宣言後

 同級生での5人オフコラボ配信が終わってから色々とあった。


 チャンネル登録者数ががんがん増えた。

 同時接続視聴者数もがんがん増えた。

 SNSのフォロワーもいっぱい増えた。

 ドローンちゃんがチャンネルでアイドル化した。

 5人での呼び名が“五帝皇”に決まった。

 アンチが大量に増えた。


 こんなところか。

 一番厄介なのは最後の項目で、俺のアンチがたくさん出てきたのだ。

 いや、奏や桃音とのことでアンチになった人が現れたと言うべきか。俺がどう言おうが奏は態度で見えるし、桃音は天然発言で火に油を注ぐし。

 協会が誹謗中傷対策として動いてくれてはいるが、消しても消してもという感じである。まぁ全体で見ればアンチの方が少数派なので、それは良かったが。


 あれからというもの。

 試作品の鍛冶を生配信したり、他の深層ダンジョンを攻略したりしていた。

 同時併行で4人(俺の分の装備も造っている)の依頼をこなしているので、結構忙しい毎日を過ごしていた。


「準備やらは順調なんですけど、困ったことがありまして。皆さんになにかいいアイデアがあれば聞きたいです」


“なんだなんだ?”

“富士山のダンジョンに活かせるようなことがワイらの知識にあるかはわからんが”

“聞かせてくれ”

“頼りにならんだろうが聞くだけならできる”

“ROMってる人達の中にいい人がいるかもしれん”


「腰低いな。まぁ素人でも答えられることなので是非。というのもですね、長期のダンジョン攻略で一番大事なのがその、食事と排泄、入浴なんですよね」


“あー”

“可愛い子は汚れない、う〇ちしない……と言いたいところではあるけど、人間だししゃーなし”

“つまり桃音ちゃんの入浴シーンがあると?”

“ねーだろ”

“ないな”

“年齢制限引っかかって普通にチャンネルBANされるわwww”


 そう。日帰りでの攻略なら、食事や入浴に関しては気にする必要がない。ただ長期間の攻略になるとどうしても抗えないのが、生理的欲求というモノである。入浴に関しては凪咲の魔法で水浴びくらいはできるのだが、ゆっくり湯に浸かりたいというのもある。


「そんなわけで、そういった日頃気にしてないところのケアを万全にできる態勢を整えておきたいって話になりまして。食事に関しては料理人を雇うなんですけど、一応料理できるヤツがいるんで優先度は低いです。問題は残る2つで……」


 俺が言っている間にコメントにアイデアが出てきている。


“携帯トイレはあっても携帯風呂はないもんなぁ”

“男なら外でしてもいいが、女の子は大小どっちでも人目のつかないところが欲しいよな”

“テントとか持ってくのは?”

“寝る場所も欲しいだろうし、テントはあり”


 思っていたより真面目に案を出してくれている。


「ふむ……携帯風呂、携帯風呂かぁ……」


 俺はその中のコメントで目に入ったモノについて考える。


「うん、できるかも。湯に関しては凪咲の魔法でどうにかなるし」


“えっ?”

“採用されてて草”

“採用ってか、ないって話だったやん?”

“まさか、作るのか?”


「造るのは俺じゃないですよ。そういうのが得意な知り合いに頼んでみようと思います。トイレも同じ理屈でいけそうなんで、どうにかなりそうですね。ありがとうございます」


“あれ、解決した?”

“なんか思いついたらしいwww”

“俺ら要るか?”

“まぁまぁ、俺らのコメントの中からアイデア出たわけだし”


「あぁ、簡単なことですよ。今回のためにちょっと奮発して異次元格納ポーチ買ったんで。そこに入る形にしたら持っていけるんじゃないかなーって」


“異次元格納ポーチ!?!?!?”

“あれ、いくらだったっけ……”

“1000億超えてたはず”

“ひぇ”

“がくぶる”


「そうです、1024億とかそれくらいだったと思いますよ。リュックとかもあったんですけど、邪魔になりそうだったので一番小さいポーチにしておきました。その分高かったですけどね」


 容量が変わらないなら小型の方がいい。


“その値段でちょっと奮発とかやっぱおかしいて”

“いや、それだけ懸けてもいいことをやろうって話だろ?”

“まぁ正直俺らには思いつかないことやってもらった方が安心する”

“あの宣言以降、富士山のダンジョンに逸って挑んだヤツが何組かタヒんだって話だしな……”

“どれだけお金をかけても、命が守れるならってことか”


 牙呂から始まった富士山のダンジョン攻略の宣言は、瞬く間に話題になった。

 共同生活を送ることも考えた最小人数での攻略になる。加えて少し話題になっていた鍛冶師と、500万人を優に超えるチャンネル登録者数を持つ配信者4名のパーティだ。注目されないわけがない。それぞれが日本屈指の実力を持っているとされているのだから。


 ただ先に攻略されたら困る、と思った人も多少はいたらしい。逸った探索者のパーティが10人で全滅したという話も出回っていた。


「俺達が思いつく限りの準備は済ませておこうとは言ってます。急いては事を仕損じる。死んだら元も子もないですから。未踏破ダンジョンの攻略を見据えるなら当然のことですよ」


“鍛冶師のはずなんだけどな、なんだろう”

“頼もしいわ”

“村正も実力証明されたからなwww”


 そんな感じで雑談をして、配信を締め括る。


「風呂とトイレについてはどうにかできそうなんで、食事ですか。食糧を持っていくのにも限界はあるので、モンスターを調理するんですけど。その辺が上手いこと回せるようにしたいんですよねー」


 そうして配信を終えた後のこと。


「ん?」


 1つ、メッセージが届いていることに気づいた。

 SNSのダイレクトメッセージだ。助言もあり相互フォロワー以外からのDMを受け取らないように設定している。初めてやり取りするアカウント、というか探索者管理協会公式アカウントからのDMだった。


 内容は、案件配信をしないかということだった。

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