倒し方
白の純色竜の上位種らしきボスは、自らの死をトリガーに戦闘開始まで時間遡行させた。当然のように俺達の消耗はそのままだ。
“嘘だろ、嘘だと言ってくれよ……”
“こんなん無理やろ……”
“巻き戻しとか卑怯だ”
“しかもこっちの疲労とかはそのまんまっぽい”
“クソゲー”
「奏! 速攻で首落とせ!!」
「わかってる」
だが歴戦の探索者は、ずっと思考停止しない。すぐに動き出した。牙呂と俺、凪咲の魔法で食い止めて奏の一撃で一気に決めにかかる。
「――斬る」
避けられないように距離を詰めて放たれた斬撃がドラゴンの首を斬り飛ばした。倒れ伏すドラゴン。先んじて上を見上げていると、巨大な時計が上空に描かれていく。空気を素材に短剣を創って投げてみたが、擦り抜けてしまった。凪咲も魔法を放っていたが同じだ。
やがてドラゴンの身体が再生していく。そこを奏と牙呂が攻撃しに行っていたが、時間遡行中はドラゴンに攻撃が通らないようだった。
“さっくり2回目倒してて草、と思ったがなんだこれ”
“時計の方攻撃してもダメ、ドラゴン攻撃してもダメ”
“時計の方の動き止めないとダメなんかな……”
“どうやって止めんだよ”
“それがわからん”
再びドラゴンが復活する。どうすれば状況を打開できるかわからないが、相手は容赦なく攻撃を仕かけてくる。しかも奏に疲労が見えてきていた。
「あークソ! わからん!」
牙呂が頭をがしがしと掻いた。そして俺を見てくる。
「村正、お前に任せた」
「は?」
「オレにはこいつをどうやって倒せばいいかわからん。だからお前がなんとか打開策を見つけろ」
「なんで俺なんだよ……」
「お前ならできそう」
“人任せwww”
“適材適所?”
“できそうって割りとフィーリングで草”
急に投げられてしまった。そう言われても俺は思いつかないんだが。
「その間前はオレと奏で耐える。倒し方わかったら斬るから」
「ん。マサならできる。大丈夫。信じてる」
牙呂と奏はやる気だ。他2人の意見も聞きたくて振り返った。
「村正君なら大丈夫ですぅ」
「マサ君ならいけるって。こっち来て!」
2人も任せる気満々の様子だ。ただ凪咲になにか考えがあるようだ。
「アタシ、どうにかする手思いついちゃった」
「え? なら凪咲がやればいいんじゃないか」
「アタシができないことなの! そもそも時間遡行止める手立てなんて、同じ時間操作しかないでしょ?」
「あぁ」
言われてみれば。遡行を止めたければ、例えば時間停止をぶつけるとか。そういうことか。
「そういや凪咲は時間操作の魔法使えないんだったな」
「うん。だから思いついたんだけどできなくて」
“凪咲ちゃん天才!”
“思いついたはいいけど実行できないんじゃなぁ”
“そこでマサがどうにかするってわけか”
“どうやってよ”
“知らん”
“うーん……”
“時間を素材にして武器造るとか?”
“無茶言うなw”
“どうにかしてくれぇ……;;”
俺は凪咲の話を聞き、コメントをぼーっと眺める。その中でいいアイデアがあった。
……時間を素材に?
考えたこともなかった。だが光や闇が素材として使えるなら、可能性はある。
「……いけるかもしれない」
「ホント?」
「ただやったことないから時間が欲しい」
「了解、任せなさい」
凪咲がない胸を張った。おっと怖いなんでバレたんだろう。めっちゃ睨まれてる。
“マサマジか!?”
“頼む!”
“回数制限とかなさそうだったし、そろそろ体力的にキツそう”
“村正に俺らの命も預けたわ”
“重くしてどうするwww”
俺は集中するために瞑目して魔力を操作する。
視覚的にわかりやすく、そこにはない。
ただ実際にこうして時が流れているということは、そこに在る。
空気や光を素材にした時のように、時間の流れを素材として魔力で掴む。
決して停滞はせず、流動的なモノ。
そこに在るのに認識はできず、掴むのは難しい。
だが即興鍛冶を会得した時もそうだった。
手探り上等。できそうならやってやる。
「……はっ」
やがて、俺は確かな感覚を掴んだ。魔力を操作して一気に手繰り寄せる。
「牙呂、奏! いける! 倒せ!!」
「おうよ!」
「流石私のマサ」
前にいる2人に声をかけた。
「あなたのではありませんが流石ですマスター」
「ふふふ、流石ですぅ」
「マサ君ナイス!」
“マジで?”
“どうやんの!?”
“頼む、失敗しないでくれ……!”
“マサに命運かかってるからな!”
“こんな時でも争ってて草”
“奏ちゃんもロアちゃんもマイペースやなぁw”
無事、俺は感覚を掴むことができた。あとはドラゴンを倒すだけだが、そこは奏、牙呂、凪咲の連携でどうにかなっていた。
そして遂に、巨大な時計が現れる。
“来た!”
“来たぞマサ!”
“頼む村正ぁ!”
呼吸を整えて集中する。ここで失敗するわけにはいかなかった。ただ、失敗するとも思っていなかった。
「材質――時間」
“え?”
“は?”
“マジで言ってる?”
「形状――片手剣」
“時間を素材に……ってこと!?”
「構築完了――
俺は時間の流れを素材にして造り出した剣を掴み取り、上空へぶん投げる。
剣は通り抜けることなく時計に突き刺さった。
「時間の流れを断ち切る剣だ。貰っとけ」
時計にヒビが入り、広がり、砕け散る。
再生しようと動いていたドラゴンの身体が地面に落ち、そして2度と動くことはなかった。
奥へ続く扉が開き、今度こそ俺達は中層のボスを討伐したのだ。
“うおおおおおおおお”
“いええええええええ”
“やったああああああああああ”
“¥50000”
“¥50000 中層突破おめでとう!”
歓喜の声とスパチャがコメント欄で飛び交っている。俺達はと言えば、疲れて座り込んでいた。
「富士山のダンジョン、中層突破だ! ……クッソ疲れたぁ」
「ん。マサに癒してもらわないと立てない」
「しつこかったなぁもう」
「お疲れ様ですぅ」
「皆さん、お疲れ様でした」
正直俺もへとへとだったが、とりあえず。
――俺達の勝利。
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