進化したアイドル

 ドローンのAIチップを移し替えたアンドロイドの変化を待っていると、次第に明らかな変化が訪れていく。


 つるっとした特徴のない素体が蠢き、変わる。


 160センチくらいの素体は大きさそのままだったが、体格が露わになっていく。

 どうやら女性型になるようだ。日頃からアイドルとかちゃんづけとかしていたからだろうか。


 胸部に膨らみが生まれ、腹部がきゅっと細くなり臍の位置が上がる。身体つきは完全に女性のそれとなっていた。

 頭部から長い白銀の髪が生えていき、目鼻立ちがくっきりと形を成す。


 そうして出来上がったのが、血の通っていない白い肌に銀のラインが入ったボディの美少女アンドロイド。


 彼女が目を開くと、綺麗な青い瞳が現れた。睫毛や眉毛まで繊細に再現されている。服を着せれば普通の人と見分けをつけづらくなるだろう。

 瞳には機械っぽさが残っているが、遠目から見て見分けるのは難しいくらいだ。


“うおおおぉぉぉぉ”

“かわいい”

“普通に可愛い子になってるやん”

“我らがアイドルの再誕や!”


 コメントも非常に盛り上がっているが、俺も現代の技術はここまで来たのかと驚愕していた。もちろんオーバーテクノロジー、魔力やダンジョン素材を利用して造られたのだろうが。


 開かれた瞳が動いて俺を見てくる。見た目としては無機質で浮世離れした美少女といったところか。


「マスター」


 青白い唇を開き、淡々とした声を発する。発声器官も備わっているようだ。声としては機械音声感が少なく、人にしては抑揚がなさすぎるくらいだろうか。


「個体名の登録をお願いします」

「個体名?」

「はい。マスターに仕える専用アンドロイドとしての個体名になります。製品としての識別名は長く、アヴァダは全体の名称です。よって、個体名の登録を推奨します」


 つまり名前をつけてくれと。


“名前つけてってことか”

“はい! アンちゃん!”

“ドローンちゃんの印象が強いしなぁ”

“アイドルとAIから、アイとか?”


 コメントでも積極的に案を出してくれている。それを眺めながら、どうせならコメントに流れていない名前にしようと思った。


「わかった。じゃあドローンとアンドロイドから一文字ずつ取って、ロアとしよう」

「かしこまりました。個体名“ロア”、登録します」


“ロアちゃん!”

“新たなアイドル・ロアちゃんの誕生だ!”


 コメントも一丸となって名前を呼んでくれる。


 それからロアは人型の窪みから抜け出して、自らの足で立った。


「あぁ、忘れてた。案件配信中だったわ。というわけで、AIチップを移し替えてロアが誕生しましたと。科学技術と魔法技術なんかを組み合わせて出来た、最先端の高性能アンドロイドというわけです」

「YES、マスター。アヴァダは万能アンドロイドを謳っています。これからそちらをお見せする流れでよろしいでしょうか?」

「え? あぁ、そうだな。とりあえずわかりやすいところ、料理からしてもらおうかと思うが」


 ロアから積極的に進行してくれて非常に助かる。優秀だな。


“早速状況把握して進めてるじゃん”

“考える能力上がってるよな”

“ドローンちゃん;;”

“未だにドローンで泣いてるヤツいて草”


「ではキッチンへ向かいましょう。その前にカメラの視点を私へと移したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ。そんなこともできるのか?」

「YES、マスター。私は現在ほぼ全ての電化製品と繋がっています。切り替えますので一度画面をオフにしますね」


 ロアの言葉通り、配信の画面が黒くなった。カメラの機能を停止させたのだろう。既にPCまで同期されているようだ。


 それから再び配信画面が点いた時には、ロアの視点で部屋が映っていた。


“おっ、もう切り替わってる”

“物理接続いらずなのは当然として、メーカー違いとか一切関係ないのが凄いよな”


「マスター、配信の様子やコメント欄はこちらに映し出します」


 ロアが掌を上に向けて言うと、いつもPCで見ているような画面構成でホログラムのように画面が投影された。カメラの写りやコメント欄の配置、視聴者数などが表示された配信側の画面と、コメント欄だけを抽出した画面がある。


「おぉ。ハイテクだな」

「最先端のアンドロイドですので。では料理を実行します」

「ああ」


“すっげ”

“ヤバすぎだろ性能”

“やっほー”

“触れるヤツか?”


