案件配信
「あ、どうも。村正です。今回はこのチャンネル初の、案件配信になりまーす」
あの後色々なやり取りを経て、この案件を受ける意義があると思った。あとなぜあのタイミングだったのかもわかった。
“初案件おめ”
“一体なんの案件なんだ……?”
コメントもざわついている。ただの探索者なら色々予想がつくだろうが、俺は探索者である前に生粋の鍛冶師である。予想しづらいだろう。
「なんの案件かわからない人が多いと思うので、まずは今回の提供について発表。というか概要欄に書いてありますけど。今回は探索者管理協会と提携した探索者向け機材開発を担う会社、世界に誇る
“な、なんだってー!”
“あのZONBY!?”
“流石日本が誇る鍛冶師は違ぇぜ!”
コメントのノリがいい。配信の概要欄に記載してあるのでわかっている人も多かったと思うが、俺の言葉にノってくれていた。
「えっと、誰もが知ってる企業なので説明不要かとは思いますが念のため。ZONBYとは、ゾンビー株式会社のことでゲームや配信機材など様々な機械製品を開発、売買している会社になります。皆さんにも身近なブランドで、知らない人はいないでしょう」
ZONBYは逸早く配信界隈に乗り込んできた。元々大きな会社だったが、ダンジョン配信が来ると睨んで探索者の戦闘余波にも耐え得る機材の開発を手がけた。その結果探索者管理協会と提携を結び、探索者御用達のメーカーへと進歩している。
「さて、ここで皆さんに質問です。果たして今回、なんの案件だと思いますか? ヒントはアレです。このチャンネルではお馴染みのあの子ですよ」
“ハッ!”
“ま、まさか……!”
“村正チャンネルのアイドルでは!?”
“我らがドローンちゃんか!?”
“そういやあのドローンもZONBYの商品だったな”
ノリがいい察しがいい。よく訓練された視聴者達である。
「そうです。今回はうちのドローンちゃんに関連した商品の案件配信となります。ドローンちゃん、おいでー」
カメラに映ったまま言うと、ふよふよとドローンが近づいてきてカメラに向いた。
“ドローンちゃんキター!!”
“今日も可愛いドローンちゃん”
“なんか愛嬌あるように見えるんだよな、この子”
“AI使ってるからかな”
なぜだか人気を博してしまったのが、このドローンなのである。俺が雑談配信をしていると膝の上に乗ったり、ダンジョン配信では映らないがいい仕事をしてくれていたりしているからだろうか。
「えー、なんと今回。ZONBYさんから商品を提供いただきました! 持ってくるから、ドローンちゃん踊ってて」
“商品提供のタイプだったか”
“踊ってては草”
“ふよふよ踊ってくるくる回ってるwwww”
“かわいい”
“癒されるわぁ”
ドローンに間を持たせてもらいつつ、俺は画角外に置いておいたモノを持ってくる。
“ん?”
“なんだあれwww”
“棺桶?”
俺は人が入りそうなほど大きな箱を立てて置く。棺桶かというコメントもあったが、確かにそんな形だ。金属的な見た目がなければ棺そのモノだろう。
「この中に入っているモノが、商品になります。では早速開けていきましょう」
俺が横の開閉スイッチを押すと、シューッという音を立てながら自動で箱が開いていった。合わせてドローンもカメラの画角から退いてくれる。
“あれ、これって……”
“人間!?”
“人形か?”
“どっかで見た覚えあるな……”
コメントが加速する。中に入っていたのは、銀一色の人型だった。男性でも女性でもない、つるっとした体系をしている。この時点では性別不詳の状態だ。
「というわけで、知ってる人もいるかもしれませんが今回ご提供いただいたのはこちらの商品、自律型万能AI搭載可能変形アンドロイド・
“え?”
“は?”
“アヴァダ?”
“なになになんて?”
