どっちが強いか

 練馬のダンジョン深層を攻略していく初配信は順調だった。


 ボス部屋到着時点での視聴者数は12956人。


 そして到達した、最奥のボス部屋。

 厳かで巨大な扉の前に立つ。


“緊張感あるな”

“ボス部屋の前の扉っていつ見ても荘厳だよな……”

“何回見ても慣れないよー”


「あ、じゃあ入りますよー」


“緊張感なくて草”

“もうちょっとこう、情緒欲しくない?”


 大きな扉を押し開いていく。


 情報が出回っているダンジョンなので、なにが待ち受けているかは知っていた。


 ボス部屋の中は暗い。俺が中へ入っていくと、扉が自動で閉じられた。それから壁にかけられた松明が順々に灯っていき、円状の大きな部屋が露わになる。


「――」


 その奥に、1体のモンスターが鎮座していた。

 ボロ切れのような黒い外套を身に纏った3メートルの白銀甲冑。兜の奥で赤い瞳が光り輝いている。なにより目立つのは右手に持っている物凄く長い刀。長さが5メートルもある長すぎる刀だった。


 俺の姿を認めて、ヤツが立ち上がる。携えた刀の刃が波打っていた。


「練馬ダンジョンのボス、剣骸翁けんがいおう


“こいつの見た目好き”

“何回見てもカッコいいわぁ”

“ソロ攻略記録が多いからと言って弱いわけではない”

“むしろ特殊能力持ってないだけで充分強いだろ”

“深層のボスが弱いわけない定期”


 出で立ちや戦い方から、視聴者人気も高いモンスターなのだ。コメントも加速してきている。


「ッ!」


 警戒していたはずだが、瞬く間に接近され長すぎる刀が振り抜かれる。接近されたと思った時には刀を振り抜かれているほどの速さ。刀を振ると同時に斬撃が発生するので、届いてない壁にも攻撃が届いていた。

 間一髪仰け反って回避したが。


“ひぇ”

“こっちに飛んでくるからマジでビビった”

“ドローンちゃんよく避けた!”

“あれ避けてる時点で充分化け物だよな”


 大きい武器を持っているからと言って動きが鈍いわけではない。むしろ速い。モンスターは人外の化け物なのだが、剣骸翁は人の剣術と同じ動きをする。動きの読みやすさはあるかもしれない。

 長い刀を振り回してくるので、大人数より少人数向きのモンスターと言われている。


“おぉ、ちゃんと避けてる”

“完全に見切ってるなこれw”

“戦える鍛冶師の配信はここですか?”


 避け続けていると相手が大きく飛び退いて距離を置いた。通常攻撃では当たらないと判断してのことだろう。


“来るぞ来るぞ……!”


 剣骸翁が刀を両手で持って真上に振り上げる。刀に力が集まっていく。


“なんだっけ、この技”

斬嵐きりあらしが一般的かな”


 対する俺は、両手を前に突き出して構えた。


 刀が振り下ろされる。刀が放たれた無数の斬撃が嵐ように巻き起こり、こちらに迫ってきた。故に、斬嵐。


「材質――斬撃」


“まさか!?”

“おいおいおいwww”


「形状――長刀」


 俺は迫る斬撃を魔力で捉え、切り刻まれるより前に掌握する。


「構築完了――翁骸刀おうがいとう


 相手が放った斬撃を素材に似た刀を造り出す。斬撃の嵐から引き抜いた5メートルもの刀を振り回して、相手へと向けて振り抜いた。


「おらぁ!!」


 一振りに全力を込める即興鍛冶によって、元よりも規模の増した斬撃の嵐が相手へと返る。


“同じ技で返したぁ!!”

“同じっつうか強化されてね?”

“初見です えぇ……”

“初見引いてて草”

“初配信なんだから皆初見や”


 ただ剣骸翁は斬撃への耐性が高く、ほとんどダメージは通っていないだろう。


「さて、仕切り直しだな。お前の刀と俺の刀、どっちが強いか勝負しようじゃないか」


 笑う。俺の造る武器は誰よりも優れていると、目の前の敵が持っている武器より優れていると自負していた。


“楽しそー”

“武器好きなんだなー”

“ってか自分の造る武器へのプライド?”


 剣骸翁は傷1つついてないが、俺のことを警戒しているのがわかった。


 俺は一気に敵の懐に入る。


風斬刀かざきりとう


 空気を素材に刀を構築。右手を振るが相手の刀とぶつかり合った。発生する風と斬撃が激突して、互いに弾かれる。その間にも左手で同じ武器を構築した。相手の体勢が直るより早く2撃目を叩き込む。


「そらそらそらぁ!!」


“相手の動き遅くなってないのに追いついてないじゃんww”

“これで鍛冶師ってマ?”

