中層のボス
朝9時に配信を開始して、俺達5人は中層のボス部屋へ続く扉を開く。
装備も新しいモノに更新しているが、問題は牙呂と奏だ。思っていたよりも武器の損耗が激しく既に最後の武器、オリハルコン武器に変わっていた。オリハルコンの硬さがあればしばらく大丈夫だとは思うが、油断はならない。ただの純色竜であってもマイン・トータスより硬いのだから。
ボス部屋に入ると、白い厳かな雰囲気の内装が見えた。神殿のような雰囲気を感じる。
その奥に鎮座するのが中層のボス、純白のドラゴンだ。
トカゲのような身体をしていながらも、蝙蝠のような翼を携えている。真っ白な鱗は輝くようで、青い澄んだ瞳をしていた。ドラゴンの中には分厚い鎧のような鱗を持っているモノもいるが、造形がスマートだ。
“きちゃああああああああ”
“真っ白で綺麗なドラゴンや”
“は? 純色竜じゃね?”
“マジ?”
“いや、それなら大丈夫だろ”
“純色竜ソロ討伐済みが4人もいるんだしな!!”
“あれ、でもなんか、姿違う気がするな……”
コメントも大いに盛り上がっている。
「相手にとって不足はねぇ! いくぞてめえらぁ!!」
「いってらっしゃい」
「頑張ってねー」
「お前らもちゃんとやれよ!?」
“草”
“純色竜目の前にしてコントできる余裕があるのこいつらだけだろw”
“前見て前!”
“ブレス撃とうとしてね!?”
3人がふざけている間にも、相手は大きく息を吸ってブレス攻撃の溜めを作っている。そして顔を前に突き出すと同時に口から白い光線を放ってきた。軍隊の過半数を消滅させた攻撃だ。
事前の打ち合わせ通り、俺は前に出る。前衛2人は避けて接近していき、俺が後衛を守る。
ポーチから持ってきた装備を取り出す。身体全体を覆えるほどの大きな黒い盾だ。
黒い純色竜の鱗も使った、白や光の攻撃を吸収してしまう特別製。
「
踏ん張って衝撃に備える中、どんとブレスが激突した。
「っ……!」
流石に威力が高い。盾は耐え切れるが、踏ん張るのがキツかった。と思ったら背中を支えてくれる手があって止まる。このぱわー、桃音だ。
桃音の支えもあってブレスを防ぎ切り、盾が攻撃を吸収して吐き出せるかと思ったが。
盾が粉々に砕け散ってしまった。
「吸収し切れなかったか……」
同じ純色竜の素材を使った盾でもこれだ。
「黒の純色竜の鱗を使って造った盾が耐え切れなかった。やっぱ、あいつ上位種だな」
頭の中で思ったことだったが、視聴者にもわかりやすいように説明を口にした。
“ま?”
“純色竜の上位種とか聞いたことねぇよ……”
“でも確かに白の純色竜と見た目がちょっと違う気がする”
“資料少なすぎてわからんが”
“素材オタクのマサが言うなら多分そう”
コメントがざわついている。
「腐蝕連牙ァッ!!!」
接近した牙呂が腐蝕の剣を瞬く間に複数回振って攻撃した。だが、純白の鱗には一切の傷がついていない。どころか尻尾を振り回して反撃してきた。
「クソッ、硬ぇ!!」
「全力でいく」
避けて距離を取ると入れ替わりで奏が到着、両手で持った剣を高速で振り斬撃を叩き込む。が、ギキィンと斬撃が弾かれてしまっていた。
「むぅ」
ちゃんと全力だっただけに不満気だ。
「ちょっと退いてて!
そこを凪咲の魔法が追撃する。巨大な隕石が降ってきて、ドラゴンへと飛来。直撃して爆発が身体を覆った。
“どうだ!?”
“やったか!?”
“やってなさそう”
「グガアアアアァァァァァァ!!」
咆哮と共に巻き上がった煙を払いのける。全くの無傷だ。
“直撃して無傷かよ……”
“強化しててこれとか強敵すぎ”
“頑張れ皆ぁ”
苦しい戦いにはなりそうだ。だが、予想していたより強いということはない。なら、俺達は殺れる。
「窮鼠、ドラゴンを噛むってな。――
牙呂の二刀から放たれる強烈な斬撃が純白に2筋の赤い切れ目を入れた。
“出たあああああああ”
“青の純色竜とやった時に編み出した技!!!”
