奏ミラー
奏は剣を振るう以外の攻撃バリエーションがない。
ただそれだけのことが強いという超特化型の探索者だ。
だから凪咲や村正のように無数の手札を斬るようなことはできない。
片手で剣を振るう。両手で剣を振るう。一振りで無数の斬撃を放つ。魔力を込めて斬撃を放つ。
今のところそれだけしかやってきていない。見せてきていない。
「……む」
奏はどれだけ剣を振るっても相殺してくるコピー体に、不満を表した。
“奏ちゃんの攻撃が全然通らない、だと……?”
“奏ちゃんとここまでやり合える敵は初めて見た”
“がんばえ奏ちゃん!”
“魔力使った斬撃まで相殺できるとは……”
奏は身体能力、剣を振るうことに関しては群を抜いて強い。剣を操るのに最適な身体をしているとも言われていた。
これまで配信内外問わず戦闘で苦戦した経験が少ないという異常な才能を持っているが、そんな奏にも弱点はあった。
魔力の少なさである。
もしも奏が牙呂くらいはあれば、話は変わってきただろう。
もちろん少ないと言っても極端に少ないわけではなく、普通くらいにはあるのだが。探索者の最前線を走る者としては少ない方ではあった。
だから奏はどんな攻撃をすれば相手を倒せるのか、少し考える。
だが本来ただ強いだけで戦闘や探索自体に興味のない奏にとっては、戦法や戦術などそう思いつくモノではなかった。
奏にとってそれは、剣をどう振るかの違いでしかないのだ。
いい案が思い浮かばずにいると、相手から仕かけてきた。
「……っ」
魔力を込めた斬撃だ。咄嗟に回避を選択する。相殺はできるが、回数を撃てない奏にとって相殺は悪手である。
回避しても回避しても、相手の斬撃は止まらない。
“おいおいマジかよ”
“あの奏ちゃんが押されてる!?”
“奏ちゃんは魔力量が少なめだからあんまりアレ使えないし、相手は補填してんのか?”
“性能コピーどころか上乗せされてんじゃねぇか!”
魔力という短所を補われた相手であっても、奏は動揺しない。というか村正のこと以外で動揺することがなかった。
だから押されていても頭は冷静だ。より威力を高めた一撃で押し切るという案が試す前に潰れただけマシと思うべきか。
相手は奏にできないことを始めた。なら、奏が魔力があればやっていたであろうこともできる。
「……っ!」
奏は悪寒がして咄嗟に後退した。そこで障壁にぶつかり、逃げ場がないと悟る。
相手は魔力を溜めて剣を振り被っている。奏にはできないほどの魔力を込めている。あのまま撃たせてはマズい、と直感が告げている。
「――斬る」
逃げ場がないなら先に斬るしかない。奏は残りの魔力を全て込めて斬撃を放った。だが相手はそれを読んでいたかのように剣を構えたまま避けてしまう。
魔力を使い果たした疲労感が襲い、身体が重くなった。
“やばいやばいやばい”
“奏ちゃんの反撃が避けられた!?”
“逃げて!”
これまでにない奏のピンチに、コメント欄も騒然としている。
相手の一振りが放たれる。
魔力を込めた、今のところどんな相手ですら斬れる奏最強の斬撃。
と、一振りで無数の斬撃を放つ所業。
これらを合わせた回避不可能の攻撃が放たれた。
奏は相手がなにをしてくるかなんとなくわかっていたため剣を何度も振るって無数の斬撃を放ち相殺しようとするが、魔力を込めたか否かで威力は桁違いに変わる。
それは彼女が一番よく知っていた。
だから奏の放つ斬撃は悉く斬られて勢いを止めることができない。
「……ぁ」
眼前まで迫った斬撃を避ける隙間はなく、奏は無数の斬撃に切り刻まれた。
“うわあああああああああ”
“奏ちゃんがやられた!?”
“嘘だろ!?”
“怪我したとこすら初めて見たんだが!?”
これまで窮地に陥った経験のない奏の身体から血が噴き出す様を見て、視聴者が悲鳴を上げる。
どうにか威力を弱めることはできたのかバラバラになることはなかったが、間違いなく深手。奏が仰向けにゆっくりと倒れ伏す様が映し出されることとなった。
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