凪咲、牙呂、桃音ミラー
無詠唱で魔法の撃ち合いをしていた凪咲だったが、突如として拮抗状態が崩れ始めた。
相手が魔法を避け始めたのだ。
これまで魔法には魔法で、若しくは防御障壁で対抗していたというのに、回避をした。
それになんの意味があるのか、と言うと。
「? アタシより動けてる?」
凪咲が眉を顰めた。彼女はあまり身体を動かすことが得意ではない。身体能力も桃音以外の3人に及ぶべくもない。代わりに膨大な魔力と数多の魔法を持つことが彼女の強さなのである。
だが相手は身体能力の高さを有しているようだ。
“凪咲ちゃんは動くの苦手なのに”
“コピーならちゃんと本物の弱点も見習え!?”
凪咲の放つ魔法を華麗に回避しながら、持っている杖に魔法を使って刃を形成する。
「近づくなってば!」
凪咲が苦手とする近接戦を仕かけようとしてくるのがわかり、広範囲に猛吹雪を巻き起こす。だが炎の防御壁で相殺され、相手の速度が落ちることはない。
10メートルまで近づかれたところで壁を築き道を塞ぐ。杖に刃を形成して近接戦に備える、フリをした。
相手は壁を飛び越えるほど高々と跳躍する。
杖を構えて待っていると、相手が左手を後ろに向けた。なにをしようとしているか理解した時にはもう遅い。掌から風を放ち、高速で移動して凪咲の背後に回り込んだ。
本人が実行すれば着地できず怪我するだろうが、相手はきっちりと姿勢制御まで行っていた。
……それアタシがやりたかったヤツ!
悔しげに顔を歪めつつも対処は怠らない。反射的に空間転移を発動、距離を取りつつ向きを変えた。
空間魔法を扱う中で、凪咲以上の使い手はいない。
だが、相手はそんな凪咲のコピー体である。
「……え?」
ざくりと背後から腹部を貫いた刃を見て、呆然とした声を上げる。
相手は凪咲が転移すると読んでいて、同じように背後へ転移していたのだ。
“嘘だあああああああ”
“凪咲ちゃんがヤバい!!”
“逃げて逃げて!”
呆然としてはいたが再度空間転移を使って逃走を図った、のだが。
相手はすぐ目の前で杖を翳しており、魔法発動の寸前だった。防護壁を破壊できるほどの威力がある魔法を、準備していた。
杖から極光が放たれる。呑まれた凪咲は障壁に叩きつけられ、ボロボロの状態で地に落ちた。
凪咲のコピーであるところの相手は、咄嗟に使う魔法が空間転移であることがわかっていた。だから逃げる先を予想していた、というだけのこと。
“うわああああああああ”
“凪咲ちゃん!?”
“しっかり!”
“嘘だよな? 嘘だと言ってくれ!”
しかして、凪咲がコメント欄に応えることはなかった。
◇◆◇◆◇◆
牙呂はコピー体と互角の高速戦闘を繰り広げていた。
弄られることも多いが、速さと言えば牙呂と言われ世界最速の探索者はと言われれば必ず名が上がるほどの実力者である。
なによりリーダー気質で率先して動き、まとめ役を担ってくれる。
奏のように配信に向かない性格の探索者も多い中で、メディアへの出演も多くなんだかんだファンの多いカリスマ配信者なのである。
だが、互角だった戦いが傾き始めた。
牙呂が大きく弾かれたのだ。
「の、やろっ!」
負けじと挑むが、相手の攻撃を受け切れないで弾かれてしまう。
……こいつ、ここに来てパワーを上げてきやがった!?
牙呂もパワーがないわけではない。
速さと手数、技術こそ牙呂の強さを支える要素なのだ。
だが相手が同じ速度・技量なら、パワーがある方が強いに決まっていた。
受け切れず、次第にダメージを負っていく。
「く、そがぁ!」
“頑張れ!!”
“負けるなぁ!!”
“意地見せろぉ!!”
