深層へ行く前に

 振り返り配信を終えた俺達は話し合いの場を設けて、1ヶ月近く攻略を停止することにした。


 各々やりたいことができたからだ。

 俺は変わらず鍛冶だが。


 今回のボス戦、勝ったからいいものの負ける可能性は大いにあった。加えて自らの足りない部分を突きつけられる試練だ。嫌でも強くなりたいという意志を引っ張り出されるだろう。

 俺は強くなりたいとは思わないが。


 ただ、1つ思うところはあった。


 それが中層、下層で砕けてしまったオリハルコン製の武器だ。

 オリハルコンは現在確認されている中で最高級の鉱石。このダンジョンに入ってからも採集はできているが。

 他の鉱石とは一線を画す、はずなのだが。言ってしまえば割りとあっさり砕けてしまっている。


 なぜだろうとは思っていた。いや、ここのモンスターが硬く強いからというのはもちろんある。ただ、オリハルコンならもっと上にいけるはずなんだ。


 行き着いた答えは簡単なモノ、俺が未熟だった。


 オリハルコンの加工という前代未聞の境地に辿り着いただけで満足してしまった自分がいた。

 だから鍛冶の基本を忘れてしまっていた。


 鍛冶師は、素材本来の力を引き出すだけでは二流。素材本来の力を引き出し洗練させるのが一流。


 そう考えるとあのオリハルコンの武器達は、二流の武器だ。素材本来の力を引き出せてはいたが、洗練させるところまで至っていなかった。


 だからだろう。知り合いの鍛冶師からなにも連絡が来なかったのは。

 技術についても気軽に話せる仲なので、オリハルコンの加工という大事に反応しないはずがなかった。


 一流の鍛冶師視点からすると加工し切れていなかったということだ。


 盲点だった。いや、俺としてもオリハルコンを加工できたということで浮かれていたのだろう。鍛冶師として一流とはとても名乗れない。


 だが今は反省も後悔もいらない。問題に気づいたのなら、後は直すだけだ。この先はもっと過酷な攻略を強いられる。後戻りは許されない。先に進むだけ。


 他の4人も、そう思っている。


 仲間達がどんな成長を遂げるのかはわからないが、停滞している自分を許す連中でないことは確かだ。

 なら俺も、やるべきことをやるだけ。


 そうして俺達はダンジョン下層のボス部屋で各々のことに取り組むのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


「おーっす。久し振りだな、牙呂だ」


 約1ヶ月半の充電期間を経て、報告を兼ねて配信していた。


“待ってた!”

“きちゃ!”

“待ってたぜぇ、この配信をよぉ!”


 富士山のダンジョン下層突破という新記録を達成したことでニュースにも取り上げられたようだ。

 そもそもの話、最高難易度を誇るそれらのダンジョンは中層までしか到達記録がない。おかげで世界的大ニュースになっているというわけだ。


 色々な有名探索者からDMが届いていたり、企業からのオファーが届いていたり、一躍時の人となっている状態らしい。

 まぁ、全て後回しにしているのだが。携帯も全員ロアに預けてしまっているし。


 生きて帰らないことには、意味のないことだから。


「色々やって準備が整ったから、配信を再開することにしたぜ。今週の土曜日、朝の10時から深層攻略配信を始めるから、観に来てくれよな」


 同接視聴者数5000万人以上というバカげた注目度を誇る配信であっても、牙呂はいつも通りに告げた。


「まず、1ヶ月空けた理由なんだが。下層のボス戦で結構苦戦したからだな。苦戦してもすぐ解決できるわけじゃねぇと思うが、オレ達の場合改善点が見つかってた。だから深層攻略に備えようって話になってな」

「実際には1ヶ月半かかっちゃったけどね」

「悪いな。時間忘れてた」

「いいんですよぉ。村正君が一番かかるのは当然ですからぁ」


 1ヶ月を過ぎた理由は、主に俺にある。時間を忘れて鍛冶に取り組んでいたのだ。


“深層前の準備期間ってことか”

“堅実だな”

“それで装備変わってるのね”