“待って、ヤバすぎ”
“ちょい待ち、ヤバさが理解できん”
“単語が入ってこんかった”
コメントの加速度が物凄いことになっていた。
それもそのはず。この商品、そもそもまだ一般に発売されていない商品なのである。
「えっと、とりあえずこちらのアヴァダについて説明したいと思います。こちらはZONBYさんにて開発中と発表されていた新型アンドロイドになります。アヴァダの由来は自律型――Autonomous、万能――Versatile、AI搭載、変形――Deformation、アンドロイド。これらの頭文字を取った略称になります」
俺はZONBYから貰った資料を手元の端末に映して説明していく。
「自分から考えて動くAIを搭載できます。我が家も使ってるんですけど、家の電化製品を一括管理してくれるシステム。あれ、このドローンちゃんも繋いでるんですけど。どうやらこのアンドロイド、指示に従って、若しくは指示される前に、料理、掃除など電化製品を取り扱う全てを管理してくれるらしいです」
“すっげ”
“思い出した、ZONBYの製品紹介イベントみたいなので見たんだ”
“まだ販売されてなくね……?”
“先出しってことか”
“家事手伝い用アンドロイドってこと?”
“いや、ドローンちゃんも繋いでるってことはダンジョンでの撮影もじゃね?”
“えっ?”
“ってことはまさか……!?”
“ドローンちゃん引退!?”
“嫌だぁ!! ドローンちゃん引退しないでぇ;;”
“ドローンちゃん;;”
視聴者に理解が広がっていく。と同時にドローンの代わりが来てしまったのだとわかって阿鼻叫喚になってしまった。
「あの、落ち着いてください。まだ話終わってないんで」
俺は視聴者のコメントに苦笑しつつ、話を進める。
「このアンドロイドは身体を変形させることができます。身体を変形させて料理や掃除をすることができると。しかも身体に異次元収納機能が備わっていて、家事に必要なモノは全て収納できるとか。とんでもないですよねー」
“開発者イカレてて草”
“万能アンドロイドすぎるだろこんなのwww”
“一体いくらするんだこれ……?”
“考えたくない”
“少なくとも一般人には届かない値段ではありそうだよな”
「で、最後に大事なところです。実はこのアンドロイド、こちらのドローンちゃんのAIチップと互換性があります」
AIチップとは、AIを搭載した基幹部分のことである。学び成長したAIの記憶を記録する場所でもあった。
“つまり……?”
“ドローンちゃんのAI自体はなくならない?”
“むしろドローンちゃんがより高性能な身体を手に入れられるんじゃ?”
“うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ”
“ドローンちゃんがアンドロイドちゃんになるんだー!!!”
“ここの視聴者機械萌えなのか?”
なんかめっちゃ盛り上がってる。まぁ喜んでくれるならいいことだ。俺もしばらくこのドローンちゃんと過ごしているので、真っ新なAIにしてしまうのは申し訳なかった。
「というわけで、今回はこのドローンちゃんのAIチップを移し替えて、このいただいたアンドロイドを動かしてもらい、どんなことができるのか見ていこうと思います!!」
“うおおおぉぉぉぉぉぉぉ”
“やるんだな、今ここで!”
“ドローンちゃんが生まれ変わるぞー!!!”
ということで、早速ドローンをシャットダウンさせて工具を使って分解、AIチップを取り出した。
「ではこのAIチップを埋め込んでみます」
言って、極小のチップを銀の人型の頭部分に押し込む。なんとも言い難い感触でぬっと埋まっていった。
それからカメラに映るように離れて変化を見守る。
“ごくり……”
“頼む、上手くいってくれ……”
“案件にしたってことは上手くいくはず”
“ワイらのドローンちゃんの命がかかってるんや!”
コメント欄も祈っていた。
「資料では、互換性のあるチップを埋め込んだ場合、AIが学んできた情報を基にして人間と同じような姿へと変形するらしいです。事前に試してないんで、どうなるかは俺も初めて見ます」
“試してないんかいwww”
“失敗したらどうするんだよ……”
“ZONBY「私、失敗しないので」”
“ゲーム機の初期不良を思い出せZONBY”
“あれ、なんか心臓がきゅって掴まれてる感じ”
“なんか凄い緊張感あるな”
コメントにも不安視するモノが目立ってきた。ただ変形が終わるまでは触るなと書いてあったのでただ待つ。
すると、銀の人型がうねうねと脈打ち始めた。
“始まったか!?”
“どんな変形をするんだ!?”
“男女とかあるんだろうか?”
“それより成功するかだろ!”
“頑張れ我らがアイドル!”
俺と視聴者が注目する中、銀の人型が徐々に形を変えていく。
「俺も予想はつきませんが、ちゃん呼びしてるので女性型になる可能性はありますよね。皆さんも一緒に見守りましょう」
内心ビクビクしながらもアンドロイドの変形を見る。
果たして、どんな姿形になるのか。
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