上位種たる所以
「竜斬噛牙!! ――がっ!?」
牙呂の斬撃が鱗を裂いて傷を与える。だが即座に腕を振り回してきて勢いよく吹っ飛ばされた。壁に思い切り激突している。
「んんっ……!!」
一振りで無数の斬撃を生み出す奏の攻撃。だがドラゴンが爪に白い光を集中させて振るうと、一部相殺されてしまった。
「くら、え!」
槍が消耗して砕け散ってしまったので大剣のみだが、それでも充分は威力を発揮できる。思い切り魔力を込めて渾身の一撃を叩き込み、ダメージ与えた。だが怯んだのも僅かな間のみで、身体を回し尻尾の一撃で壁まで吹っ飛ばされてしまった。
怪我をしてもすぐ治癒の光が降ってきて治るのだが、息が切れてきている。体力の消耗も激しい。
というより、相手が慣れてきていた。
「
凪咲が無数の光線を撃てば、ドラゴンもブレスを細かく分けて放ち相殺してくる。
“なんか段々対応されてきてね?”
“追い詰めてるはずなのに、なんだろう学んできてる?”
“純色竜は知能も高いらしいからな”
“最初は牙呂の動きについてこれてなかったのに、動きを読んでるのかちゃんと攻撃当ててきてるんだよな”
“でも攻撃は入ってる”
“ダメージも蓄積されてるはず!”
“戦闘開始から2時間経ってるんだから!!”
“いける、いけるぞ!!”
硬い。強い、速い。賢い。特殊能力なんてなくたって強敵は強敵だ。政府の軍が敗退したのも頷ける。
ただこのまま押し切れるとは思う。桃音が近接戦をするほど追い込まれてもいないし、魔力にも余裕はある。武器の損耗は激しいが。
「押し切るぞてめえらぁ!!」
牙呂の一声が入る。当然、全員がそのつもりだ。
それから更に3時間が経過する。
“もう5時間も戦ってんぞ……”
“相手も結構傷ついてきてる、弱ってきてる!”
“消耗もあるだろうが、どうにか勝ってくれ!”
「迅雷
牙呂が両脚に雷を迸らせて強く踏み込み、瞬時に駆ける。ドラゴンを中心に反対側へ移動したかと思えば、遅れて一直線の斬撃が奔った。
「疾風怒濤ッ!!」
そこから更に駆け回り、無数の斬りつけを行う。ドラゴンが鱗ごと切り刻まれていった。
“出たぁ!!”
“迅雷アクセルからの疾風怒濤!!”
“一閃からの連撃、最高のコンボ”
“技名叫ぶタイプの配信者な”
“牙呂クンは少年の心忘れないから”
奏は直接斬りつけない分、武器の損耗は牙呂よりマシだ。そういう理由もあるのだが……牙呂の武器の損耗が予定より激しいな。いや、メンテなしで5時間ぶっ通しで攻撃し続けたらそら削れるか。
「奏、でかいの任せた! 牙呂!」
「了解!」
「ん。任された」
滅多に見られないが、奏に溜めを作らせる。その間俺と牙呂で持たせておこうと声をかけた。具体的に言わなくても通じるだろ。
「マサに任された。頑張る。いっぱい頑張る」
奏はその場に留まって剣を構えたまま力を溜める。
“奏ちゃんやる気漲ってるなw”
“そらマサに任されたからなwww”
“やったれ奏ちゃん!!”
“あれ、剣に魔力込めてね?”
