素材あればなんでも

 地竜と戦っている間にかなり視聴者数が増えてきた。


 驚きの声が多く、既に175人もの視聴者がいた。


「おぉ、こんなに多くの人に観てもらえるなんて。たくさんのコメントありがとうございます!」


 配信者をやるなら、個性がなければならない。有象無象に紛れない、飛び抜けた個性だ。

 それは声であったり強さだったりするが、俺の場合は戦い方。鍛冶師ならではの戦法を編み出して挑むことにしていた。


“今のなに? どうやったの?”

“ってか今倒したのって地竜じゃ?”

“地竜って深層のモンスターだよな? どこのダンジョン?”

“CGじゃないの?”


 地竜を倒した辺りから結構視聴者が増えていっている。


「どんどん増えていきますね。ありがとうございます! 質問も来てるみたいなので、答えつつ先に進んでいきます」


 ドローンを引き連れて進みながら見かけた質問に答えていく。


「地竜を倒したのは、俺が編み出した即興鍛冶です。そこに在るモノを素材にして新たな武器を創造するというモノで、道具などが不要な代わりに一度使うと消失します」


 特に炎などの本来物質でないモノを素材とする時は、形を留めておくのが難しいのだ。


「そういえばダンジョンについて言ってませんでした。ここは東京都にある練馬のダンジョンです。新宿や渋谷は人が多いので、他の探索者さんが映ってしまう可能性もありますしね。配信してる人は規模が大きくて色んなモンスターが出てくる、所謂“映える”ダンジョンに行くので、意外と穴場なんですよ」


 人気がないわけではない。ただ新宿や渋谷にある大規模ダンジョンと比べるとどうしても人が少なくなってしまう。

 更にダンジョンは上層、中層、下層、深層と難易度が上がっていくので難易度が高い階層ほど人が少なくなる傾向がある。


「さて、次が現れましたね」


 一旦回答を止めて次のモンスターを警戒した。


 奥でなにかが動いたかと思ったら、黒い塊が高速で突っ込んでくる。


「うおっ?」


 避けて後ろを振り返った。


「ナイス回避、ドローンちゃん!」


 ドローンも動いて何者かの突撃をかわしていた。思わずサムズアップしてしまう。……だってこのドローン、めっちゃ高いんだよ。壊れたらショックで堪らない。


「まだ来るな」


 再び同じ方向から似たようなモノが飛んできた。避けていると、ドローンが上に退避している。頭のいいドローンだ。

 そうこうしている内に最初飛んでいったヤツが後ろから戻ってきて、それも避ける。


「バレットバットか。5体だから、そんなに厄介じゃない方ですかね。こうやって銃弾みたいな速度で突っ込んできて人体を貫くモンスターです」


 壁を蹴って回転しながら突っ込んでくる。反対側の壁に突き刺さったらUターンしてくると。それを繰り返して探索者を仕留めるのだ。


“はっや”

“あれ見切ってるの動体視力ヤバない”

“奥の方見えないから、暗がりから撃たれた銃弾回避してるようなもんだぞ?”

“これで鍛冶師とか嘘だろwww”


「こういう相手だと、さっきみたいに相手の攻撃を利用できないので別の方法でいきますか。汎用性高い手を考えてあるので」


 言いながら両手をそれぞれ構える。


「材質――空気。形状――片手剣」


 手に向かって空気が集まり、渦を巻いていた。


「構築完了――烈風剣ストームブレイド


 片手ずつ、同じ形の剣を創造する。


“は???”

“なにもないところから剣造ってて草”

“材質空気ってなんだ……?”


 1体目のバレットバットが突っ込んできたので、左手の剣を一振り。刃で真っ二つにした後、生み出された風の刃が切り刻んだ。役目を終えた剣が空気に溶けていく。

 2体目を右手の剣で倒すと、2本目も消えていってしまう。


“即興とか言ってたけど強いだろあの剣www”

“てかどうすんの? 次来たら避けんの?”


 次は2体同時に突っ込んでくるようだ。


「再構築」


 振り切った姿勢から、両手で同じ剣を再び構築していく。連続で造る時は構築時間を短縮できる。同時に突っ込んできたバレットバットを切り裂いた。


“はっやw”

“てか今更だけどさっき大剣だったのに普通に二刀流してんじゃんwww”

“色んな武器使えるのか”


 最後の1体突っ込んできたので、再構築した1本で切り捨てる。


「と、こんな感じで空気を素材にすればいつでもどこでも武器が造れるってわけですね。フィジカルで挑んでくる相手にはこれが一番簡単です」


“常人にはできねぇだろwww”

“初めて見たんだが理屈が全くわからん”

“どうやってんの?”


「理屈ですか……。あんまり難しいことはしてないですよ。鍛冶やってる人なら誰でもできることだと思います。やらないのは多分、前線に出ないからですね。今見てもらったように一発で壊れちゃいますし」


 言いつつも、地面に散らばったバレットバットの死骸のところに屈む。


「丁度いいので、バレットバットの素材でもう1回やりますね」


 俺は五体分の死骸を1ヶ所に集めて両手を翳した。


「材質――バレットバット。形状――投擲槍」


 魔力を操作して素材となるモノを集め、溶かし、融合させていく。溶け合った素材に名前という器を与えることで形を成す。


「構築完了――弾丸蝙蝠の投擲槍バレットバット・ジャベリン


 黒い投擲槍が出来上がった。先端の下に蝙蝠のような羽の装飾がついている。


「こうやって魔力を使って素材を溶け合わせて、明確な形状を思い浮かべて、名前という器を与えることで武器として形成するわけです。普段の鍛冶でも道具を使いながら魔力を流し込むことで素材の力を引き出すんですけど、それを簡略化したわけですね」


“意味わからん”

“???”

“俺鍛冶やったことない”

“誰かー、鍛冶師の誰かー”

“解説求む”


 鍛冶師としては普通のことを応用してやっているだけなのだが、鍛冶経験がない人達にはわからなかったようだ。


「……すみません。鍛冶やったことがない人にもわかる説明考えてみます」


 わかる人にはわかる説明では、上手い説明とは言えない。

 どうにか説明しようとしたのだが、残念ながら受け入れてはもらえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る