下層ボス戦
ようやく下層のボスへ挑む時がやってきた。
俺が鍛冶をしている間の雑談でも話していたらしいが、怖いのは初見殺し。魔法禁止や武器効果無効などの部屋自体にかけられたギミックや、中層の巻き戻しみたいなボスの能力。
情報のない初見攻略が危険とされているのは、そういった初見殺しに遭いかねないからだ。
ダンジョン攻略において情報はなによりも大事。
ただまぁ、初見殺しを乗り越えられる強さがあれば話は別だが。
そして、俺達はその強さがあると踏んでいる。
“いよいよ情報なしのボス戦か”
“なんかこっちまでドキドキしてきた”
コメント欄からも緊張の声が上がっている。
俺達の顔つきも一層真剣なモノになっていたので、そこも含めてのことだろう。
俺達ならどんな相手が来ても乗り越えられる。そういう信頼があって、今ここにいる。
俺達は顔を見合わせて頷き、牙呂が代表してボス部屋の扉を押し開く。
流石に少し緊張もあるが、配信外できっちり打ち合わせしてきた。武器の貯蔵も充分だ。
そうして下層のボス部屋に入ると、中層より広く四角い室内が見える。ただしボスらしき影はない。
なにもない部屋だ。だが油断はならない。警戒してゆっくり歩いていると、一瞬の浮遊感と共に景色が切り替わった。転移だ。
「なっ!?」
牙呂の驚く声が聞こえてきた。ってことは、遠くに行かされたわけじゃないのか。気配は室内にある。全員無事だが、俺達5人が離れたところに移動していた。
周りを見渡せば、6人を分断するかのように半透明の壁が出現している。ロアだけが入り口近くに取り残された形だ。
「気ぃつけろ。なにが来るかわかんねぇぞ」
牙呂の注意を聞くまでもなく警戒は怠っていない。非常に珍しいタイプだが、パーティが分断されたということは各個撃破型のボス戦だろう。ロアのいるところだけ非常に狭くなっているので、非戦闘員の彼女のところにはなにも現れないと思いたいが。
警戒する俺達の前で床が開く。卵型のカプセルのようなモノが出てきた。……なんだ?
身構えていると、卵型カプセルの中に銀色の雫が落ちる。雫は大きくなっていくとやがて人型になり、
「えっ?」
凪咲の呆然とした声が届く。いや、俺も呆然としていた。
銀色の人型は俺の目の前で男の姿になると色をつけ衣装を構築し、よく知る人物の容姿となった。
というか、俺自身の姿がそこにあった。
“ファッ!?”
“5人のコピーみたいなの出てきた!?”
“なにそれ!?”
今頃コメントも騒然としていることだろう。
カプセルが開いて動き出す。表情はないが、紛れもなく俺の姿をした敵。ちらりと見ると他4人のところもそれぞれ同じ姿をした敵と対峙している。
不意に、眼前に投影ウインドウのようなモノが現れた。ロアかと思ったが、内容に目を通せば違うとわかる。
「……ここまで来た汝らを称え、試練を課す」
読み上げる声が他に4つ重なった。
「汝らの性能を模したコピー体を倒してみせよ。戦闘可能な者全員の勝敗が決した時、深層への扉は開かれる」
ダンジョンが文章で挑戦者に伝えてくることは、稀である。ダンジョンの主のようなモノがいればあり得るが、富士山のダンジョンもそのタイプなのだろうか。
「つまり、目の前のこいつをぶっ倒せと」
「そういうことみたいね」
「……面倒」
「大変そうですぅ」
「面白いな」
相手が自分であっても、負けるつもりはない。
常に己を超えてきたからこそ成長があり、進化する。
俺達は少し前の自分を超え続けてきたからこそ、屈指の実力を誇るまでになった。
なら今回も、超えてやるまでだ。
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