コラボ……するのか?

『コラボして』


 2度目の配信が終わった直後。

 電話がかかってきたと思ったら奏だった。


 無感情にも聞こえる、しかし鈴のように可憐な声が聞こえてくる。


「あのなぁ。俺はまだ配信始めたばっかりで、お前は配信歴10年の大御所なの。チャンネル登録者数も200倍くらい違うんだから」


 俺のチャンネル登録者数が54126人。対して奏と凪咲のチャンネルは配信歴が異様に長いこともあり、12847236人となっている。1300万人近いとかどんだけだよ。いやまぁ、正直日本のダンジョン配信者のトップレベルなのでこれくらいは当然なのかもしれない。


『関係ない』

「あるから。チャンネルにメリットないじゃん、お前らの」

『興味ない』


 そうだった。凪咲が配信に積極的なだけで、奏は配信に興味ないんだった。


「なんでそんなにコラボしたがるんだよ。話すだけなら普段からしてるだろ? 会ってもいるし」

『ん。でも、配信で会いたい』

「なんで?」

『……』


 珍しくすぐに返ってこなかった。言いにくいことなのか、それともただなんとなくなだけなのか。


『マサ、人気だから』

「は? いやいや、お前らの方が人気じゃん。俺なんてまだまだだろ」

『違う。カッコ良かった。ファン出来ちゃう』

「それこそ奏はファンがいっぱいいると思うんだが」

『興味ない。マサカッコ良かったから、ファン出来たら困る』

「なんで奏が困るんだ?」

『変な女が近づくかもしれない』

「大丈夫だろ。いたとしても少人数だろうし」

『ダメ』

「えぇ……」


 なんだか強情だ。こうなると俺の意見なんて聞いちゃくれない。


「まぁ、タイミング合えばな」

『いつでも大丈夫』

「ちゃんと凪咲とかにも確認取れたらな」

『ん』


 最終的には俺が折れる形で受けることになってしまった。とはいえ向こうがコンビチャンネルなのもあるが2人きりではないようにしておく。皆忙しいので、全員で集まることの方が少なかったな。俺が配信者じゃないこともあって表に名前出さないようにしてもらってたし。


 まぁただ数週間は空くだろうと思い、その日は寝た。武器の依頼が舞い込んできたので、明日から1週間は空かないし。一応配信でその辺りの説明はしてあった。


 ◇◆◇◆◇◆


 そして鍛冶依頼明け。

 【重大告知あり】雑談配信というタイトルで配信を開始した。


「皆さん、こんばんはー。村正です」


“こんばんは”

“待ってた!”

“ダンジョン配信はー?”

“鍛冶依頼は終わったの?”


「はい。鍛冶終わって納品したんで、やっと配信できます。前の配信でも言いましたけど、依頼ない時は頻繁に、依頼ある時はがっと配信しなくなるんで」


 武器の納品依頼は締め切りがある。武器の有無が探索者として仕事ができるか否かに直結する人も多いので、期限が短いことも多いのだ。


「鍛冶って結構疲れるんですよね。特に今回みたいな緊急、期限の短い依頼だと。皆さんも1週間で数十億かけた仕事したらわかると思いますが」


“いやわからんw”

“1週間で数十億……?”

“ひぇ”

“あーわかる”

“なるほどね”

“完全に理解した”

“絶対にわかってなくて草”


「とまぁそんな感じで神経使う仕事してたので、ダンジョンに行く気にならなかったし。お知らせもあるので雑談でいいかなと」


“お疲れ”

“お疲れ様です”

“1週間で数十億稼げるならむしろテンション上がらん?”

“ヒント:鍛冶には素材が必要です”

“あっ”

“スゥーーー”

“何十億の武器の原材料が安いわけないんだよなぁwww”


「普通に数億の素材がんがん使いますからねー。因みに鍛冶は失敗すると素材ダメになるんで、パァですよ」


“ヒィ”

“怖いこと言う時の笑顔すこ”


 俺がダメにした素材の最高原価は58億円かな……。まぁ挑戦みたいなところがあったから仕方ないんだけど。


「ダンジョンには明日行きます。どこに行くかは……待ち伏せとかされてるとあれなんで言わないでおきますね。ないとは思いますけど、言わない方がいいって配信者やってる知り合いが言ってたので」


“武器持ってたら待ち伏せされそうw”

“もうファンもいるんじゃない?”

“ってか普通に武器創造してるとこ見たい感はあるからなぁ”

“知り合い? はて、4人の内誰だろう”

“範囲狭くて草”


 因みに正解は凪咲だ。配信に関して聞くなら凪咲、次いで牙呂がいい。


「そういうわけで、明日は20時からどっかのダンジョンで配信しますね。あ、そうだ。告知とかに必要だって聞いたんで、SNS始めます。というかもう『つったったー』のアカウント連携したので。配信の告知とかすると思います」


“そういやなかったなw”

“判断が遅い!”

“助かる”

“フォローしました!”


「もうフォローしてくれてる人がいますね、ありがとうございます。事前に言われてて通知切っておいて良かったぁ」


 因みに一番最初にフォローしてきたのは奏と凪咲のアカウントだった。まぁあいつらに相談したわけだから、知ってて当然なんだが。


「SNS作成も告知なんですけど、もう1個重大な告知があります」


“おっ?”

“なんだなんだ?”

“タイトルのヤツ来たか”

“もうちょい焦らしてもええんやで”


 流石は配信視聴歴が長い視聴者達。ノリが良かった。


「早速出しまーす。画面にご注目ください」


 俺は言って目の前のパソコンを操作する。今回使ってるカメラもパソコンのモノだった。


「はい、どん!」


 言ってすぐ配信画面を切り替えてパソコンに表示させた画像を映し出す。


“おっ?”

“イラストか?”

“コラボ!?”

“しかもこの面子は……”

“キターーーーー”


 無事映せたようで、コメントが一気に加速していく。

 俺の配信画面に映したのは、1つのイラスト。室内のソファーに座る5人の男女の様子を描いたモノだ。実写を上手いことイラストに落とし込んだクオリティ高いイラストだった。凪咲のオススメで依頼させていただいたが、1週間でここまで仕上げていただけるとは。やはりどこの世界でもプロは凄い。

 そのプロイラストにでかでかと描かれた、同級生コラボの文字。これだけで大体伝わる。


「というわけで、コラボが決まりましたー」


 翌日起きたらコラボが決まっていたという珍事。あいつの行動力エグいな。知ってたけど。


「実際には会ってないので今回はイラストにしてもらいました。イラストを担当してくださったのは夏梅さんですね。いやぁ、結構無理言って早めに仕上げてもらったんですけど、流石です」


 急遽決まって要望を色々と出したのに、完璧以上の仕上がりで納品してくれた。同じクリエイターとして尊敬する。


「まぁ予想していた人もいると思いますが、5人でコラボします。前に話した同級生四人とのコラボですね」


“きちゃーーーー”

“他4人でも充分凄いんだけどな”

“この5人の話聞きてーwww”

“イラスト的に雑談か?”


「内容は雑談です。5人で集まってワイワイ話そうぜ、って感じです。まぁ同級生で普段から話すこともあるんで、5人で話すのを配信で聞いてもらう感じになるんじゃないかって。あと皆さんからいただいた5人への質問にも答えていくらしいですよ」


“チャンネルどこ?”

“オフコラボ?”

“いつの何時?”


 コラボ配信をすると知って質問が色々と出てくる。

 俺はそれらの質問に1つ1つ答えていき、告知を終えて少し雑談をした後、配信も終えた。

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