“そういえば奏ちゃんが魔力使ったとこ、見たことない気が”
オリハルコン製の剣を持たせたはいいが、奏は魔力がそこまで高くない。剣を振ったら大抵のモノが斬れるのだから鍛える必要がなかったと言うべきか。ただオリハルコン武器でそれは勿体ない。というのもあって魔力を込める練習は武器を渡してからしていたらしい。
「――」
奏が極限まで集中する。吹き飛ばされながらも食いついて奏の邪魔をさせないようにしていると、奏のいる方から感じる気配に寒気がして、慌てて退避する。
「――斬る」
直後、奏が輝く剣を一振りした。これまでの斬撃と比べると、剣の振りが遅い。だがそれは弱いということではない。むしろ、力を十全に伝えるための速さにしているようだ。
ブゥ……ン。
剣が振り抜かれる。その後、ドラゴンの身体から血飛沫が上がった。
「ギャアアアアアァァァァァァァ!!!」
右腕と尻尾の先が斬り飛ばされ、身体に深く傷がつく。ここに来ての致命傷だ。
“きたあああああああ”
“やったあああああああああああああ”
“大ダメージやあああああああああ”
“奏ちゃんの新技強ええええええええええええ”
“ナイスううううううううううう”
コメントもきっと盛り上がっていることだろう。
俺は奏に向けて親指を立てる。向こうも笑顔で返してきた。
“奏ちゃんめっちゃ嬉しそうwww”
“斬ったことよりマサに褒められたこと、か”
“ガチ勢すぎんかwwwww”
「牙呂、決めるぞ!!」
「わかってらぁ!!」
奏が作り出した隙、チャンスだ。ここまでドラゴンを倒す。凪咲の魔法に援護されながら傷ついたドラゴンを追撃。している最中に大剣が砕け散ってしまった。やっぱり武器の消耗が激しいな。
「いくぜぇ、竜斬噛牙・乱舞ッ!!!」
動きを止めたドラゴンを、牙呂が切り刻む。
“いったれえええええ”
“決めちまえええええええええ”
弱っていたこともあり、牙呂の連撃がドラゴンの全身を斬り、鱗と肉を削ぎ落とす。
だが、マズい。
「ッ――!?」
首を狩るトドメの一撃前に、牙呂の武器がへし折れた。
“嘘だろ!?”
“ここで!?”
“もうちょっとだったのにぃ!!!”
牙呂が動きを止めてしまう。このままでは、一気にトドメを刺すことができない。奏に何度も魔力斬りをしてもらうのも危険だ。消耗が激しいので連発はできない。
ただ俺は武器の悲鳴が聞こえていたので、事前に準備をしていた。
「即興鍛冶――遠隔修復」
魔力を操作して、折れて砕けた刃を基に元の形を構築していく。
“は???”
“直った!?”
“あり得ん!?”
“意味わからね”
折れた刃が直っていき、牙呂が笑った。そして、
「これで、トドメだぁ!!」
トドメの一撃を再開。修復した二刀を振るってドラゴンの首に飛びかかり、見事に切断した。
首から大量の血が噴き上がり、ドラゴンの頭が地面に落ちる。
“おっしゃああああああ”
“やったああああああ”
“倒したあああああああ”
“中層突破じゃああああああああ”
呼吸を乱しながら、倒れたドラゴンを見下ろす。間違いなく強敵だった。だが上位種っぽいだけで、上位種らしき能力はなかった。まぁ基本能力が純色竜より高かったのはあったのだが。
疲れもあって勝鬨を上げられないでいた。コメント欄は大盛り上がりだろうが、それどころではない。
「……?」
なにかがおかしい。
ボスが倒れたなら、奥へ続く扉が開くはずなのだが。
全員思っていたのだろう。誰も勝ったとは口にしなかった。
次の瞬間、カチッ――時計の針が動いたような音が降ってくる。
“ん?”
“なんだ今の音?”
“時計?”
俺達は揃って上を見上げた。そこには、部屋全体を覆うほどの大きな時計が映っていた。
「……なんだ、ありゃ?」
牙呂の呆然とした声を聞いている内にも、時計の針が動く。カチッ。進んでいる? いや、戻っている。
“時計が逆回りしてるっぽい?”
“なにこれ”
“なんかのギミックか?”
俺はぐちぐちという音が聞こえてきて、ドラゴンの方を見る。
すると、ドラゴンの首が繋がっていた。あれだけ出ていた大量の血もなくなっている。
「……」
呆然として声も出せないままでいたが、他の四人も気づいたようだ。
俺達が見ている前で、時計が戻り、ドラゴンの傷がどんどん治っていく。いや、逆再生のように巻き戻っている? ドラゴンだけじゃない、部屋の壊れた箇所も治っていく。
“え?”
“は?”
“治ってる?”
“いやこれって”
“巻き戻ってるんじゃ……?”
誰も動けないまま、ドラゴンは最初に出会った時の状態にまで完全回復した。いや、回復という言い方は正しくない。
これは巻き戻し、時間遡行。
「ふざけてやがる……!!」
牙呂の吐いた言葉が俺達の内心を代弁していた。
即ち、仕切り直しである。
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