2本一対

 腐蝕の竜牙を3本、オリハルコンに溶け合わせる。するとオリハルコンの色が透き通る白から赤紫色へと変化していった。


“色変わってきたな”

“これが素材が溶け込むってことか”

“でもオリハルコンから煙吹いてるんだよなぁ”

“オリハルコン自体に腐蝕の効果が与えられたってこと?”


「そうでしょうね。ここからまたオリハルコンを伸ばす過程に入ります」


“長いやつやw”

“おやすみなさい”

“寝る気のヤツいて草”

“実際いい音だから寝れる”

“夜になってるしな”

“そもそも平日の昼間から配信してて一回も休憩挟んでないのがおかしい”

“休憩して! って言いたいけど楽しそうではある”


 その後も村正はコメントのことなど一切気にせず、時間の経過すらないかのようにオリハルコンと向き合っていた。


“おはよー”

“おっす”

“まだやってるー?”

“離れる前と画面の様子変わってないんだがw”

“オリハルコンはもうめっちゃ伸びてきてるんだけどな”

“休憩した?”


「休憩はしていません」


“マジかよwww”

“配信時間80時間越えwwwww”

“よくぶっ倒れないな”

“アドレナリンどばどばなんかね”

“二刀ってことはこれをあともう1回繰り返すんだろ?”

“うげぇ”

“鍛冶って大変だわ”


 村正は叩いて伸ばして刃の原型を造り、研磨を行う。そこでも普通の研磨ではオリハルコンが硬すぎてどうにもならないので、魔力を込めてオリハルコンに負けないようにしなければならない。


“すっげ”

“魔力の波紋めっちゃ出てるwww”

“ずっと魔力使ってて切れる様子がないのは凄い”

“凪咲ちゃん以上ってのも嘘じゃなかったか……”


 装置で薄く伸ばした原型の片側を更に薄く変えていく。研磨を終えてから水に浸けて布で磨くと、赤紫色の透き通った綺麗な刃が現れた。


“おぉ……!”

“めっちゃ綺麗!”

“90時間の成果かこれが!”

“腐蝕オリハルコンの刃や”

“思ったんだけどこれ村正にしかできないんじゃね?”

“言うなwww”


 続けて刃だけのそれを剣にしていくため、柄や鞘などを造っていく。


 そうして、配信開始から150時間が経過した頃。


「出来た!!!」

「おめでとうございます、マスター」


 村正が出来上がった片刃の剣を掲げて嬉しそうに言った。


“うおおおぉぉぉぉぉぉ”

“遂にオリハルコンの武器が!!!”

“完成したというのか!!”

“歴史上初の光景が今ここに!!”

“玄人好みの配信だなwww”


「ではマスター、一旦休憩を――」


 ロアは声をかけたのだが、村正は上機嫌なまま次のオリハルコンを手に取ってしまう。カメラには伸ばしかけたロアの手が映っていた。


“完全に聞こえてなくて草”

“なるほど、これが鍛冶バカ”

“え? もう次行くの?”

“ここまでで150時間だから、単純に300時間かかる計算だぞwww”

“流石にぶっ倒れそう”

“倒れる前に休憩してくれ……”

“声聞こえないくらい楽しいなら、終わってからぶっ倒れる感じかな”


 結局、村正はその後も同じペースで作業を続けて、配信開始から300時間経過間近というところで。


「出来たーーーーっっっっ!!!」


 大声で叫ぶ声がして、村正が手を止めた。その顔は汗だくで汚れていたが、達成感に満ちている。


“寝てたわ”

“起きた”

“お疲れー”

“ゆっくり休んでくれ;;”


「マスター、お疲れ様です」

「ああ。ロア、作業中場を持たせてくれてありがとな」

「いえ。それより、造った武器を紹介して配信を終了しましょう」

「あぁ、そうだった。配信してたんだった。どれくらいかかった?」

「もうすぐ配信開始から300時間経過します」

「そんなもんか。意外と早く終わったな」


“300時間が早いとかイカレてやがるwww”

“鍛冶師じゃなくて鍛冶狂人だろこれwwwww”

“オリハルコンを扱ったと考えれば成功しただけで凄いんだけどな”


「マスター、まずは座りましょう」

「あぁ、別にいいよ」


“ロアちゃんが心配してるw”

“本人は一切疲れが見えないのはどうして?”

