イカレたメンバーを紹介するぜ!

 長い準備期間を終えて、俺達6人は富士山のダンジョン攻略に臨む。


「これから富士山のダンジョンに挑む、イカレたメンバーを紹介するぜ!」


 カメラ役は予定通りロア。ロアの視点で配信を行なっていく。

 配信チャンネルは俺のチャンネル。ロアや収納ポーチなど一番皆のためにお金を使ったということでそうなった。いや、チャンネル登録者数を少しでも皆に追いつかせようとしてくれているのだろう。


「まずはオレ。二刀使いの牙呂! 初配信で攻略したのは練馬のダンジョン! ダンジョンの最速攻略記録を127個持ってるぜ! 速さでオレに敵うヤツはいねぇ!!」


“きちゃーーーーー!!!!”

“牙呂おおおぉぉぉぉぉ”

“健太”

“牙呂おおおぉぉぉぉぉぉ!!!”

“うおおぉぉぉぉぉ”


「こんな時に健太って呼ぶんじゃねぇ!?」


 もしかしたら歴史的瞬間の始まりなのかもしれないのに、相変わらずの様子だ。


「次にアタシ。魔法使いの凪咲。初配信で攻略したのは奏主体だけど原宿のダンジョンね。その後完全ソロで攻略してる。日本で一番多くの魔法を覚えてる魔法使いって言われてる」


“凪咲ちゃーーーーーーん”

“日本最強!”

“日本の魔法使いの双璧だぜ!!”

“双璧;;”

“やwめwたwれw”


「せめてツートップって言え!」


 こちらも相変わらず。因みに双璧のもう1人は男の娘なのでそもそも女性ではないということを記しておく。


「奏。剣士。初配信は凪咲と一緒。ダンジョンのソロ攻略数は367個で、日本記録1位」


“マジでイカレてるぜー!!”

“奏ちゃーーーーーん”

“トリプルスコアつけての1位だからなぁwww”

“世界記録3位の最強剣士だぜ!!”

“本人があっさりしてるからコメントで補足するの草”


「次は私ですねぇ。ヒーラーの桃音ですぅ。初配信で攻略したのは渋谷のダンジョンで、特に記録はありませんねぇ。でも、どんな怪我でも治しますよぉ」


“桃音ちゃーーーーん”

“渋谷のダンジョンソロ攻略が凄いんだけどな!!”

“あそこ広くてモンスター数多いからなぁ”

“攻撃避けずに食らっても即座に回復するスタイル、痺れます!”

“即死攻撃キャンセルできる、世界屈指のヒーラー!!”

“圧倒的ぱわーも忘れちゃいかんぜよ!!”


「そして俺。鍛冶師の村正です。初配信で練馬攻略しました。記録とかないんで普通の探索者です。あと今回俺のチャンネルなんですけど、スパチャを初めてオンにしてありますので。スパチャは総額を等分します」


“鍛冶師としての記録ならいっぱいあるだろwww”

“オリハルコンの武器5本も造りやがった異常者www”

“鍛冶狂人”

“魔力量だけなら化け物www”

“スパチャオン助かる”

“¥10000 お前らに日本の未来を託した”


「最後に私。アンドロイドのロアです。基本的にはカメラになりますので映りませんが、攻略中の食事などを担当させていただきます」


“ロアちゃん!!!”

“噂の最新鋭アンドロイドか”

“見せてもらおうか、ZONBYのアンドロイドの性能とやらを!”


「つーわけで、この6人で富士山のダンジョンに挑戦するぜ。上層はさくっと行く予定だし、協会に頼んじゃいるがバカが押し寄せないとも限らない。さっさと入っちまうか」

「いいと思う。行くよ、皆!」


 牙呂、凪咲の順で後ろにあったダンジョンの入り口に向かっていく。俺はロアと並ぶ形で最後尾についていった。


 最初のオフコラボとは違って、全員戦闘用の装備を身に着けている。完全にガチだ。

 スパチャが投下されまくる配信開始から、厄介ファンの突撃を警戒して早速ダンジョンへ足を踏み入れていく。


 入口は富士山の麓にいくつかある。ただ全ての入り口が同じ空間に繋がっている。


 入ると、広大な草原だった。中に入ったのに空があって、ダンジョンが異空間なのだと否が応でも理解する。


「全員入ったな。村正、頼んだ」

「ああ。えっと、協会から秘密裏に入手した富士山ダンジョンの地図によりますと……」


 俺は腰のポーチから地図を取り出して広げる。


“そんなんあるのかwww”

“ロアちゃんそっち見て!”

“多分見せられないよ!”

“非売品のコピーでも貰ったんかw”


 極秘情報なのでカメラには映せない。映したら怒られてしまう。怒られるだけと言ってしまえばそれだけだが。色々融通してもらっているので、協会の意向には逆らわないようにしていた。


「オッケ。最短で行く予定だし、あっち方面だな」

「了解だ」


 富士山のダンジョンの構造は、上層が十階層ある。それぞれが広大な草原になっていて、1つ下の階層へ行く度にあり得ないほど広い草原の中からたった1つの階段を探さなければならない。地図がなければしんどいことこの上ないだろう。


 そうして歩いていると、初めての敵に遭遇した。


「止まってくれ」


 先頭を歩く牙呂が言って全員足を止める。


「向こうに黒い一団が見えるな。敵か?」


 基本的に俺は戦わない、支援する立場だ。協会との繋がりなど色々な伝手もあるので、情報提示は俺の役目だった。


「ああ。俺からは見えないが、黒い一団なら草原を闊歩してる骸翁軍で間違いないだろう」

「骸翁軍ってなに?」

「練馬の最奥に剣骸翁っているだろ? ああいうヤツの軍隊」


“深層最奥ボスの軍団wwwww”

“剣骸翁はそんなに強い方じゃないとは言われてるけど、無数にいて勝てる相手じゃないじゃんwww”

“これが地獄の富士山ダンジョンの洗礼ってヤツか……”


「なるほどな。進行方向的には、倒していった方がいいよな?」

「そらな」

「じゃあ蹴散らすか。とりあえず魔法の射程範囲まで近づくぞー」

「はぁい」


“全然危機感ねぇwwwww”

“流石日本最強の探索者メンバーwwwww”

“団体なら他にもいるけど少数精鋭じゃこの5人で間違いないしなwwww”


 というわけで、警戒しつつ近づいていくとようやく俺の目にも黒い集団が見えてきた。


“えっっっっっぐ”

“なにあれ、めっちゃ怖い”

“ロアちゃんズームやめて!!!”

