ただ集まっただけ
「うぃーす」
部屋に集まった5人の男女。広いリビングに、机を真ん中にして六人分のソファーが並んでいる。2人用が左右に1つずつ、1人用が上下に1つずつだ。これだけでも相当儲かっていることがわかった。
カメラを1人用ソファーの片側に置いているので、残る5つに座っている形だ。
画面左には奏と凪咲のコンビ。奥には桃音。右側に牙呂と俺の男2人が座っている。
カメラに近い方に牙呂が座っている形だ。
PCにカメラをつけているので、ディスプレイには俺達がどう映っているかが見えている。
“うぃーす”
“コラボ待ってた!”
“知らんヤツおるが?”
“イラストと同じ配置で始めるの神”
流石にコメントの流れが早い。告知後1週間空けて俺もダンジョンに行ったり工房を紹介したりして俺も徐々にチャンネル登録者数を増やしていっているが、同時接続の視聴者数が既に100万人を超えていた。これがダンジョン配信界隈トップレベルの配信者が4人集まった結果か。
「人多いなー。ま、予想通りっちゃ予想通りか。んじゃ一応自己紹介してくぞー」
この5人の場合、大体牙呂が仕切る。牙呂と凪咲くらいしか仕切りたがらないと言うべきか。
今回の配信チャンネルも牙呂のモノだ。
「まずオレ。チャンネルがオレんとこだから知ってるとは思うが、牙呂だ。主に深層攻略配信やってるぜ。二刀使いだ」
牙呂がカメラに向かってサムズアップする。画面には金髪のツンツン頭が笑顔でサムズアップしている様子が映し出されている。やや犬歯が尖っているので、笑うとそこが見えるのがチャームポイントとして認識されているらしい。
本人の言う通り二刀流で、夫婦剣の
“牙呂ーーーー!!!”
“け……牙呂ーーッ!!”
“健太ああぁぁぁぁぁあぁ”
「健太って言うんじゃねぇ!」
盛り上がるコメント欄の中に混ざっていた本名呼びに牙呂がツッコむ。牙呂のチャンネルでは通過儀礼になっているらしい。
「じゃあ次アタシね。奏&凪咲のコンビチャンネルの、凪咲だよ。魔法使いやってて、普段は隣の奏と一緒に深層で攻略配信してるよ」
続けてカメラ目線でにこにこと手を振ったのは、牙呂の対面に座る女性。赤茶色の髪をツインテールにしている。スタイルの凹凸が少ないことに定評がある。実際他2人と比較されやすいせいかそういうイジリが多いらしい。
魔力を使って様々な事象を引き起こす力、魔法。それを得意とするのが魔法使いと呼ばれる人達だ。凪咲は魔法使いとしても一流で、ド派手な魔法で敵を吹っ飛ばす爽快感が魅力だという。
魔法使いにありがちだが、武器は杖だ。使用者の魔力を高めて魔法の威力を上げる優れ物。名前が豊穣の賢杖なので、豊穣(豊かに実ること)じゃないだろとイジられることがあるらしい。
“やっぱ小さいな”
“流石まな板”
“奏ちゃんと横に並ぶから……;;”
「誰がまな板じゃこらーっ!!」
コメントに貧乳イジリが出始めると、笑顔から怒り顔に変わって怒鳴っていた。5人の中で一番感情表現が豊かだ。奏が配信に興味ないというのもあるが、この中で個人のファンが一番多いのは凪咲なんじゃないだろうか。
「同じく、奏。剣士」
言葉少なく淡々と告げて、すぐカメラから視線を外したのが凪咲の横に座る女性。肩口で切り揃えられた白髪に近い灰色の髪で、右目が少し隠れている。表情に乏しいが、顔立ちは整っている。間違いなく絶世の美女なのだが、素気ない態度を取ることが多い。配信界隈で最も“推しがいのない推し”と称されるだけはある。イジリでもあったが凪咲と比べてスタイルがいい。出るところは出ているのに引き締まっていて無駄な脂肪がないのだ。
彼女の持つ片手剣、斬裂剣アルマトイアは特殊能力が一切なく、ただ切れ味だけを極めた逸品だ。
