! 奏、頼む!」

「ん。頼まれた」


 向こうの状況を確認すると、ウミウシらしきヤツが大きくなっていた。魔法を吸収した挙句強くなるモンスターのようだ。判断を誤ったな。ただもっと追い込まれた状況で判明しなかっただけマシだ。


「――斬る」


 奏は斬撃でウミウシを真っ二つにした。ただ、分かれた身体からエネルギーのようなモノが、


「牙呂、退避だ!!」

「ッ、おう!!」


 危機を察知して呼びかけ、牙呂が即座に前線から退く。直後ウミウシから膨大なエネルギーが放出され、周囲のモンスターを消し飛ばしていく。

 魔法を吸収、吸収した魔力を溜め込んで使わなかったら爆発ってところか。


“うおおおおぉぉぉぉ!?”

“爆発した!?”

“魔法を吸収するモンスターか!”

“動き遅くて後ろの方にいるのに魔法を吸収するとか嫌らしいな”


「うへぇ、あのモンスター嫌なんだけど」

「次からは優先して狙う?」


 魔法が効かない、上に味方が危険になるとわかって凪咲が嫌そうな顔をしていた。

 奏が聞いてくるが、少し考えて首を横に振った。


「いや。考えがある。次現れたら試してみよう」

「来ましたよ〜」


 言っていたらもう来たらしい。桃音の方の群れに紛れて魔法吸収ウミウシが現れたようだ。


「よし。凪咲、魔法を叩き込め」

「えっ? ……了解っ」


 俺の指示にきょとんとしていたが、やがて理解したのか笑って魔法を撃ちまくる。当然、魔法を吸収する度に大きくなっていく。

 流石は凪咲だ。俺の意図を察して、周りのモンスターを牽制しながらウミウシに魔法を当てていっている。


“相手強化してどうすんの?”

“多分あれだな”

“なるほど、そういうことか”

“ホントにわかってるのか……?”


 充分に大きくなったところで俺は弓矢を構えた。


「ロア。ヤツの急所は?」

「遠目ではありましたが既に把握しています」

「なら、1本でいい。撃ち抜く」

「YES、マスター」


 俺はロアの捕捉を待ち、矢を放つ。矢は閃光となってウミウシの頭を貫いた。そして、エネルギーが暴発して爆発。周囲にいたモンスターが吹き飛んでいった。


「この方が効率的だな」

「考えることが悪辣だな」

「マサカッコいい」

「相手の特性を逆に利用できるし前衛の負担減るしいいんじゃない?」


 我ながらいい手だと思う。これなら飛び出してくるヤツだけ狙えばいいし。


“一網打尽!”

“おぉ”

“いい手や”


「ただ素材が入手できないから、あのウミウシも1回魔法当てずに倒してみるか」

「了解だが、結構な消耗戦だ。油断せず備えてろよ」

「わかってるって」


 わかっているし、警戒は怠っていない。ただ一戦闘毎に息を切らせることが出てきたのを見るに、前衛はそれほど余裕がない状態だ。

 両側を挟まれた時、先に来た方を3人が一気に殲滅するという戦法を取っているのもそれが理由だった。完全に挟まれたらヤバいということもある。


 攻撃を受ければ死が待っているモンスターが大量に湧いてくる。代わりに一撃で決めるようにしているので、先に攻撃を当てるのが攻略のコツだった。


 通路の前後からモンスターがやってこなくなったので、先へ進む。


 ――ヒュンッ。


 それに気づいたのは、俺が最初だったと思う。


 というのも、右腕が千切れ飛んだからだ。


「づっ!」

「マサ!?」

「村正さん!」


“えっ?”

“マサ!?”

“マサの腕が!”


 千切れた腕はすぐに治療された。だが今の攻撃は。


「なんだ今の!?」

「わかんない! 魔力じゃなかった!」


 牙呂の索敵範囲外からの攻撃。しかも魔力を使わない攻撃だった。


 俺は攻撃の角度から突き抜けた先を考慮して目をやる。ダンジョンの床に突き刺さるモノがあった。


「狙撃だ」


 螺旋状の窪みが彫られた、弾丸のような形状のモノ。実際には弾丸ではないのだろうが、それと同じことができるのだろう。


「索敵範囲外からの長距離狙撃かよ! んなもんアリか!?」

「マサに手を出した。……殺す」


 奏が無造作に剣を振るって撃ってきた方向に斬撃を飛ばすが、当たったのかもわからない。


“全然わかんないとこからの狙撃とか対処不可能じゃんかよ……”

“深層から更に厄介になってるな”


「……クソ。油断してたわけじゃねぇが、対処のしようもねぇな」


 牙呂の言う通りだ。

 富士山のダンジョン深層は全てが初見。ただ初見でも、初見で死なず次対処すればなんの問題もない、のだが。


「これまで遭遇してこなかったってことは、長距離狙撃プラス射程以上に近づいてこないのかもな」


 治った右腕の調子を確かめつつ告げる。


「厄介すぎんな」

「うん。……待って、なにか来る!」


 どう対処するか各々が考える中で、凪咲がなにかを感知する。ただ、疑うわけじゃないがなにも感じ取れなかった。それでも身構えていると、空間の揺らぎを感じる。


「あら?」


 そいつは桃音の傍に現れると、真っ黒な不定形の身体でぱくりと桃音の腕を呑み込んだ。だが噛み千切られる気配はない。代わりにそいつがぎゅるんと渦を巻くように姿を変えた。


 それはまるで、ダンジョン内に発生するワープポイントのようだった。

 嫌な予感がして、一番近くにいた俺が手を伸ばす。


“なんだ!?”

“桃音ちゃん!?”


 直後桃音の身体が黒い渦に引っ張られる。桃音の腕を掴むことはできたが、引き込む力が強すぎて踏ん張れない。


 間違いない。強制ワープ、パーティを分断する罠だ。


「マサ!」


 引き込まれる直前、奏が必死に手を伸ばしているのが見えた。だが俺はその手を掴むことができず、桃音と共に吸い込まれていった。

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