“生きた心地しねぇわ”


 どうやらロアがズームで見ているらしい。俺もウインドウを出してもらって映像を確認した。


「なるほど。事前の情報通り100体規模の軍団みたいだな」

「うへ、めんどくせ」

「凪咲」

「わかってるって。まずはあたしの出番だね」


“絶望感じてなくて草”

“頼もしいわwwwww”

“ボスが100体とか絶対行きたくない;;”


 それから向こうもこちらに近づいてきているようだったので、最終的に500メートルの距離まで近づいた。そこであちらも気づいたようで、ぴたりと軍隊が歩みを止める。


「それじゃあいくよ!」


 凪咲が手に持った杖を掲げて、魔力を高めていく。


「撃墜、粉砕、破壊。兎に角ぶっ壊すって概念詰め込んで。お鍋でぐつぐつ煮込んじゃえ。そしたらほぉら、おっきいおっきい石の出来上がり」


 凪咲独特の変な魔法詠唱を経て更に魔力が高まっていき、杖の先に魔力の渦が集束していく。魔力が空気を揺らし、とんがり帽子と赤茶色のツインテールを激しく揺らす。彼女は杖を持っていない左手で帽子を押さえていた。


“出たw”

“きちゃーーー”

“相変わらず変な詠唱だwww”

“カッコ良くないけど凪咲ちゃんらしいw”

“来るぞ来るぞ!”

“上から来るぞ!!”


 視聴者にとってはお馴染みの詠唱なのだろう。なんの魔法かわかっているのか盛り上がっていた。


「――隕石ぶつけちゃえデストロイ・メテオ!!!」


 デストロイ・メテオ。数ある魔法の中でもかなりの広範囲殲滅力を持つ魔法の1種。

 詠唱を終えると杖の先にあった魔力が天へと昇る。弾けたかと思うと、偽物の空から巨大な隕石が顔を覗かせた。隕石はそのまま黒い軍団へと落ちていく。


“きちゃああああああああ”

“相変わらずイカレた魔法だぜwww”

“親方! 空から隕石が!!”

“これ相手の方が絶望だろwwwww”


 骸翁軍も逃げようとはしていたが、動かなかった。いや、動けないだけか。


「こーゆー大技って隙が大きいから、動き止めて打たないと当たらないんだよね」


 悪戯っぽく笑う凪咲。本命の魔法を詠唱している間に詠唱なしで魔法を発動させていたのだろう。地面から伸びた蔓が敵に絡みついてまともに動けないようだった。


「どかーん!!」


“どかーん!”

“どっかーん!!”

“どかーん!!”


 恒例なのか、着弾と同時に凪咲と視聴者が叫んでいく。コメント欄が「どかーん」で埋め尽くされていた。


 隕石は着弾と同時に爆発して周囲一帯を巻き込み、消し飛ばす。それでも何体か生き残っていたのは、流石ボスに選ばれたレベルのモンスターと言うべきか。


「んじゃ、残りはオレと奏で片づけるか」

「ん」


 残り12体というところまで激減した軍隊に対して、前衛の2人が武器を抜く。


 同時に駆け出したが先に到達したのは牙呂。速さで負けないと宣うだけの速度があり、相手が構えるより速くに近づくと右手の凍牙を振るい凍てつかせて仕留める。続けて2体目も焔爪で葬っていた。

 普通に戦うと鎧が砕けて第二形態に移行するのだが、中身ごと倒してしまうことで形態変化させないようにしている。


 続いて到着した奏だったが、牙呂よりは遅いので相手に気づかれて身構えられてしまった。


 ただし、奏の前で防御は無駄な行為だ。


「邪魔」


 一言言って剣を片手で振り抜く。それだけで身構えていた相手は動かなくなり、その後ろにいたヤツらも同じ方向に切り裂かれて倒れていった。


“出たwwwwwww”

“奏ちゃんの化け物斬撃wwww”

“ラグなし斬撃じゃあああああああ”


 剣の間合い以上に攻撃を飛ばす、斬撃を飛ばすというモノ自体は存在する。トップレベルの剣士ならできることだ。ただ飛ばす都合上剣の振りより遅れてしまう。

 その遅れが一切ない、異常な斬撃を放つのが奏だった。


 化け物斬撃だのラグなし斬撃だの言われている、奏が正真正銘の化け物だとする技の1つである。


 ……ただまぁ、本人としては「何体もいるし何回も剣振るの面倒。1回で全部斬った方が早い」くらいの感覚でやってるのだが。紛れもない天才と言えよう。


「あらあらぁ。これじゃあ、しばらく私の出番はなさそうですねぇ」


 桃音が全く残念に思っていない笑顔で言った。


“こいつら化け物すぎるwwwww”

“雑魚になったボスさん;;”

“化け物より化け物な3人に全滅させられてらwwww”

“やっぱこいつらだよなぁ”


 頼もしい仲間達のおかげで、順調に進んでいく。


“流石、日本が誇るイカレたメンバーだな”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る