“名前は出さないけど、深層にもソロで挑んでるあの人もこんな感じだったな”

“こっちのが嵐じゃんwww”

“即興ってか瞬間じゃん”

“武器壊れたら次の武器って戦う二刀流の主人公いたなぁ”

“投影のヤツかな”


 そうして攻撃を続けていると、鎧にヒビが入っていく。ダメージが通っている証拠だ。

 ようやく、バキィンと鎧が砕け散った。砕け散った衝撃で俺は後ろに吹き飛ばされる。


“ようやく第二段階か”


 砕け散った甲冑の中身は骸骨だった。跪いた姿勢の骸骨の周囲に、砕け散った鎧がゆっくりと浮遊する。かと思ったら背中に集まっていき、金属の翼を形成していった。


“こいつは形態変化も好き”

“形態変化……来るぞ!”


 そのまま上空へ飛び上がった剣骸翁は両手で持った刀を振り回して巨大な斬撃を飛ばしてくる。


 俺は1つ目の斬撃から刀を創り、1つ目の斬撃に当てる。それを繰り返してどんどん相殺していった。


“余裕で受けてて草なんだが”

“1歩も動かずに対処してんだけど”


 連続の斬撃後に、両手で構えた刀を持って突撃してくるのがこいつの攻撃パターン。形態変化後の決まった行動だった。


「構築完了――烈風の大太刀」


 俺は太刀を造り出し、真っ向からぶつかり合った。激突の衝撃が部屋全体を揺らす。


“うわぁ!?”

“衝撃波でドローンちゃんよろめいたんじゃね?”

“ドローンちゃん逃げて! 超逃げて!”


 どうやらドローンががくんと揺れてしまったらしい。


 それからは、剣骸翁が縦横無尽に動き回りながら攻撃を仕かけてくる。型通りの攻撃から型に嵌まらない動きへと変化することで、挑戦者に慣れさせすぎない。

 攻撃は創造した風の刀で受けてやり過ごす。


“あの巨体で空飛んでんのに動き遅くなってるどころか速くなってね?”

“そら鎧なくなったからな”

“そういう理屈なんかw”

“笑ってるけど、結構防戦一方じゃね?”

“いや、よく見てみろよ。左手しか使ってないぞ”

“さっきから右手でずっとなんか溜めてるっぽい”

“なにか狙ってやがるな”


「材質――水。形状――刀。構築完了――水竜刀」


 突っ込んできたところにカウンター気味の一撃を食らわせてよろめかせた。


“水!? そんなもんないやろ!?”

“ヒント:空気”

“空気中の水分掻き集めてたんか!?”


「材質――炎。形状――刀。構築完了――火炎刀」


 続けて左手で壁かけ松明から火を掻き集めて、炎の刀を構築。体勢を立て直される前に叩き込んだ。


“今度は松明の火かよ!”

“全然触れてねーじゃん”

“遠くから持ってきてて草生える”


「材質――光。形状――刀。構築完了――光輪刀」


 更によろめいたところへの追い打ち。


「材質――闇。形状――刀。構築完了――暗影刀」


 続け様にもう1回。左手に右手で影を作り、その影を素材に刀を構築して振るう。


“光に続けて闇もかよ……”

“確かにそこに在るけどw”

“もうなんでもありだなこいつwww”


 大きく体勢を崩した剣骸翁だが、距離を取ると壁に足をつける。壁を蹴って加速しようというところだろう。

 俺はここで勝負を決めようと、地面に手を突いた。


「材質――石。形状――刀。構築完了――石斬刀」


 床の石を素材に構築した刀を地面から引き抜き構える。


 どん、と剣骸翁が壁を蹴った。まるで俺の準備を待っていたかのようなタイミングだ。最高速で突っ込んでくる剣骸翁の速さは、カメラでは捉え切れなかっただろう。

 おそらく一瞬で擦れ違ったように映っているはずだ。


 剣骸翁は俺の後ろで着地して停止した。先に俺の持っていた刀が消失していく。


「やっぱり、いい武器だったな」


 俺が言った直後、刀がへし折れて剣骸翁の身体が中心からズレて、倒れていった。


“勝ったあああぁぁぁぁぁぁ”

“ソロ討伐おめ!!”

“しっかり刀折って白黒つけてんじゃんw”


 練馬のダンジョン深層ソロ攻略によってコメントがたくさん流れている。


「おっ。同接5万人ありがとうございます! 今後も配信していきますので、良かったらチャンネル登録よろしくお願いします! 明日同じ時間に落ち着いて話す配信しますねー」


“乙ー”

“お疲れ!”

”チャンネル登録しました!”

“良かったぞ、次も来る”


 ドローンの前で手を振って配信を終わる。

 どうやら、初配信にしては好調な滑り出しだったようだ。


 配信が終わる頃にはチャンネル登録者数1万人を突破していた。

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