心配する声より応援する声が多い。それは牙呂が熱く、諦めることを知らず、いつだってピンチを乗り越えてきた男だからだ。
ただ今回ばかりは相手が悪い。
少し深く、牙呂の身体が斬られた。それでも怯むことなくこれまで見せてこなかった蹴りで仕返ししようとするが、あっさりと避けられてしまう。
相手は牙呂のコピー。彼が格闘もできることなど知っているのだ。
蹴りを避けられた牙呂は続け様に攻撃を受け、切り刻まれていく。
足の止まった牙呂に逆転の手立てはない。
トドメとばかりに放たれた蹴りを受けて吹き飛び、背中から障壁にぶつかってずり落ちる。そのまま地面に倒れることとなった。
“牙呂おおおおおおお”
“うわああああああああ”
“嘘だろ!?”
“立ってくれ!!”
“健太ぁ”
コメント欄の阿鼻叫喚を他所に、不屈の男が立ち上がることはなかった。
◇◆◇◆◇◆
コピー体と一撃必殺のメイスをぶつけ合っていた桃音。
轟音と衝撃を撒き散らしながら戦いは続いていたが、ここでも変化が訪れる。
桃音の一振りを、相手が避けたのだ。
「あれぇ?」
もう一振りしても同じ。桃音はぱわーが凄い代わりに速くないという欠点がある。そんなこと関係ないくらいに強いぱわーを持っているのだが、コピー体は本人が持っていないモノをプラスしている。
桃音のコピー体は、桃音のぱわーに加えて速度を持っていた。
だから桃音の攻撃はあっさりと避けられてしまい、逆に相手の攻撃は速く避けられない。
桃音が空振った隙に、相手がメイスを振るった。避けられる速さではない。
ごちゃり、という音がして桃音の上半身が弾け飛んだ。
“ああああああああ”
“ひぇ”
“桃音ちゃん!?”
コメント欄に悲鳴が上がるが、桃音は下半身しか残っていない状態から再生した。特製の衣装も一緒に再生している。
“これよこれ!”
“この不死身っぷりがある限り、桃音ちゃんに負けはない!”
コメントはまだ絶望していない。桃音は世界でもどうやったら殺せるかという議題に挙がるほどの不死身性を誇っているのだ。
しかし、戦況が変わるわけではない。
桃音の反撃は空振り、相手の一撃が桃音の身体を打ち砕く。桃音は再生して反撃に出るが、空振りまた攻撃を受ける。
その繰り返し。
更に言えば桃音の再生は欠損を補完できるため、辺りに臓物や骨、血液が大量に飛び散り続けるという惨状を起こしていた。
空振り、消し飛び、再生する。
負けることはないと言っても、勝ち目がなさすぎた。
“惨い”
“諦めないでくれぇ”
“でも、一方的すぎる”
コメント欄が曇り始める。
桃音は相手の攻撃に合わせてメイスを振るうのだが、桃音の戦法を知る相手が食らうわけもなかった。普段なら相打ちに持ち込むだけで勝てるのだが、それすらもさせてもらえない。
「……っ」
笑顔の絶えない桃音の表情が曇った。
桃音の敗北は魔力切れ。なんなら5人の中で一番という可能性もあるほどの魔力量を誇っている。ただ、戦況を覆せないのであればただ魔力を削られていくだけ。
焦りを覚える。だが手立てがない。
次第に、相手は桃音の反撃を待たなくなった。
再生したら殴り、弾き飛ばす。再生し切る前に殴り、残った身体を弾き飛ばす。
それでも再生はできるのだが、反撃する手がなければどうしようもなくなる。
余りにも一方的で救いのない展開に、嫌な予感がつき纏う。
やがて、相手が攻撃の手を止めた。
桃音の身体は再生していくが、立った状態ではなく仰向けに倒れた状態。目を瞑り倒れた桃音の身体自体は綺麗だが、目を開けることはなかった。
“桃音ちゃん!!?”
“まさか、魔力切れ!?”
“うああああああああああ”
不死身の桃音が起き上がらないことに阿鼻叫喚となるコメント欄。
かくして、5人はコピー体によって倒れ伏すととなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます