5人の年表

「じゃあまずは、オレらの年表から見ていくか」


 言って、牙呂がPCを操作する。俺達のことを映していた映像から年表の画像に差し替わった。


「オレら5人の出会いやらなんやらをまとめてみたんで、これを見ながら当時のこと振り返ってくぞー」

「こんなん作ってたんだな」

「おう。こういうのは配信歴長いオレらに任せとけ。で、最初なんだが――」


 俺はどういう風に進めるかを他に任せていた。自然に振る舞えばいいとだけ言われていたが。

 俺達5人の始まりから年表が始まっている。そこに書かれていたのは。


「私とマサの出会い」


 自己紹介以降一言も喋っていなかった奏が割り込んできた。


「出会いっつっても保育園入っただけじゃん」

「出会ったことに変わりはない」

「まぁ、そうか」


“反応早っw”

“保育園入学時からの幼馴染み、だと……!?”

“付き合い長いな”

“もう17年の付き合いになるのか”

“奏ちゃん;;”


「そっから2人が小学校入った時にオレと凪咲が同じクラスになったと」

「当時からマサ君と仲良かったよね、奏」

「ん。色々あったから一緒の家にいた」


“えっ?”

“同棲!?”

“は?”

“奏ファン発狂www”


「あー……。あん時の話はしないでおこうぜ。普通に闇が深ぇ。な、村正?」

「ああ。あんまり深堀すると良くないな。家庭の事情ってヤツが絡むから」


 奏側ではなく、俺側の家であれこれあった時期だ。小学生の時は割りと病んでたところがある。


「わかった。一緒にお風呂入ったことも内緒にしとく」

「してないからねそれ!?」


“奏ちゃん積極的”

“一緒にお風呂!?”

“小学生の奏ちゃんとお風呂……”

“通報しますた”

“まだ閃いてないだろぉ!?”

“まだってことは閃く予定あんだろwww”


 なぜか自ら爆弾を投下していく奏。なんだか機嫌いいし。あんまり俺にヘイト向くようなことは言わないで欲しいんだが。


「兎に角、次な! えっと、村正が8歳の時に鍛冶師デビューか。この前に親父さんより腕がいいって言われて親父さんが病んだりなんだりしてたってのがさっきの闇深さに繋がるんだが……」

「犯罪者のゴミの話なんかいいんだよ」


“父親をゴミ呼ばわりwww”

“犯罪って、なんかやらかしたのか?”

“妖刀打ったって話だからそれ関連じゃね?”

“普通に闇深そうで草”


「それまで父親名義だったんだが、色々な伝手使って協会にかけ合って一人前の鍛冶師として認められたんだ。だから未成年だったけどどうにかなったわけだな」

「8歳で協会に登録ってよくよく考えてみりゃおかしいよな」


 父親への反骨心というか反抗心というか。兎に角父親名義でなければ良かった。


「で、その頃から探索者になろうとしてた中、身内で一番強かった奏を誘って凪咲が配信者デビュー。至上最年少、最短でのチャンネル登録者数100万人を達成。10歳の時だな」


“きちゃ”

“配信初日で100万人を悠々突破した伝説の小学生www”

“小学生2人で深層攻略とかどう考えても異常だからなw”

“リアタイで観たかったわぁ”

“今から10年前かぁ……”


 コメントの速さが異常なまでに高まっている。当時も他人事ながら凄いなーと思っていたが、とんでもなかった。10歳の少女が2人でダンジョンへ行くこと自体おかしいことなのだが、超強かったので心配より興奮が勝っていったとか。

 因みに、探索者管理協会が幼い子供のダンジョンへの立ち入りを認めるわけはないのだが。まぁ、認めざるを得ないほど強すぎたと言うか。ダンジョンもダンジョンで長期間放置するわけにはいかない理由があるので、ずば抜けた実力の子供がいれば任せる他ないという事情がある。


「で、中学になって桃音と同じクラスになったと」

「やっと出てきましたねぇ。皆が凄すぎて気後れしてた子多かったですよねぇ」

「あの頃は奏と凪咲の人気が凄かったからな。顔出ししてたもんだから余計に」

「正直羨ましかったぜ」


“そりゃそうだwww”

“むしろどうやって知り合ったか知りたい”


「どうやって知り合ったかだってよ」

「えっとぉ、確か雨にずぶ濡れになっていたところを村正君に助けてもらったんですぅ。カッコ良かったですよぉ」


“は?”

“またお前かw”

“奏ちゃんでは飽き足らず桃音ちゃんまでぇ!!”

