俺の方が上手く使える

「構築完了――烈風大剣ストームブリンガー


 空気を素材に創造した大剣を振り下ろし、前方の地竜を切り刻む。


“地竜さん細切れで草”

“空気から造ってるのもおかしいけど、ただの空気から造ったとは思えないほどの威力だよな”


「いやいや。素材本来が持つ力を引き出す程度じゃ、鍛冶師としては二流止まりですからね。素材の持つ力を引き出して洗練させるのが一流だと思いますよ」


 素材が持つ本来の力を引き出す、だけじゃ足りない。もっと、もっと上に押し上げないと。


“本業は鍛冶師とのことですが、依頼は受けてくださるんですか?”

“実際に造った武器とか、武器造ってるとことか見たい”


 既に5748人もの視聴者がいた。


「依頼は数受けてないですね。そもそも個人からの依頼受けてないので。協会が仲介してくれてるので、そっちに問い合わせたら依頼できるかもしれませんね。ただまぁ、依頼料が高いと思うんで普通の人は無理じゃないですかね……」


“協会お抱えの鍛冶師って、全体の1%とかしかいないんじゃ……”


 武器1つで数十億かかるからなぁ。配信者や探索者として異常に稼いでいるような人じゃないと。そんな状況だから俺も無理に依頼受ける必要ないし。


 協会とは、探索者管理協会のことだ。探索者としてダンジョンへの立ち入りを許可された人達を管理する団体のことで、俺もそこに登録してある。


「鍛冶してるとこは、要望がたくさんあって、協会から許可貰えたらやるかもです。実際に造った武器は一部の配信者さんが使ってるので、今日以降公表するしないは任せてあります」


 メリットデメリットがあるだろうから、公表しなくてもいいとは告げてある。


「ん、あいつは……」


 コメントと話しながら歩いていると、新たなモンスターに遭遇した。


 がしゃんがしゃんと金属の擦れ合う音が聞こえてくる。立ち止まると、奥から2メートルある鎧を着た骸骨が歩いてきた。4本腕にそれぞれ武器を持っている。


「スカルアベンジャー。手に持っている武器は1本数十万くらいの値打ちがあるそうで。鎧も同じくらいの値段なので、1体で100万は優に超えるモンスターです。特殊能力もありませんし、頭を潰せばいいだけなのでそこまで強くはありませんね」


 説明していると相手が瞬時に間合いを詰めてきた。サーベルの一撃を回避する。


「おっと」


 そこからはもう相手のターン。4本腕で絶え間なく連撃をしてくるのだ。


「スタミナ切れがないので、一度攻撃が始まるとやりにくくなりますよねー」


“よねって言われてもわからんわ”

“数十メートルを一瞬で詰めてくるヤツの攻撃どうやって避けんだよ”

“鍛冶師って名乗ってるだけの探索者なのでは?”


 スカルアベンジャーの連撃は絶え間なく、しかも間合いの詰め方も凄まじい。ただ回避し続けられる人が1人いれば、引きつけている最中に後ろから攻撃して結構簡単に倒せるだろう。


「まぁ1体だけなら手こずる相手でもありませんね」


 2体以上いると途端に厄介さが増すのだが。


 俺は避けながら空気を素材に剣を構築。軽く振って腕の1本を切り飛ばした。


「武器の扱いなら、俺の方が上手い」


 飛ばした腕をキャッチして武器だけを手に取り、残る3本腕から繰り出される攻撃を1つずつ弾いて武器を手放させる。

 怯んで体勢を崩し驚いたような表情をする骸骨を、頭から真っ二つにした。


 抵抗もなく、鎧もぱっくりと割れるように斬る。


“ホントに鍛冶師か?”

“達人級の腕前持ってるはずのスカルアベンジャーが瞬殺……?”

“3本腕の攻撃をなんで腕1本で対処できるんだ?”


「うん、いい剣だ。あれだけやって刃毀れ1つないですね」


 それから落とした武器を拾い上げて、状態のいい2本を持っていく。


「今回のコンセプトと違ってきちゃうんで、勿体ないけど使い捨てますね」


“数十万の武器が使い捨て……”


「いやだって、武器あったら簡単になりすぎちゃうんで」


 武器のあるなしは強さに直結する。俺は鍛冶師としてどんな武器でも扱えるようにしてきている。他人の命を預かる武器を造るのだから、自分が使ってみてなんの問題もない武器に仕上げなければならないのだ。


“今日はどこまで行くつもりですか?”


「あ、いい質問ですね。というか言うの忘れてました。今日どこまで行くか、どこで終わりにするかですが。深層の最奥、ボス攻略で終わろうと思います」


“初配信で深層ソロ攻略とか異常だろwww”

“とんでもないことしようとしてて草”


「と言ってもここはソロでの攻略記録もたくさんありますし、なにより映えますからね」


“あー……練馬だからボスってあいつか”

“ソロ攻略してんのは異常者だけだからwww”


「間延びしないようにがんがんいきますよー」


 俺はそう言ってペースを上げつつ深層を攻略していくのだった。

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