“興味なさげで草”
“つれないねぇ”
“いつも通りw”
表立って配信にも視聴者にも興味ないと断言している奏だが、見た目の良さもあってファンは多い。それ以上に圧倒的なまでの強さが根強い人気なのだが。実際この5人で誰が一番強いかっていう議論をするなら奏だと断言できる。
「皆さんこんにちは~。桃音聖域の桃音ですぅ。普段は深層で配信したり、他の配信者さんのところでヒーラーしたりしてますぅ」
一番奥からにこにこの笑顔で手を振って、少し前屈みになりながら言ったのが桃音。少し動いただけでゆさっと縦セーターに包まれた双丘が揺れる。
奏もスタイルが良いのだが、その点で言うと桃音が群を抜いている。ふわふわのウェーブがかったピンク髪でスタイルの良さもあり一番大人びて見える。奏と凪咲は同じくらいの身長だが、桃音は165ぐらいと少し高めだ。
本人も言っている通りヒーラーで、魔法を使う。回復専門の魔法使いと言ったところか。練馬含むダンジョンをソロ踏破しているのだが、回復や防御だけでなく攻撃方法も持っている。あと近接戦は苦手と言っているが、身体能力が低いわけではないことは注意。
使用武器は杖なのだが、メイスとしても使えるようになっている。結構重いので一般人には持てない。聖棍杖メフィラウスという名前だ。
あとド天然。うっかり胸がアップになってしまったり、ソロ攻略の時は攻撃を受けても治して強引に進むので衣装が破けることが多かったりする。
ダンジョンだけでなくASMR? とかいうヤツもやっていて、癒されると話題だそうだ。
“でっっっっっか”
“桁違いで草”
“縦セタは俺に刺さる”
“胸しか見てないヤツばっかwww”
コメント欄も奏の巨乳を超える爆乳に盛り上がっている。おっさんが多いのかな、視聴者って。
そして最後、俺の番になる。
「あ、どうも。最近配信デビューした鍛冶師の村正でーす」
前のめりになってカメラに向かって手を振った。コメントの速さは変わらない。いや、前が桃音だったので少し落ちているか。
“キターーーーー”
“村正の登場だぁ!!”
“誰?”
“いつもの4人じゃなかったから気になってたけど、新メンバー的な?”
“チャンネル登録者数釣り合ってなくね? 売名か?”
喜んでいるコメントもたくさん流れているが、俺のことを知らないコメントも多い。肯定的でないコメントも目立った。
「ま、村正のヤツがやっと配信者になったからな。オレらの関係を見せるのに丁度いいっつうことでコラボすることにしたんだ」
「マサ君は昔っからのいつメンなんだけど、配信者じゃなかったから極力表に出さないようにしてきたの。だから皆からすると急な話に見えるよねー」
「うふふ。いつも5人でいたので、私達からすると普段通りなんですけどねぇ」
3人がコメントに対して波風を立てずに言う。この辺りはベテランというか、俺とは違うところがある。
「ってなわけで、村正抜きで話そうとするとボロ出るからあんま4人で雑談とかしてこなかったんだよな。これからは躊躇いなく話せるってことで、早めにそういう空気作っておきてぇんだ」
「悪かったな」
「謝るなよ。オレらはお前が表出るの嫌だと思ってたから無理に勧めなかったんだ。好きにやりゃいいんだよ」
「お前いいヤツだな、健太ぁ……」
「健太って呼ぶんじゃねぇ!?」
“ええ話や;;”
“早速健太イジリしてて草”
“ノリいいなこいつらw”
「とりあえず、自己紹介終わったんだからオレらのことをよく知ってもらうためのコーナー行くぞ!!」
話を本筋に戻して、牙呂がコーナーへと進めていった。
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