武器紹介
「まずはこちら、牙呂の武器です」
俺は画面の前に造った夫婦剣を掲げる。
“通販番組始まったw”
“ウッキウキやん”
「変わらずの二刀ですが、今回新たな試みをしております」
一拍置いて少しだけ溜める。
「一振りに2つの属性を付与してみました!」
“な、なんだってー!”
“ガチでヤバいwww”
“そんなに?”
“1個の武器で2つの属性を持ってるのは、ダンジョンでドロップする魔剣とかしかない”
“人工では史上初ってこと!?”
“とんでもねぇwww”
“しかも夫婦剣ってことは、2つ共……?”
コメント欄が大いに盛り上がっている。伝わって良かった。
鍛冶師が造ろうとしても造れない武器、それが異なる属性を2つ以上付与した武器、とされていた。
造れない理屈は夫婦剣と同じで、元が異なるために能力が衝突を起こしてしまい、1つの器に納めることができないのだ。
原因はわかっていてもどうにもならなかったのだが、完全なる同一武器と認識させる夫婦剣が造れるなら、いつか成し得ると思っていた。
あとは2つの属性を内包できる器が出来れば良かった。
そこで登場する最高の器が、洗練したオリハルコンというわけだ。
「時空断裂剣クロノスフィア・エガル。時間操作と空間操作の能力を持つ。もう1つは風雷瞬迅剣エルキルムファング。風と雷だ」
牙呂には色んな武器を造ってきた。その中で俺が最も牙呂に合っている組み合わせだと感じたのが、風と雷、時間と空間だった。
疾風迅雷という言葉があり、牙呂の最初の二つ名ともなった風と雷が挙がったわけだ。
「おぉ……!!!」
牙呂が子供のように目を輝かせている。目からキラキラしたモノが出ているような気がするくらいだった。
“うおおおおおおおおおお”
“時間と空間に、風と雷か”
“牙呂のこれまでの武器と同じ組み合わせだな”
“2本で4つの能力かwww”
“歴史が変わった”
“牙呂にぴったりの最高な武器だな!”
「内容はこれまでの武器と一緒。威力やらの効果は更に上がってる。急激な速さについていけず壁に激突、なんてやめてくれよ?」
「おいおいおいおい! 今のお前がそこまで言うほどの武器なのかよ! いや4つの能力があるってだけで最高だし、これまでの夫婦剣が踏襲されてるのも最高だし、こっちの武器には新技の名前と牙まで入って……! やっぱお前天才だな!!!」
牙呂はかなりテンションが上がっているようだ。嬉しそうにばしばしと俺の背中を叩いてくる。超痛い。
“ファンとしても嬉しい”
“牙呂めっちゃ喜んでるなwww”
“そら、これまでの武器を超える最高の武器だからな”
“良かったな健太;;”
俺から二刀を受け取った牙呂は、嬉しそうに武器を眺めていていつもの健太呼びへのツッコミも忘れているようだ。それくらい喜んでもらえたなら良かった。
因みにだが、あの二刀にはそれぞれの歴代夫婦剣の欠片が混ぜ合わされている。夫婦剣として異なる能力にして同一だと認識したそれらの武器があったからこそ、異なる能力を1つの器に納める緩衝材とすることができた、という面もあった。
今のところ、牙呂以外には造れない武器だ。
他の3人に造る理由はないのだが。
「あと、今回の武器の器に使ったのはオリハルコンです。以前動画でオリハルコンの鍛冶をしましたが、あれは失敗でした。中途半端だったと言うべきですかね。オリハルコンの性能を引き出すところまではできてたんですけど、性能を洗練させるところまでできてませんでした。あれじゃ二流の仕事です。一流なら素材の力を引き出して洗練させる、自分で言ってたことができてなかったなんて。お恥ずかしい限りですね」
きちんと自分の至らなさを口にする。
「あの配信は非公開にします。誤った情報ではないですが、正しい情報でもないので」
“そもそもオリハルコンを加工できること自体が凄いんだけどな”
“まだ上があったんか”
“反省点を活かして今回の武器が造られてるなら期待大”
“ワイの貴重な睡眠導入動画が;;”
「おかげで出力、頑丈さ、切れ味など全てにおいて上回る武器が出来たので良しとしておきます。鍛冶に失敗はつきものですからね」
失敗から学ぶことも多い。確実なことばかりでは理解と成長を得られないこともある。時には数億の素材を犠牲にする必要もあるのだ。
「次は奏の武器ですが、こっちはいつも通り。斬戟剣ティルヴィンウルム。切れ味と頑丈さを追求した逸品です」
奏に用意する武器のコンセプトは変わらない。変える必要がないと言うべきか。
鞘から抜き放つと透き通った純白の刀身が露わになる。
「綺麗」
「以前より切れ味頑丈さは格段に上がっています。更に魔力を込めた時、魔力量に対する威力の増強幅が広がっています。簡単に言うとこれまでより威力が出るよってことです」
