ミラーマッチ
辿り着いた富士山のダンジョン下層のボスは、探索者の性能を模倣して1対1を行う各個撃破タイプのボス戦となっていた。
ロアの視点から映し出される配信画面には、5つに等分された半透明の壁があり、ドローンを飛ばして確認したが上からの侵入は不可となっていた。
“自分と同じ相手を倒さないといけないのかよ……”
“最強の5人を阻むミラーマッチとかヤバすぎ”
“ボス戦ってチームプレイが求められるもんだろうがよぉ”
コメント欄は阿鼻叫喚だ。明確に強そうなモンスターが相手ではないが、これまで観てきたからこそ、今回の相手が見た目以上に強いことを知っているのだ。
「5人同時の戦闘となりますので、各チャンネルから配信を開始しました。奏様と凪咲様はコンビとなりますので、サブチャンネルの方も使っています。概要欄を更新しましたので、観たい方はそれぞれのチャンネルからご覧ください」
5人がそれぞれ敵と戦うことになっているので、1つの画面では映しにくい。ドローンを飛ばして各チャンネルから戦闘の様子を映し出すことにした。
“助かる”
“超助かる”
“流石ロアちゃん”
“5窓するかぁ……”
ダンジョン側が戦闘員非戦闘員の判別をしているらしく、ロアは観戦するだけとなっている。もしロアが戦うことになっていたら問題だった。
当然、ロアはマスターである村正の戦いを見守っている。
相手が同じ強さであれば、やりようによっては勝てる。いくら性能を真似たところで、経験の差はあるのだから。
ロアと視聴者達の前で、5人の戦闘は始まっていた。
奏が斬撃を放つ。斬撃の範囲が広いのに振りと斬撃のタイムラグがほぼゼロというとんでもない、弱攻撃である。
ただし、相手も同じように剣を振って斬撃を放ち、丁度真ん中で激突。相殺された。
“全く同じラグなし斬撃だ!?”
“マジのコピーかよ”
“奏ちゃん最強! って思ってたのが敵になるとか怖”
“でもまだ奏ちゃんは全力じゃない!”
早速現れた視聴者達がコメントしている。奏が苦戦するところを、配信では一切観たことがないことから奏最強説は日本最強探索者談義、いや世界でも名が上がるほどなのである。それが今、敵になっている。
凪咲は互いに魔法をぶつけ合うことで戦闘を開始した。無詠唱の小さい魔法を連発してゴリ押しできるか確認しているが、相手の魔法発動速度、使ってくる魔法の種類の確認も含まれている。
「へぇ? 魔法の発動速度も同等。使ってくる魔法はアタシが使える魔法ばっか。ってことは、これまでの戦闘を記録してるだけじゃなくて、アタシの性能そのモノを読み取ってコピーしてるって感じね」
面白いとばかりに笑う。だがそれはつまり、今自分ができることは相手もできるということに他ならない。
わざわざ口に出したのは長い配信歴での視聴者への気遣いと、声が他の四人にも聞こえることがわかっているので情報共有も含まれていた。
“全く同じことをしてくるってわけじゃないのか”
“でもそれって逆にヤバくね?”
“そら、凪咲ちゃん達ができることは全部できるってことだからな”
“ヤバすぎて草”
“頑張れぇ……!”
ダンジョンの言う“性能”がその人ができること全ての可能性が出てきたことで、コメント欄も騒然となっている。
「おらおらおらぁ!!」
牙呂は様子見も兼ねた全力攻撃を繰り出す。縦横無尽に動き回りながら切り裂く得意の攻撃だが、相手も同じ速度で動ける故に互角の高速戦闘が繰り広げられていた。
“いっけええええええ”
“クソ、互角じゃねぇか!”
“流石ミラー”
“信じてるぞ健太ぁ”
どうあっても牙呂に取れる戦法はこれ1つ。様子見の加減は一切なかったが、互いに直撃はなかった。
「え~い」
桃音とコピーがゆっくりと歩き出し、中央でメイスを振り被り、激突する。
大気が震えるほどの衝撃と轟音が響くが、互いに吹き飛ばされはしない。完璧に相殺されていた。
“おぉ、迫力満点”
“マジで同じぱわーなんだな……”
“ぱわーだけじゃなくて魔法もコピーされてるだろうし、決着つくんか?”
“なにか手があると信じたい”
“桃音ちゃんなら勝てる!”
轟音と衝撃が激しくぶつかり合う戦闘が続いた。
そして、村正も。
「材質――空気。形状――片手剣」
手を前に出して空気から武器を創り出す。村正が編み出したオリジナルの即興鍛冶だが、相手も全く同じように空気を掌に集めていく。
「構築完了――
互いに風の剣を創り終え、同時に振るう。風の刃が吹き荒れて激突、相殺した。
“即興鍛冶までコピーできんのか”
“理屈はわからんけど、完璧に読み取られてるってことか”
“いやでも、マサは武器も持ってるから大丈夫のはずだろ”
“あ、それもそうか”
即興鍛冶というオリジナル戦法がコピーされたことに驚きはあったが、村正には持ってきた数多の武器があるからとコメント欄が安心し出す。
村正もそれは考えた。
だから、彼はボス部屋に来る前に創った武器をポーチから引っ張り出す。
火焔龍刃・煉獄。炎の龍を素材に創った深紅の刀だ。
これもコピーできるのか? と言わんばかりに刀を構えて待つ村正の前で。
コピーの村正は両手から銀色の液体を出すと刀の形状を構築して、同じ刀を創り出した。だが、見た目だけ同じなら問題はない。中身が伴うのか。それは、振ればわかる。
村正が刀を振るう。相手も刀を振るう。そして、答えが出た。
両者の刀から深紅の炎が斬撃として放たれ、ぶつかり合って相殺される。
“全く同じ刀!?”
“武器の能力までコピーできんのかよ!?”
“やばばばばば”
“村正の手札の多さが、そのまま相手の力になるってことじゃん!”
“マサぁ……”
武器の形状だけでなく、武器の能力までコピーされている。その事実を確認して、村正も驚きに目を見開いたがやがて笑みを浮かべた。
ダンジョン内で創った武器だから読み取られたのか。
取り出した時点で読み取られているのか。
なら持ってきた武器ならどうか。
頭の中で無数の可能性が思い浮かんでいく。1つ1つ試して、潰していけばいい。思いついたことは全てやればいい。
それが創り出す者の性質だ。
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