質問コーナー

「んじゃやってくぞ、視聴者からの質問コーナーの時間だ」

「いぇーい!」

「ぱちぱちー」


 牙呂が仕切り、凪咲がノリ良く答え、桃音が口と手で拍手し、俺は普通に拍手。奏はなにもしなかった。


「最初の質問。『それぞれの第1印象と今の印象を教えてください』だとよ」

「長くなりそうだし、一言くらいでまとめてこーね。じゃあアタシから」


 牙呂も進行だが、凪咲は進行補助もって感じだな。牙呂もやりやすいだろう。


「牙呂は『オレ強いだろ!』みたいな感じで調子乗ってたクソガキ。今はいい感じにイジれる仲間?」

「疑問符浮かべんなよ! そこは断言してくれ!?」

「奏はもう、なにこの子可愛い強い最強!? 今はんー……色々ひっくるめて親友」

「ひっくるめたところ気になる」

「桃音はその無駄乳寄越せ……今も変わってないかも」

「あらぁ。私も肩凝るので、分けてあげたいくらいですぅ。今も大きくなってますしぃ」

「喧嘩売ってんのかこらぁ!!」


 ネタ半分だろうが、コメントが盛り上がっているのでいいのだろう。わかってて自分から突っ込んでるのか。


「マサ君は奏の幼馴染みから、鍛冶バカ? 武器バカ? なんて言うか、好きなことにとことん傾倒する感じ」


 凪咲からの俺への印象はそんな感じだった。間違ってはいない。呆れているようだった。


「じゃあ次、奏」

「ん。牙呂、元気。凪咲、友達……親友。桃音、駄肉」

「えへへ、親友って思ってくれてるんだー」

「2度は言わない」

「はーい」


“カナナギてぇてぇ”

“10年一緒に配信者やってきてて仲悪いわけないんだよなぁ”


「マサ」


 奏はにまにまする凪咲には構わず、俺をじっと見つめてきた。


「カッコいい。大好き」


 それから口元に笑みを浮かべて告げる。桃音が口元を覆って「まぁ」と言っていた。


“!?”

“!?!?!?”

“告白!?”

“奏ちゃんの笑顔……”

“こんな形で見たくなかった;;”

“ファン号泣で草”

“この視聴者には媚びない感じがすこ”

“ワイは応援するで!”


 コメントが爆速になった。それはそうだろう。……言うんじゃないかとは思ってたが、予想以上だったな。


「あー……うん。ありがと」

「ん」


 奏は満足したらしく、口元を緩めたまま頷いた。これで済んだのなら軽傷だ。コメントには「返事は?」とか「ヘタレが」とか「タヒね」とか流れているのが見えたが、ここは深く突っ込まないのが吉。


「じゃあ次桃音ね」

「はい。牙呂君はぁ、いつも皆を引っ張っていってくれて頼りになりますぅ。凪咲ちゃんはぁ、明るくて元気で誰かが落ち込んでると慰めてくれて、すっごく優しいですぅ。奏ちゃんは……敵、ですかねぇ」

「正面から褒められると照れるな」

「えへへ、優しいって……」


“牙呂と凪咲ちゃんデレデレで草”

“やっぱ桃音ちゃんは癒しだわ”

“奏ちゃんが敵はわからん”

“奏ちゃんも駄肉呼ばわりだったし、敵視してそう”

“流石にネタ半分でしょ”


「村正君はぁ、カッコ良くて頼りになって、少しだけ甘えたくなっちゃいますぅ」


 桃音はいつも通りの笑顔でそう言った。正面の奏の機嫌が一気に悪くなる。コメントも加速していた。


“おや?”

“これはまさか……”

“奏ちゃんむすっとしてて草”

“怒ってても可愛い”

“これはまさか……恋!?”

“違うだろどう考えても”

“桃音ガチ恋勢憤タヒwwwww”


 まさか桃音がそんなことを言うとは思っていなかった。その方が配信的に面白いからだろうか? いや、天然だからな。他意はなさそう。


「えっと、とりあえずオレ先いくか。凪咲、ちっちゃい」

「どこ見て言ってんの!?」

「奏の隣にいて丸わかりだししゃあねぇだろ。奏、は同年代でクソ強ぇ。いつか追いつく、追い抜く。桃音は最初守ってやらなきゃ、とか思ってたんだけどな。いつの間にかお互い様になってたわ」

「ふふ、良かったですぅ」


“凪咲ちゃん;;”

“;;”

“泣くな;;”

“やめたれwww”

“お前ら、貧乳はステータスだろぉ!?”

“二十歳にもなってあの絶壁は希少ぞ?”


牙呂の話より凪咲にコメントが寄っている。いいこと言ってるんだけどな、牙呂。


「村正に関しちゃ頭おかしいとしか言えねぇな。奏の幼馴染みだけはあるっつうか、奏が幼馴染みなのも納得っつうか」

「酷ぇな」

「褒め言葉だよ。お前は小学生から仕事してんだもんなぁ。イカレてんよ」


 本当に褒め言葉かそれ?


“唯一割りと真面目に質問答えてね?”

“牙呂はいいヤツ”


「おっと。最後村正な」

「ああ。牙呂は悪友だろうな。凪咲は奏のお世話係? 奏は幼馴染み。桃音は頑張り屋かな」

「幼馴染み……」

「アタシ、マサ君からそう思われてたんだ……」

「ふふ、恥ずかしいですねぇ」


 奏がしょぼんとしていた。すまん。が滅多なこと言えないから。


“ただの幼馴染み?”

“えー? ホントにござるかぁ?”

“奏ちゃんの様子からも嘘と断定”

“タヒね”


 あ、ダメだわ。どう答えてもなんか言われるヤツだこれ。


「よーし、どんどんいくぞー」


 それからも次々と質問に答えていった。


「あー、これ結構来てたから答えるわ」


 若干うんざりした様子で、牙呂は1つの質問を取り上げる。


「『4人の装備品は、村正が造ったモノか』だってよ」


 あぁ、なるほど。


「「「「当たり前」」」」


 4人が同時に答えた。息ぴったりかよ。


“あっさり答えるやん”

“息ぴったりてぇてぇ”

“そら友達が造った武器使うでしょうよ”

“見ず知らずの他人よりは信頼置けるだろうしな”

“ってことはあれじゃね? 5年前に壊れた奏ちゃんの武器ってそいつが造ったってこと?”


 好き勝手なコメントが流れ始めたが、恐れていたコメントが出てきて流れが変わる。


“あったなそんなの”

“結果的に助かったとはいえ、奏ちゃんっていう逸材喪う寸前までいったのは武器の責任だろ”

“奏ファン激おこで草”

“武器に命預けてるんだから、中途半端に壊れるような武器造るのはどうなん?”

“そんなんで協会公認鍛冶師とか言って調子乗ってんの?”

“ふざけんなよ、鍛冶師辞めたら?”


 ――あぁ、イラつく。わかっててもイラつく。


 コメントの色が変わり、俺を責める方向へ移ろっていく。これくらい想定できた流れのはずだ。牙呂と凪咲がなにか手を考えていないはずはないのだが。


「うるさい、黙れ」


 だが俺の思惑とは裏腹に、言葉を発したのは奏だった。カメラの方を睨んで殺気を撒き散らしている。

 一瞬、コメントの流れがホントに止まったくらいだ。


「マサの造った武器を最期まで、役目を終えるまで使うって決めたのは私。マサはちゃんと、そろそろ寿命だからって新しい武器くれてた。――なにも知らないヤツが、マサをバカにするな」


 口調は淡々としていたが、ガチで怒っているのはわかった。奏がそんな風に思っていたとは知らなかったので驚いたが。


「ま、そういうこった。今ので炙り出し完了だなー。さいならー」


 コメントの流れも止まりかけたところで、牙呂がPCを操作した。どうやら否定的なコメントをした連中をBANしたらしい。


“全員BAN食らってて草”

“奏ちゃん激おこすぎてコメントマジで黙ってたなw”

“そんな風に思ってなかったけどマジでビビったぞw”

“新たな扉が開かれた――”

“奏ちゃんの睨み、クるモノがありましたご馳走様です”

“ドM湧いてて草なんだが”


 それでようやくコメントに流れが戻ってきた。


「あと勘違いしないように言っとくけどな。オレらは村正が友人だから武器造ってもらってんじゃねぇ。こいつが誰よりもいい武器を造るって知ってるからだ。誰よりもいい鍛冶師だと知ってるからだ。オレらはオレらが使いたい武器を使う。赤の他人にどうこう言わせねぇよ」


 続けて牙呂が不敵に笑った。……こいつらはホント。だから、こいつらとずっといるんだろうな。


“牙呂君かっけぇ”

“そういうとこ好き”

“牙呂きゅん♡”


「鍛冶師とか言ってあたしの杖とかも造ってるくらいだし、当たり前のように防具もマサ君製だし。セット割り効くし、腕はいいし。文句つけようがないの」


 凪咲も俺に向けてウインクしながら言ってくれる。造った装備が褒められることは、鍛冶師にとってなによりも嬉しいことだ。


「……そっか。奏、嬉しいよありがとな」


 胸のつっかえが少し取れたような気がした。俺は最初に言ってくれた、俺が一番気にしていたところの張本人だった奏に向けて笑顔で礼を述べる。


「っ……」


 すると奏は耳まで顔を真っ赤にしていた。


“おっ?”

“奏ちゃん照れてる!?”

“イケメンの爽やか笑顔、ご馳走様です”

“カナマサてぇてぇ”

“これ間違いなく乙女やろwww”

“あんなに釣れない態度の奏ちゃんが、恋……? アリですね”

“可愛い”

“これがギャップ萌えか”

“カプ厨ワイ、無事タヒ亡”


 そんな奏の様子にコメント欄が加速していった。


「うふふ。私も村正君に初めて造ってもらった武器、大事にしてますよぉ。凄く嬉しくて、抱いて寝てるくらいですぅ」

「は?」


“新たな爆弾投下してて草”

“村正君の(造った)長い棒を抱いて寝てる!?”

“閃いた!”

“ふぅ……”

“通報する前とか早すぎぃwww”

“おい武器そこ変われ”

“奏ちゃん、一瞬で不機嫌になってらwww”


 桃音の問題発言にコメント欄が盛り上がっている。シリアスな空気が払拭されるのはいいが、これはこれで厄介な……。


「駄肉が出しゃばってこないで。今マサは私に言ってくれたの」

「え~? でも事実ですからぁ」

「独りよがりで棒抱いてるとか虚しすぎ」

「そうですかぁ? じゃあ今度から村正君にお願いしますねぇ」

「ダメに決まってる」


 なぜだか、不機嫌な顔をした奏とにこにこ笑顔の桃音の視線がぶつかり合っている気がした。


“女の戦い勃発か?”

“桃音ちゃんに限ってそれは……”

“でもマジわかんねぇな、桃音ちゃんド天然だから……”

“それはそうw”


「いいじゃねぇか、なんかいつも通りって感じだ。……オレもモテてぇなぁ」

「あんたは一生モテないから安心して」

「これでも彼女いるからな!?」

「別れたの知ってるわよー」

「うぐっ!」


 その内凪咲と牙呂が言い合いを始めてしまった。

 ……うん。まぁいつも通りではあるのだが。4人が2人ずつで睨み合ってたら収拾つかないだろ。

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