「いつもありがと、マサ」
「いつものことだ、気にすんな」
“単純により良い剣ってことね”
“まだ威力上がるんか……”
“牙呂の時ほど特殊なことはないか”
「防具との相乗効果でもっと魔力を使いやすくすることに重点を置いているので、奏以外が使うと多少強い剣程度の性能ですかね。その性能が歴代最高なんですけど」
鍛冶師としての俺の位置づけとしては、武器に特殊な効果を持たせるのが得意。武器寄りではあるので特殊な効果を持たせない武器もそれなりではあるが。
少なくとも現時点でトップクラスにいるという自負はあった。
「次は桃音で、まぁ魔法効果やら発動短縮やら破壊力上昇やらのいつもの感じです。魔力を込めて効果を引き上げるのもオリハルコン製なのも一緒」
「ふふふ、ありがとうございますぅ」
“シンプルだが性能が底上げされてんのね”
“魔力の多い桃音ちゃんには相性のいい武器だよね”
桃音はあまり特別なことがない。魔力を込めて効果を引き上げるくらいかな。
「最後は、凪咲か」
俺は凪咲のために造った杖を取り出し、手渡す途中で握ったまま放さず、凪咲が取ろうとして困惑していた。
そんな彼女に俺は笑顔で告げる。
「お前、ボス戦の最後俺の造った武器使わなかったよな?」
「っ!」
凪咲はびくっと身体を跳ねさせた。おかしいな、俺はこんなにも笑顔で語りかけているというのに。
“ひぇ”
“おっ、怒り笑顔だ”
“イケメンの笑顔がなぜこんなにも怖いんだ……”
“これが覇気か”
「ご、ごめんって……」
「いや、なにも謝る必要はないって。だって凪咲が判断したんだもんな、新技を使うには杖がいらないって」
「いらないってわけじゃなくてその……」
「いやいや、嘘吐かなくていいんだ。俺が凪咲用に造ってる装備は凪咲がこれまでにやってきた範疇のことを高めるための効果が積んであるからな。魔力をそのまま攻撃として放つための効果はないし」
「えっとその、あの時は杖じゃなくて手の方が集中しやすかっただけで……」
「あ? 俺の武器が手のように扱えないって?」
「ひっ! ち、違うから! いつも使いやすくって助かってます!」
“凪咲ちゃんたじたじやんw”
“めっちゃドス効いた声出てたなwww”
“目覚めそう”
“新たな扉を開くとする、か”
“真理の扉以外開くなw”
“真理の扉も開くなよwww”
俺は言いたいことを言ったので杖から手を放す。
「ま、今回の武器はいつもの効果に加えて魔力を収集しやすい効果をつけ足してる。当然、手で集めるよりもな」
「う、うん」
「俺の武器があって、武器がない方がいいなんて2度と言わせねぇから」
「信用してます……」
凪咲はなんだかしおらしくなっていたが、俺としては言いたいことが言えたので満足だ。
「ムキになって攻め攻めのマサもいい」
“奏ちゃんはどんなマサでも好きだなぁ”
“筋金入りのガチ勢や”
“なんでそんなにゾッコンなのか知りたいところはあるw”
コメント欄は奏の発言に対するモノばかりになったが。
「武器紹介は以上になりますが、俺とロアの防具も更新してます。自分用に造った武器もありますが、後出しでいいでしょう。出番が来たら使うだけなんで」
“1ヶ月ちょいでオリハルコンの武器4人分と6人分の防具と自分の武器造ったって言ったか?”
“鍛冶狂人の名は伊達じゃないな”
“せめてちゃんと休んでくれwww”
ダンジョンを長い間かけて攻略していると、自分が洗練されていくような感覚を持つことがあると言う。鍛冶をしている時にはあったんだが、今回はダンジョン攻略の最中に鍛冶をしている。相乗効果というヤツだろう。
自分でも驚くくらい成長していっている。
「よしっ! 装備の紹介も終わったことだし、そろそろ配信終わるぞ。次の土曜はいよいよ深層、最難関中の最難関だ。気合い入れて攻略してくから、絶対観てくれよな!」
牙呂が締めの挨拶をして、たくさんのコメントとスパチャが配信の終わりを労ってくれる。
「……覚悟はいいな、てめえら。誰も欠けることなく、オレ達は富士山のダンジョンを踏破する」
配信が終わって牙呂が真面目な声で言った……のだが。
「すみません、まだ配信を切っていませんが」
ロアの淡々とした指摘に、牙呂はぎょっとして顔を赤くした。
「切れよ! ちゃんとしたこと言ってんだぞ!?」
“ロアちゃんナイス!”
“ガチの声聞けて良かった”
“健太;;”
“そういうとこ好き”
“配信切った後にガチるつもりだったかw”
“締まらないとこも牙呂っぽいわwww”
コメントに茶化されて牙呂が怒り出したので、ロアはそこで配信を、今度こそちゃんと切る。
配信終了最後の画面には、笑う俺達の姿が映っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます