大胆不敵宣言

「いやー、あっという間だったな。そろそろ配信終わるぞー」


“お疲れー”

“楽しかったわ”

“なんだろう、5人が話してるの聞いてただけなのにな”

“空気が美味しかった”

“仲の良さが伝わってきたわ”

“てぇてぇ”


 途中色々とあったのだが、概ね好評で終わったようだ。


「今後もこの5人でコラボすることもあるだろうから、よろしくな!」


 配信開始から2時間が経過している。丁度いい時間なのだろう。


「そうだ、最後に1つだけ予告? 宣言? みたいなことをしておくとするか」


“予告?”

“宣言?”

“おっ、なんだなんだ?”

“わくわくっ”

“wktk”


 にやりと笑った牙呂の言葉に俺は首を傾げる。他の三人もわかっていないようだった。牙呂だけの予告なのだろうか?

 俺達も気になって耳を傾ける。


 そんな中、牙呂は言った。


「――オレ達は前人未到の最長最難関ダンジョンの一角、富士山のダンジョンを攻略する」


 牙呂の宣言に、俺達は驚愕した。奏でさえ驚いていたくらいだ。


“富士山!?”

“おいおいマジかよ!!”

“やるんだな、遂に!”

“ワクワクしてきたぞ!”

“いや、いくらなんでも無理があるんじゃ……?”

“富士山のダンジョンって、他のダンジョンの深層レベルのモンスターが上層に出てくるとかの、ヤバいとこだろ?”

“しかも中が広すぎてこれまで中層の最奥までの記録しかない”

“やばばばばば”

“でもこの面子でなら、いけるんじゃね……?”

“むしろこいつら以外誰がいけるんだって話だろ!”


 コメントがこの配信一番の盛り上がりを見せていた。牙呂の宣言は、それだけのことなのだ。


 日本で最も有名な場所の1つ、富士山。

 そこにもダンジョンは現れていた。ただ富士山に現れたダンジョンは、異常なまでに難易度が高い。俺がこの間攻略した練馬のダンジョンは、比較的簡単なダンジョンだ。ダンジョン毎にも難易度に差があり、一口に下層深層と言ってもダンジョンによって差が出てくる。

 その中でも、日本最難関は富士山のダンジョンだと言われていた。


 敵が強い、中が広い。

 これと同じくらいの難易度を誇るダンジョンが、世界にはいくつかある。ただ今に至るまで、どんな人物どんな団体も攻略したという記録がない。


 正に前人未到。


「聞いてないんだけど? 勝手に話進めないでよ」

「とか言って、最初に言い出したの凪咲だろ? この五人で、いつか絶対富士山踏破するってよ」

「それはそうだけど……」


“まさかの凪咲ちゃん発端www”

“意外と野心家よな”

“てか今でも充分ヤバいのに、わざわざよりヤバいことしようとするかwww”

“これだからこいつら推すのやめらんねぇ”

“でも政府の軍が全滅したって話だぞ? 上層、中層の最奥にもボスがいて中層のボス相手に全滅”

“ひぇ”

“ヤバすぎんだろ……”

“期待もあるけど、不安は大きいな”


 コメントは期待と不安が半々と言ったところか。


「なんだよ凪咲。自信ないのか?」

「は? そんなわけないでしょ。アタシ達が揃って無理なわけないじゃん」

「じゃ、OKってことで」

「ちょっと、それとこれとは違うって!」


 牙呂にまんまと乗せられた凪咲だったが、あまり乗り気ではない様子だ。


「……だって、死ぬかもしれないじゃん」


 悲痛な面持ちで呟いた。


“凪咲ちゃん;;”

“そうだよな、俺も凪咲ちゃんがタヒんだら嫌だ”

“俺も嫌だぞ!”


「大丈夫ですよぉ、私がいれば皆さんは死なせませんからぁ」


 だが沈んだ空気を払拭するかのように、いつも通りの様子で桃音が断言する。


「桃音……」

「それとも凪咲ちゃんは、私がいて死者が出ると思ってますぅ?」

「ううん、絶対ない」

「ならいいじゃないですかぁ。私達が揃えば不可能はない、ですよねぇ?」

「当たり前よ」


“ナギモモてぇてぇ”

“流石桃音ちゃん;;”

“おいおいこいつら最高かよ”


「凪咲も良し、桃音も良しと。奏はどうする?」

「マサが行くなら行く」

「お前な……」


“マサ第一主義草”

“村正大好きな奏ちゃんすこ”


「じゃあそのマサは?」


 牙呂に尋ねられて、俺は俺の意見を述べる。


「俺協会経由で中層のボスの動画観たことあるんだけどさ」

「おん」

「あいつ、絶対いい武器になると思うんだよな!!」


 俺は満面の笑みで答えた。


“草”

“一番いい笑顔で草”

“無邪気な笑顔すこ”

「かわいい」

“倒して素材にすること決定してらwww”

“一番ヤバいの村正なんじゃね?”


「ぶはっ! お前ならそう言うと思ってたぜ!」


 牙呂含め、皆が笑い出す。……え? 俺そんな変なこと言ったか?


「つーわけで、満場一致で富士山のダンジョンに挑戦する。つっても準備もまだしてねぇし、すぐには無理だ。なんでこのタイミングでってのは村正が配信者になったこともあるが、それだけじゃねぇ。富士山のダンジョンに行くには、村正……というか装備をメンテできる鍛冶師が必須だからだ。長期戦になるのは目に見えてるからな、お前がいなきゃ話にならねぇ」

「それはそうね。で、アタシ達の中には回復役の桃音もいる。攻撃方法も斬撃、魔法、打撃と様々だし、足りないとこはマサ君が補ってくれる。どう考えてもこの五人でなきゃ無理」

「ん。よく知ってるのもあるけど、足手纏いがいても邪魔になるだけ」

「そうですねぇ。連携も大事ですし、ずっと一緒にいて不仲にならない関係でないといけませんからぁ」


 バランスもいいし、ぴったりの5人ってわけか。なるほど、言われてみればだ。


「ま、村正に予備の武器2つは造ってもらわねぇといけないからな。すぐにとはいかねぇよ。お前は協会に許可取る必要もあるだろ? 軽く見積もっても数ヶ月から半年先の話だ。それまでは、互いに武器素材集めんの手伝ったり、普通に配信したり、鍛えたりしないとだな」

「了解。1人当たり100億くらいは貰うから、ちゃんと稼いでおけよ?」

「ははっ。オレらをなんだと思ってんだよ! すぐ用意できるっつの」


“100億が……4人分!?!?”

“ヤバすぎ”

“いや、それだけの値段で富士山のダンジョン攻略、命を守れるってんなら安いモノか?”

“金銭感覚バグりそうwww”

“当然のように全員稼いでるよなwwwww”


「ってなわけで、これからもオレら“グロリアス・ロード”をよろしくっ!!」

「なにそれださっ」

「ダサい、却下」

「ちょっと嫌ですぅ」

「ネーミングセンスないなお前」

「全否定!?」


“wwwww”

“草生える”

“栄光の道、いいんじゃないかと思ったんだけどな”

“最後の最後でカッコつかねぇwwwww”

“それが健太クオリティ”

“そういうとこもすこ”


 ひと悶着はあったが、無事5人でのコラボ配信は終わった。

 ……5人での呼び名は結局決まらなかったが、まぁ無事ということで。

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