中層突破へ
第三階層を突破し、第四階層に来ていた。
「面倒」
奏が珍しく、やや険しい表情で剣を振るう。斬撃の攻撃力で言えば世界レベルに到達しているのだが、ガキンと斬撃が弾かれた。
「む」
だからこそ彼女は苛立っている。
相手は通路を塞ぐようにのそのそと歩く亀のようなモンスターだ。マイン・トータスと言い、鉱石の生えた硬い甲羅を背負っていて、攻撃力はほとんどない。ただ道を塞ぐことを目的としたモンスターだと思われる。
「ぜりゃぁ!」
牙呂の風と雷の斬撃が当たるが、倒せない。
凪咲の魔法が立て続けに放たれているが、倒せない。
「っ……」
正面から斬撃を繰り出していた奏だったが、バキンと持っていた剣が半ばからへし折れた。
“奏ちゃん1本目消費かぁ!”
“ここまでよく持った”
“今までありがとう!”
“硬い敵にあれだけ攻撃浴びせてたらそら折れるわな”
「マサの剣……」
奏はしょぼんとした顔で折れた刃の方もキャッチして、鞘に納める。それからもう1本の剣を抜き放った。
「死ね」
両手で思い切り剣を振るうと、今度は敵が両断される。
“おっしゃ!”
“硬い敵だったな”
“奏ちゃん怒ってて草”
“物理も魔法も耐性が高くて厄介だな”
“負傷者は出ないけど通せんぼしてきて武器を消耗させてくる敵ってことか”
“うへぇ”
“ただでさえ長いダンジョンなのにこういう嫌な敵出てくるのかw”
「んー……。こいつは厄介だし、とりあえず桃音に殴ってもらうか」
「いいですよぉ」
動かないから攻撃を当てやすい。しかも硬い。となるとこの中では桃音が一番の適任だ。
「今のモンスター厄介だね。ああいうのってどっかに柔らかい部分があってそこを突くことが多いんだけど。お腹の方まで硬かった」
「だな。ったく、嫌らしい敵ばっか出てきやがって」
マイン・トータスの甲羅は防具として素晴らしい素材になる。
「このマイン・トータスっていうモンスターの甲羅は今観ていただいたように非常に硬く頑丈なので防具の素材としては一級品なんですよしかも中身の肉が結構美味しくて。甲羅は盾にもなるんですけど重いので軽量化すると良くて、防具で俺より腕のいい鍛冶師さんがいるんですけどその人に持ち帰ったら良さそうですね俺も盾とか造ってみようと思うんですけど硬い盾ぶった切れる武器造るのが趣味になっちゃって――」
“圧倒的早口wwww”
“武器オタクが素材オタクじゃないわけないんだよなぁwww”
“このシリーズ配信一番のにっこにこで草”
「マサかわいい」
“おまかわ”
“奏ちゃんも笑っててかわいい”
“これが可愛いの連鎖反応、か……”
そして次にマイン・トータスに遭遇した時。
「えいっ」
どごぉんと桃音がメイスを叩き込んだ。床にヒビが入るほどの威力が叩き込まれたのだが、モンスター自身にはヒビしか入っていなかった。ただ重い身体が少し動いている。流石のぱわーだ。
「えーい」
もう1発。更にもう1発。桃音が笑顔でメイスを叩き込む度にヒビが広がっていき、奥へ押し込まれる。……あれ、なんか震えてね?
「終わりですぅ」
ふるぱわーで上から叩き込まれたメイスによってダメージが蓄積していた甲羅が粉砕して、中身がぐちゃっと潰れたらしく鮮血が噴水のように溢れ出した。そのせいで至近距離にいた桃音にかかってしまう。
「あら~。汚れてしまいましたぁ」
真っ赤な血を浴びながらこちらを振り返る桃音。恐怖映像である。
“ひぇっ”
“グロいよぅ”
“相手震えてるように見えたわw”
“そら怯えるだろ 徐々に自慢の甲羅壊されてくんだぞwww”
“桃音ちゃんのぱわーの前に平伏したか……”
「桃音、あたしの魔法で綺麗にしてあげるからそのままでいて。あ、ロアちゃんは映さないでね」
“ぬっ”
“なぬっ”
“濡れ濡れの様子が見れないだと?”
“ひっ”
“待って許してホラー画像に差し替えないでごめんなさい”
“ちゃんと視聴者に罰与えてて草”
結局着替えることになってしまったので男2人そっぽを向いて待つことになった。音に関してもロアがホラーなBGMを流すことで解決したようだ。
その後も桃音に対処してもらうことになったが、結局あと1体しか遭遇しなかった。無事次の階層、第五階層へと進む。その後も同じように迷宮を攻略していき、無事第十階層まで行くことができた。……まぁ、迷宮が広くて長いこともあって大分時間はかかってしまったが。
十階層に到達した翌日になってどうにか夜頃にボス部屋の前に到着した。
“遂に来たか……!”
“中層もボスまで来たか”
“2週間足らずでここまで来たって、やっぱ凄いよな”
“到達できるだけでも凄いんだよなぁ”
“政府の軍より強い5人組www”
「ま、キリいいし明日の朝から中層のボス戦と行くか。朝9時に配信開始すっからまた観に来てくれよなー」
“お疲れ様”
“ボス戦楽しみ!”
“通勤しながら観るわ”
“学校;;”
“応援はニートの俺様に任せとけ”
平日だからか、リアルタイムで観れないと嘆く人も多い。ただ無駄に休み続けても仕方ないので、どんどん進んでいくつもりだった。
そうして配信を終えてから、モンスターが出ないボス部屋前という環境を活かして作戦会議をしておく。
「村正」
「おう。中層のボスは、白いドラゴンだ。名称は不明。というか多分これまで他のダンジョンで出てきた記録がない」
「どんなドラゴンなの?」
「画質の問題があるから正確なことは言えないが、おそらく純色竜の1種だろう」
純色竜。モンスターの中でも最強種と言われるドラゴンの中でも最上位に位置する。とされているが実態は不明だ。普通の生物もそうだが、人間視点で言うと発見されなければわからない。世界にある富士山と同じような高難易度ダンジョンを攻略した記録がないので、上位の更に上位が存在するかはわからないのだ。
とまぁ、とりあえず現時点で最上位とされているドラゴンが、純色竜と呼ばれる8種。赤、橙、黄、緑、青、紫、白、黒のそれぞれの色合いをしたドラゴンのことだ。
「純白竜ってことか。まぁオレらはそれぞれ純色竜のソロ討伐チャレンジとかしてたから大丈夫だろうが……」
「いや、それだけじゃない」
純色竜のソロ討伐チャレンジとかいう地獄企画やるアホはどこのどいつだ、と思ったがそういえば4人共やってたわ。バカばっか。異常者しかないなここ。多分俺が一番まとも。
「映像が一瞬だったってのもあるが、ただの純色竜じゃない」
「純色竜の上位種ってこと!? そんなの聞いたこともないんだけど」
「俺も知らないけど、見た目がちょっと違ったんだよなぁ」
記録されている映像には、純色竜らしき白いドラゴンに軍の人達が薙ぎ払われていく様子と、負けを悟ったのか一目散に逃げ出す様子しか映っていなかった。ボス部屋は逃げ出すことを許さない仕組みが存在しているが、大人数すぎると例外があるのかもしれない。
「戦闘の様子とかは映ってなかったんですかぁ?」
「いや、全然。ブレスで軍隊が消し飛ばされていく様子しか映ってなかったし」
「衝撃的だけど、なくはない話ね」
「なんでもいい」
「ま、そうだな。オレらはただ勝つだけだ」
頼もしいヤツらだ。
ただ、どんな上位種なのかは見極めないとな。
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