“イカレてやがるwww”


「それより武器紹介だろ? ほら、これがオリハルコンを使った、1本50億円分の素材を注ぎ込んだ剣だ」


 村正は笑顔で2本の剣をカメラに近づける。

 腐蝕の剣は赤紫色の刃。浄化の剣は白色の刃。どちらもオリハルコンが硬すぎることから真っ直ぐの刃をしている。刃渡りは30センチ程度と短めだ。


「こっちが腐蝕の牙・シドゥラ。こっちが浄化の羽・ニフィル。オリハルコンの持つ魔力増幅の効果によって、魔力を流し込むとそれぞれの能力が発動、高められて再現される。オリハルコンを素材にしてるから魔力を流すと光るのも特徴の一つかな」


 村正から敬語が抜けていた。鍛冶の余韻で高揚しているのだろう。

 カメラに見せたまま魔力を流し込んで二刀を光らせる。


“透き通るような刀身も綺麗だけど”

“光ってるとより綺麗だな”

“これが健太君の武器になるわけね”

“牙呂の戦場:健太って呼ぶんじゃねぇ!”

“こんな時でもツッコミは欠かさないw”


「さて、最後の確認だ。これで失敗か成功かわかる」


 村正は言って2本の刃をゆっくり近づけていく。


“えっ?”

“完成って言ってたから成功したもんだと……”

“最後の確認ってなにするんだ?”


 コメントが困惑する中、2本の光る刃がキン、と触れた。だがなにも起こらない。なにも起こらなかったことに、村正は笑みを深めた。


“?”

“……?”

“なにも起こらなくね?”

“まさか失敗したんじゃ?”

“嘘だろ……”

“失敗!?”

“いや、多分だけど違う”

“失敗だったらマサ君笑ってないんじゃない?”

“それもそうか”

“だとしたらなにを確認してんの?”

“多分だけど……そもそも腐蝕と浄化っていう相反するモノなわけだから”

“あぁ、反発とか激突とか起こりそうなもんだよな”


「寸分違わぬ調節。完全に同一の力。俺の魔力を練り込むことによってそれぞれがそれぞれを対の存在だと認識させる。――完璧な夫婦剣だ」


 村正は笑って告げると、二刀を鞘に納めた。


“あぁ、そっか”

“夫婦剣、つまり対にして同一”

“元々別のモノを魔力で同一にして、力の強さを揃えたと”

“夫婦が互いに56し合うわけないもんな”


「調節が僅かでもズレると互いに相反する嫌いなヤツになるから、互いにぶっ壊そうとして粉々に砕け散るんだけどな」


“ひぇ”

“笑いごとじゃねぇだろwww”

“もしそうなってたら100億パァ…ってこと!?”

“こうなるまでに失敗重ねてるんだろうが、きっついなwww”


「というわけで、100億円分の素材を使って武器を造ってみた、でした。後で牙呂には150億円で売りまーす」


“利益が原価の半分か”

“まぁ妥当か”

“失敗するとマイナス100億って考えたら良心的じゃね”

“これまでに失敗した分考えればまともなお値段”

“金額はエグいからな? おまいら狂ってんぞ?”

“牙呂の戦場:おう! 買った!”

“躊躇ねぇw”

“いや、実際金さえあれば俺も欲しい”

“オリハルコンを使った武器って表に出されてないからなぁ”

“ぶっちゃけ倍の額で転売しても買うヤツはいそうw”

“造ったとしても話題になりすぎると困るよなぁwww”

“村正は富士山ダンジョンに行く面子で劣ってるとか言ってるアホいたからこれくらいやってもやりすぎじゃない”


「それじゃあ、今回の配信はこれで終わりたいと思います。他3人の武器も2本目は同じ感じで造ろうと思ってるので、要望があればまた配信でやりたいと思います」


“お疲れ様”

“いいBGMだった”

“ゆっくり休んでくれ”

“ロアちゃん、しっかり癒してやるんだぞ”

“これからも偶に配信で頼む”

“楽しみにしてるぞ”


 そんなわけで、前代未聞の長時間配信はこうして幕を閉じたのだった。

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