最強で無敵のアンドロイド

「えっと、じゃあ失礼して……」


 俺はロアの頬に触れてみる。ふにっ。柔らかな感触が伝わってきた。


「お、おぉ……。人の肌と感触が一緒だ」

「YES、マスター。私の肌の触り心地は変形した身体の年齢、性別などを基に再現されます」

「へぇ」


 頬をふにふにと触り、首、肩、腕へと移す。どこを触っても確かに人肌だ。温もりがないだけか。


“肌の感触を再現、だと……!?”

“そんなんもう最高やん”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>所詮作り物”

“奏ちゃんwww”


「体温は調節可能となっており、冷たい肌から人肌、熱いと感じる温度まで上げることができます」


 放して自分の肌を触ってみた。やはり男だと肌の硬さがあるので感触が一緒とは限らないが、人の肌を触っているという実感があった。凄い技術だ。


「つまり、マスターが使っている電動――」


 ロアがなんか余計なことを言いそうだったので反射的に口を塞ぐ。


“えっ?”

“電動?”

“なんのこと?”

“さーて、なんのことだろーなー”

“やっぱマサも男なんやな”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>そんなにしたいなら言ってくれれば良かった”

“問題発言で草”

“理解してそうなのも草なんだが”


「待って。なに言い出してんの?」

「マスターのお世話をすることが私の使命だと申し上げたはずです。そこには性処理も含まれます」

「いやだからなに言ってんだって!」

「? 私は人間をサポートするために生まれたアンドロイドです。先ほど料理で食欲を満たした行為となにか違いがありますか?」


 案件配信なのにこれでいいのか……と頭を抱えてしまう。倫理観どうなってるんだ。いや、アンドロイドだから三大欲求が全て重要であるという理解なのか。人間であることの証みたいなモノだから、と。


“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>は???”

“奏ちゃんブチギレwwwwww”

“えっっっっっ”

“真面目に言ってて草”

“確かに、アンドロイドからしたら人間の三大欲求を満たす行為の違いなんて理解できんか”

“なんだそれwww”


「マスターの要求を満たすことが私の使命。であれば、需要を満たす行為は全て私が管理するべきです」


 ロアが寄ってきてしな垂れかかってくる。体温を調節したのか人肌と同じくらいの温度があった。


「マスターのご命令一つで、どんなことでも行います」


“えっっっっっ”

“今なんでもって……?”

“そら万能アンドロイドやしな”

“ドローンちゃんの時より積極的やんwww”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>マサにべたべたするな”

“奏ちゃんwwwwwwww”

“ずっといるなw”

“いやこんなん目離せないだろ、マサガチ勢としてはwww”


「いや、そういうのはいいから」

「そうでしょうか? マスターの頻度から考えて、そうは思えないのですが」

「そういうのいいから!」


“村正が慌ててるとこ初めて見た”

“プライベートがんがんバラされてて草”

“マサ……お前も男やったんやな”

“可愛い女の子が周りにいて手を出してないっぽかったから一部で変な説出てたけど、これなら払拭されたなwww”

“良かったな、マサwwww”


「いいから、とりあえずそういうのはなしで。というかロア達アヴァダの宣言なんだからそういうの言っちゃダメじゃない?」

「そうでしょうか。そもそもアヴァダのコンセプトは『あなたの全てを管理する究極のアンドロイド』ですから。マスターの携帯に電話がないことからも、黙認されていることは明白です。それに、変形が可能ですのでマスターの好みや気分に合わせて形を変えることができます」


 確かにそんなキャッチフレーズあった気はするが。


「マスターの所持している18禁作品に準じた形になることも可能ということです」

「そうやって暴露してくのやめて!?」

「かしこまりました。巨乳幼馴染み系はないようでしたので、私としては問題ございません」


“ZONBYやるやん”

“金持ちの道楽だろうが、色々と需要を満たしてるわけか”

“巨乳幼馴染みwwwww”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>喧嘩売ってんの?”

“特定の人攻撃されてて草”

“あれ、ロアちゃんコメント見てるのか?”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>あるに決まってる 昔仕込んだから”

“wwwww”

“草”

“自分から押してくタイプかwww”

“マサに関してはとことん積極的だなwww”

“これ、ロアちゃんも奏ちゃん意識してるっぽいな”

“マサモテすぎ”

“爆発してまえ”


「ん? なにかと思ったら、奏が来てたのか」


 コメントを見ていなかったから気づかなかった。というかロアが特定のヤツのことを言ってそうなのがわかったから。


「マスター、気にする必要はありません。今この場にいる、私の良さを紹介する配信ですから」


 ロアがより身体を寄せてきた。


“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>いいから離れろ”

“べったりで草”

“これは奏ちゃん憤タヒ”

“思いっきり煽られてて草なんだが”


「ロア、とりあえず配信をまとめたいんだが」

「YES、マスター。それでは、続きは後でゆっくりと行いましょう」

「そういう意味じゃないから」


 なんだか個性が出てきて大変そうだ。まぁ完全に機械っぽいよりは接しやすいと言っておくべきか?