 深層はダンジョンでも終盤、最も厄介な階層だ。これまでもなかったが、より一層油断ならない状況が続くだろう。改めて準備するのも当然と言えた。

 というか、このダンジョンはそれを前提としている気がする。


 特に下層からは、後戻りできない代わりにモンスターが再出現しないようになっていた。

 後戻りできないというのは、前の階層に通じる階段が塞がってしまっているからだ。中層まではそんなことがなかったので、下層まで足を踏み入れたら攻略か全滅かの二択だけになる。


 下層ボス戦の苦戦具合を鑑みると、正直生きて帰れるか怪しくなってきたところだ。


「装備については村正が用意してくれた。ガチの最前線素材使いたい放題したから性能が高いのは当然だが。さらっと説明頼む。さらっとな」

「無理だろ」


 俺が装備のこと語るのにさらっととか無茶言いやがる。ただ最低限の情報にはしよう。語りすぎは良くないと諭されている。


「とりあえず、全員共通の効果として。桃音の装備に付けてた身体と一緒に修復される機能。に加えて修復される度に性能が上がる機能。汚れなどを払拭して綺麗な状態を保つ洗浄機能。ポケットには簡易的な異次元収納を実現。食糧や回復アイテムをある程度持ち歩ける。当然ながら防御力、耐久力など防御性能に優れているが重くないと」

「待て待て! 聞き捨てならない機能があるんだが!?」

「説明は短くていいんだろ? 次は個々に合わせた効果だが」


“破ける度に性能が上がる防具とかヤバすぎ”

“それよりも異次元ポケットじゃね?”

“容量にもよるが、間違いなくオーバースペック”

“防具は上がいるからって言ってたが、世界水準なのには変わりないのか”

“得意分野の武器になったらどうなるんだwww”


「牙呂は速度の向上だな。身体の動きを速める効果を持たせてる。加えてパワーも上がるように調整。速ければ速いほどパワーが上がる機能だ」


 俺の説明を聞いて、牙呂は驚きから笑みへと表情を変える。


「はっ! 最高じゃねぇか!」


“牙呂の速さがパワーになる、だと……?”

“ヤバすぎる防具”

“下層ボス相手に力負けしたのを補う性能か”

“ガロマサてぇてぇ”


 各々自分を超えるために色々やっていたとは思う。だが俺も彼らをサポートするべく生み出した。自信を持って送り出せる、現時点での最高傑作だ。


「で、奏。身体能力を全体的に上げる機能と、魔力を充填する機能がある。魔力の充填は満タンにしておいたから、足りなくなったら魔力を補充してもらってくれ。残量は左手の甲にある青いゲージで確認できる」

「ん、ありがと。やっぱりマサは最高」


 奏は嬉しそうな笑顔を見せた。


“奏ちゃんかわ”

“やっぱカナマサかぁ”

“奏ちゃんに唯一足りない魔力を補う装備かよwww”

“とんでもないことになりそうだなw”


「先に桃音。魔法効果や威力を上げる機能に、魔法発動短縮。ここまではこれまでと同じだが、魔法完成速度を大幅に上昇させる機能がある。回復魔法なら、回復し切るまでの速度が上がる。あとは魔力を込めた分だけ防御性能が上がる効果だな」

「ふふふ〜。ありがとうございますぅ。村正君が私のことをよく考えてくれていて、嬉しいですねぇ」


 魔法短縮はこれまでもあったが、発動して回復している最中に攻撃されるという事態に陥っていた。それを少しでも改善できればと考えて思いついた機能だ。


“回復魔法は特に、発動してから回復するまでにタイムラグがあるから”

“そこを補う装備ってわけか”

“奏ちゃんが「私の方が」って顔してらw”

“草”


「凪咲、はほぼ桃音と一緒かな。攻撃魔法は撃ったら完成だし完成速度の恩恵は少ないから配分変えてるけど」

「はいはい、ありがとね」


 やや苦笑していたが、それでも高性能には違いない。凪咲の方は武器が特殊だから勘弁して欲しいな。


「次、武器紹介していいか?」

「おおう……ぐいぐい来るな」


“目ぇキラキラさせてて草”

「マサかわいい」

“紹介したくて堪らないんだな”

“是非語ってくれ!”


 許可なんてなくても語るんだけどな。

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