“タヒすべし”


「聞いてない。どういうこと、マサ」


“奏ちゃんドス効いた声出してて草”


「いや、違うって。偶々通りかかっただけで。ずぶ濡れで良くない状態だった桃音に声かけてたおっさんがいたから、ちょっと捻り上げただけで……」

「あー……なるほどな。まぁあの頃からスタイル良かったし、うちの中学セーラー服だったからなぁ。色々と良くなかったのはなんとなくわかった」

「なに想像してんの変態」

「違うって!」


“中学の時の桃音ちゃんは知らなかったけど、その頃からグラマラスだったのか……”

“野良の変態おっさんから守ったってことな”

“ナイス村正ぁ!!”

“よくやった”

“だがナイト気取りは許さん”

“凪咲ちゃんも牙呂にだけは辛辣よなw”

“ツンデレか?”

“それはない”

“ファンが否定してて草”


 当時の状況的に、無理矢理引っ張っていかれそうだったので見過ごすわけにはいかなかった。あと実際に見たからわかるが、牙呂の想像通りとても良くなかった。濡れ透け状態のスタイル抜群中学生が1人で雨宿りしていたのだから、変な人に目をつけられることもある。偶々俺が通りかかったから良かったが。


「とりあえず、そんなこんなで俺達と一緒にいることが多くなったと」

「ふふ、そうですねぇ」

「むぅ」

「なんで桃音睨んでるのよ……。次、次進めよ」

「おう。中1ん時にオレが配信デビューしたな」

「はい次」

「もうちょっと触れろよ!?」

「アタシ達より後だったし」

「そりゃそうだけど、もっとこう……なんかあるだろ!?」

「ないよね、奏」

「ない」

「そんなぁ」


“草”

“相変わらず素気ないな”

“牙呂君もカッコいいんだけど”

“冷たくあしらわれてる牙呂君すこ”

“牙呂虐助かる”

“健太ぁ”


「健太言うなぁ! もういいっ! 次、高校に上がって桃音のデビューな!」


 若干拗ねて(多分ポーズだけだが)牙呂が自分のデビューを飛ばした。まぁ当時13歳の少年が深層を攻略したんだから話題には上がってたんだけどな。3年前に同じことをより若い年齢でやったヤツがいたから……。


「私ですねぇ。ふふ、懐かしいですぅ」

「そういえば、桃音は誰のチャンネルでやるでもなく自分のチャンネルで始めたよね。アタシ達のチャンネルに加わってもいいよって言ったんだけど」

「はい、そうですねぇ。でも私は配信者になりたかったから配信を始めたわけじゃないんですよぉ」

「えっ? そうだっけ?」

「はい。私は皆さんと並びたかったから、自分で頑張ってみることにしたんですぅ」


 3人は驚いていたが、俺は知ってる。桃音は表に出てない俺にだけ教えてくれたが、自分の力で皆の横に並ぶだけの存在になりたいって。だから並んだと思ったらいくらかかってもいいから自分だけの武器を造って欲しいとも言われたか。


「桃音―っ!」

「わっ。ダメですよぉ、飛びついてきちゃ」


“てぇてぇ”

“エモ”

“えもえものエモ”

“;;”

“なぜ画面が見えない?”

“いいとこなんだから想像で我慢しとけwww”

“俺には見える、己にはない桃音ちゃんの山脈に顔を埋める凪咲ちゃんの姿が!!!”

“草”


「誰のなにがないってぇ!?」

「いい話だが、時間もないし次行くぞー」

「次……あぁ、俺の協会経由でしか依頼受けなくなったとこか。こんなのも入れてるんだな」

「そりゃそうだろ。お前の紹介も兼ねた年表なんだから。表には出てないが、史上最年少鍛冶師でもあるお前は、協会経由でしか依頼を受けない、要は協会公認鍛冶師に選ばれたのも史上最年少ってわけだ。ってか未成年者の鍛冶師がお前以外いなかったわけだが。そんな特例中の特例だから、せめて成人するまではって話だったってのによぉ……」

「マサ君が他の公認鍛冶師よりいい武器を安く、協会の管轄外で依頼受けられちゃうから引き入れるしかなかったのよねー」

「マサの武器が一番いいのは当たり前」

「ま、そん時には両親いなかったし身寄りなくなってたから協会で保護するっつう意味合いもあっただろうけどな」


“すげ”

“特例の特例って感じか”

“鍛冶の化け物じゃん”

“さらっと両親タヒんでない?”

“闇深ぇwww”


 配信を気にする凪咲と牙呂が上手いこと仕切ってくれるおかげで、俺はちょくちょく発言するだけでどうにかなっていた。

 年表が現在まで進み、質問コーナーへ移っていくのだった。

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