「一旦座るか」

「はい」


 俺がPCのカメラの前に胡坐を組んで座ると、ロアが俺の上に座ってきた。


「えっ?」

「?」

「なんで俺に上に?」

「これまでもそうしてきたと思いますが、ダメでしたでしょうか?」


 困惑してしまったが、ロアの言葉を聞いて納得する。そういえばドローンの時はここが定位置だったな。


「まぁ、いいか」

「はい」


 外見が変わっても中身は変わらないんだな、と少し嬉しく思ったので拒絶しないことにした。


“ドローンちゃん時代の記憶ってヤツか”

“かわいい”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>狡い”

“羨ましがってて草”

“おいマサそこ変われ”


「ぐだぐだしてきたんでそろそろまとめますね。料理の時にわかってもらったと思いますが、このAVADAは耐水耐火性能が高いです。他にも機械ですが耐電性能も高い、というか魔法に巻き込まれても壊れにくい耐久性能が備わってますね」

「他にも防刃防弾など様々な性能を備えています。また、多少の故障でしたら自動で修復可能です」

「そんな感じで高性能なアンドロイドAVADAですが、皆さんなんでこのタイミングで案件が来たんだと思います?」


 説明しながらコメント欄に質問を投げる。


“なんでこのタイミングか?”

“確かに結構急だよな”

“金持ち専用アンドロイドって感じだろうし、一般向けに配信させる意味もわからんかも”

“商品提供ってことはロアちゃん自体が依頼料ってことだろ?”

“ロアちゃんタダで貰ったって考えたらそれ上回る利益ないとな”


 コメントは考えつつも、答えを出しはしない。それを言うのが俺の役目だとわかっているからだろう。


「答えは、俺が富士山のダンジョンに挑戦するからです。その時に、撮影役も兼ねてロアを連れていこうと思っています」


“やっぱりか”

“そりゃそうだよなって感じ”

“ロアちゃんも加わるわけか”

“戦闘はもう充分だろうし、それ以外をカバーする役割ってことかな”


「はい。マスター含め“五帝皇”の皆さんをサポートさせていただきます」

「その呼び方しなくていいから」


 実際に呼ばれると気恥ずかしい。なんかカッコつけすぎてる感じがする。


「とまぁそういうわけで、メタい話をするとそういうところでサポートしている様子を大勢の人が見ることで販促しようってわけですね」


“メタいwww”

“公式案件で言っていいのかwww”

“まぁそれ以外にないってわかることだし”


「さて、最後になりましたが、皆さん。これだけ高性能なアンドロイドが一体いくらなのか。気になりませんか?」


“気になる!”

“でもお高いんでしょー?”

“絶対高いwww”

“買えるヤツいんのかなwww”

“大富豪向け配信w”


「はい、まぁ高いです。お値段なんと! 5681億円です!」


“クソ高ぇwwwww”

“買えないだろこんなんwww”

“配信者でも買えるヤツいんのかって値段じゃんwww”


「まぁ、そうですよね。そうなります。俺もこんな凄い値段の製品を提供いただけるのかと驚きました。流石に自腹だと厳しいですからね」


“買えないとは言わんのかwww”

“一回の鍛冶依頼で数十億稼いでるにしても凄いなw”

“欲しい……けど買えるわけねぇw”


「商品は予約制で、概要欄に貼ってある特設サイトのリンクから予約してください。因みに本来は厳正なる審査を通過しないと購入できませんので、ご注意を。販売は今から半年後を予定しているそうですが、先着と言うほど簡単に審査が通過できないので慌てず、よく考えてからご購入ください。家より高い買い物ですからね」


“そらそうだw”

“家の何千倍だよって話w”

“いや、アンドロイド買うような富豪なら家ももっと高いはず”

“ツッコミどころはそこじゃねぇw”


「量産体制が整っていないそうなので、現在は限定十体の販売予定となります。ご予約はお早めに」

「私の仲間達が、良いマスターの下へ届くよう願っています」


 色々あったがいい締め括りになったんじゃないだろうか。

 今回の案件内容も抑えるし、時間も丁度いい感じだ。


「それじゃあ今回の配信はこんなところで。今後もうちのロアをよろしく」

「よろしくお願いします。精いっぱいマスターをサポートさせていただきます」


“ロアちゃんよろしく!”

“お疲れ”

“乙ー”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>いらない”

“まだおったんかwww”

“奏ちゃんもよう見とる”

“今後の活躍に期待!”


 そんな感じで、一応大成功を収めたらしい。

 後で協会経由でというかZONBYには謝ったのだが、あれで良かったらしい。ZONBYの担当者さん的にはロアが娘みたいなモノらしく、電話を代わって欲しいと言われて少し話していた。


 ……奏から鬼電があったのだが、とりあえずメッセージだけで済ませることにした。

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