“対ドラゴンならこれだよな!!”
“お前ならやってくれると思ってたぞ!!!”
“健太ああああああああああああ”
「頑張ってマサに褒めてもらうのは私。――んんっ……!」
奏も負けじと気合いの入れた斬撃を放つ。剣を一振りするだけだが、無数の斬撃が放たれた。……「1回剣振っていっぱい斬れたら楽」という考えで編み出された技なのだが、実際強い。
“奏ちゃんもきたあああ”
“正式名称が決まってない凄いヤツ!”
“無限斬だろ常考”
“斬撃の雨嵐って決まったはずだが?”
“なんでもいいからwww”
全力振りよりも威力回数が高いという理屈がよくわからない技だが、相手に細かい切り傷をつけている。
傷を受けたドラゴンは暴れ回っているが、前衛2人は距離を取っていた。
「墜落、竜滅、流星。七夕とか流れ星とかって願い叶えてくれるよねっ。じゃあじゃあドラゴン倒しちゃって欲しいなお星様っ! 願い事、1つだけとか勿体ない! だからいっぱい星があればいいんだよ! いっくよー!」
変てこ詠唱から放たれる、凪咲の魔法。
「――
膨大な魔力によって生み出された魔法が天から降り注ぐ。デストロイ・メテオのようだが、巨大な星型隕石が無数に出現してドラゴンへと襲来していた。
“えっぐwwwww”
“やったれぇ!”
“いっけえええええええ”
大規模破壊魔法を見上げてドラゴンがブレスを放つ。威力は向こうの方が高いらしく、ブレスに貫かれて粉砕されていた。しかもブレスを放ち続けて流星群を撃退していく。
“うおっ、マジか”
“あれ全部防ぐのかよ”
“なんてこったい”
無傷でやり過ごしたドラゴンに驚く声も多いが、まだまだだ。
「やるね。じゃ、追加でっ!!」
笑顔の凪咲が言って追加の流星群が放たれる。ブレスを終えていたドラゴンはそれを見上げて固まり、星の群れに呑まれていった。
「グギャアアアアァァァァァァァァ!!!」
“えっぐwwwwwwwwww”
“凪咲ちゃんドSやなぁwww”
“ズドドドドドドド”
“痛そうw”
“悲鳴上げてますねぇwww”
“中層は思い切り魔法撃てなくてストレス溜まってただろうしなwww”
凪咲の容赦ない攻撃を受けて、ドラゴンは痛みに悶え苦しんでいる。
本来はただ星型の塊を落とす魔法なのだが、そこにドラゴンへのダメージを増加する効果を付与した魔法となっている。強い魔法が効かなかったら別の強い魔法を使えばいい。単純だがそれができる魔法使いは強いのだ。
「よし。桃音、これを」
俺は戦闘の様子を見て、桃音にポーチから取り出した新たな盾を手渡す。
「はぁい。村正君はどうするんですぅ?」
「俺も参戦する。その盾は光に強く、受ける度に強くなる盾だから多分大丈夫だろうが」
「はい、村正君の装備を信頼してますからぁ。怪我したらすぐ治しますからねぇ」
「ああ、任せた」
俺は後衛の守りを桃音に任せて、前線に参加することを決めた。
ポーチから2つの武器を取り出す。
青の三叉の槍。海洋水槍グライデント。水を放つ槍だ。
黒い片刃の大剣。竜滅魔剣グラム・ソラス。文字通りドラゴンに対して威力を発揮する剣だ。
“槍と大剣!?”
“しかも別々に持つんかいw”
“これまでに造ってきた色んな武器持ってきたらしいから、楽しみ”
俺は左手の槍に魔力を通して足元から水を発生させ、津波を起こす。そこに乗る形でドラゴンへと近づき、ぶつかる直前で跳躍して津波だけをぶつけた。
右手の大剣に魔力を込めれば赤い雷がバチバチと迸り、効果が強化される。
「お、らぁ!!」
ずぶ濡れになったドラゴンへと落下しながら大剣を振り下ろし、竜滅の雷を炸裂させた。
「グギャアアアアァァァァァァ!!」
ドラゴンの悲鳴が響き渡る。津波にもちゃんと効果があって、それは使用者の魔力による攻撃を増幅させるというモノだ。波に乗れるだけじゃなくて、きちんと相性も考えて取り出している。
「へへっ。んじゃ、片づけるぞ!!」
牙呂が笑って言い、俺達はドラゴンとの戦闘を続行した。
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