「投影ウインドウは触れて操作することが可能です」


 キッチンに移動するロアが答えた。コメントを見ていないのだが、機械として通しているので常に読んでいる状態なのか。凄まじいな。

 コメント欄を指でスクロールして実際に触れることを確かめた。


 俺もキッチンで後ろからロアの様子を眺める。


「この画角ですと手元しか映りませんので、切り替えます」


 ロアは手元を映すだけではイマイチと感じたのか、また手を出した。掌から小さなドローンが出現して飛び立ち、カメラの視点が切り替わる。


“ドローンちゃん!!;;”

“手からドローン出てきたんだがw”

“ドローンちゃんガチ勢大歓喜”


「この辺りでいいでしょう。エプロンをセットします」


 やや上から手元とロアを映す角度で停止させると、ロアはどこからか青いエプロンを出現させて纏った。瞬時に纏ったので異次元収納機能から出したのか。


 ただその、元が服のない恰好だったからか危うい恰好になっている。


“さっきまでそんな風に見えなかったのに、エプロン追加で裸に見えるwww”

“えっっっっ”

“裸エプロンいいね”

“村正くーん、そういえば後ろってどうなってるのー?”


 案の定コメント欄が盛り上がっていた。後ろは……あまり映せないな。ほぼ尻丸出しだ。形だけだろうが、形だけで充分なのだろう。無視しておくべきだ。


「では始めます。器具や食材、料理の指定はありますか?」

「いや。そんなに時間をかけずに作れればいいかな」

「かしこまりました。簡単に、とのことですのでチャーハンにしましょう。冷蔵庫にご飯の残りがありますので」


 そういうとこも管理してるのか。万能の名は伊達じゃないな。


 それからロアは、俺と視聴者が見ている前でテキパキと調理していった。どこになにがあるのかも把握されているらしく、迷いなく進めていく。


「どうぞ、マスター。召し上がってください」


 美味しそうなチャーハンが完成する。テーブルの上で座って待っていた俺は、いい匂いと美味しそうな見た目で腹が鳴った。

 アンドロイドという味覚がなさそうな彼女が作った料理が果たして美味しいのか、注目が集まる中俺はいただきますと手を合わせて食べてみた。


「ん! めっちゃ美味い!」

「ありがとうございます」


 思わず素の反応をしてしまった。


“めっちゃ美味そうな顔してらw”

“料理技術も機械だからか達人級だったしな”

“味つけもデータを参考にしてるのか完璧っぽかったし”

“見てると腹減ってくる”

“飯テロ”


 結局すぐに食べ切ってしまった。


「ご馳走様でした」

「お粗末様です。マスターに喜んでいただけて幸いです」

「実際美味しかった。今後はロアに任せて良さそうだな」

「YES、マスター。今後ともマスターの要求を満たせるように尽くします」


“ワイもご飯作ってくれる彼女欲しい”

“彼女てw”

“ご飯ぐらい自分で作れ”

“自分のご飯で笑顔になってくれるの凄い嬉しいのわかる”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>チッ”

“あれ?”

“www”

“奏ちゃんいるんだがwww”


 ロアは食べ終わった食器などを洗って片づけてくれる。


「折角だし、他になにができるかもロアの方から説明してもらおうかな」

「かしこまりました。私の基盤となるシステムは、電化製品をAIで一括管理するZONBYのGUNECガンネックとなります。アンドロイドである利点を活かし、先ほどのように料理や掃除など様々な家事を行うことができます。他にもマスターの健康管理やカメラとしての撮影、周辺の地形をスキャンする機能など様々な機能があり、どのような状況でもマスターのお役に立つことをお約束します」


“よくよく考えなくてもヤバい性能”

“AIもここまで来たのか……”

“魔力やらダンジョンやらが技術を押し上げたよな”

“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>私の方が役に立つ”

“奏ちゃんどうした?w”

“ロアちゃんに嫉妬かな……w”


「動力は電気と魔力のどちらでも可となっており、充電しておくことも魔力を注入することもできます。変形もできますので、その時々によって最適な姿へ変えることができ、ドローンを呼び出すことも可能です」

「視点は浮いてた方がいいこともあるしな」

「はい。私の使命はマスターの身の回りのお世話をすることにあります。これからは家事から配信周りまで、全てお任せください」

「ああ。最初は俺の前でやって欲しいけど、それ以降はいいぞ」

「ありがとうございます」


 なんて気が利く、いや優秀なアンドロイドなんだ。これを今後購入する人がいたらダメ人間になりそう。まぁ言うて俺は鍛冶以外割りとダメ人間だから丁度いいが。


“奏&凪咲のコンビチャンネル:奏>身の回りの世話……?”

“奏ちゃんイライラしてそうwww”

“流石は村正ガチ勢w”

“今コメント見ないかなーw”


「それ以外の使い方としましては、そうですね。マスター、私の身体に触ってください」

「えっ?」

「問題ありません。合意の上です」


 急なことで驚いてしまい、少し固まる。だが本人がそう言っているのだから問題ないのだろう。流石に変なところは触れないが。


 俺は恐る恐る手を伸ばした。

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