鍛冶師を責める視聴者に反論したくて配信デビューしたんだが、ついでに友人達と世界変えてきます
砂城
第1部
もっと目立ちたい
突如として世界各地に出現したダンジョン。
未知の侵略に、世界は少しずつダンジョンが中心になるよう変わっていった。
ダンジョンが出現するより前から動画投稿や配信が流行っていたので、そういった活動をしている人が次々とダンジョンで挑み、ダンジョンで待ち構える凶悪なモンスター達に殺される人が出始めた。
それから一般人のダンジョン立ち入り禁止令が出たり、許可制になったり、配信や動画の規制が緩和されたり、色々とあった。
今ではダンジョンのある世界というのが日常化してきていて、日夜ダンジョンへ挑む人が後を絶たず、配信や動画でダンジョンの様子が映し出されることが多くなっている。
「はぁ」
そうしてダンジョン配信者が人気を博している中、俺はと言えば。
自宅の工房に籠もって鍛冶に勤しむだけ。いや、鍛冶の仕事には誇りを持っている。ダンジョンへ挑む者――探索者達が使っている武器を造っている、名誉ある仕事だ。ただ有名配信者が活躍しているのを見ても、観ている人達はその配信者の実力しか褒めてくれない。最初はそれだけで良かった。他の人がわからなくても、自分だけは自分が造った武器達の価値をわかっているから。
ただ、とある探索者が5年使っていた武器が、強敵との戦いで壊れてしまったのだ。そろそろ寿命だろうからと予備を持っていたから勝利できたので本人は気にしていない様子だった。しかし、その様子を見ていた視聴者達は違う。
「肝心な時に壊れる武器とか使えな」
「武器のせいでピンチになっただろうが」
「この武器造ったヤツ誰だよ」
などなど。
配信者本人がどう言おうが構わず武器とその武器を造った鍛冶師を責め立てていた。
もちろん、5年も持った武器を称賛してくれる人もいた。全員が全員じゃないとはわかっている。
それでも、納得がいかなかった。
それからだろう。俺がただ裏で武器を造っているだけでは満足できなくなってしまったのは。
だから俺は日頃から俺の武器を使ってくれている配信者達に許可を取り、自分も配信者になることを決めた。
そして、今日が初配信の日である。
「あ、どうも。今日から配信始めます。良かったら覗いていってください」
カメラつきの高性能ドローンに向かって挨拶した。
視聴者数は0人。当たり前だ、無名の初配信が誰かに観てもらえるわけない。
「えっと、とりあえず普段のダンジョンに挑む様子を配信していきますねー」
誰もいないところに話しかけるのは結構虚しい。だが喋っていないと誰かが気紛れで来た時にその後も観てくれないのだ。
配信開始すると言った時に、既に配信で成功している人達から助言をいただけた。
それが、最初から全力を出し切るということだ。出し惜しみは厳禁だとか。
ダンジョンの石畳で整理された通路を行く。
少ししてモンスターが現れてくれた。
俺の正面、広々とした通路の先に待ち構えている。
「グオオオオォォォォォォォォォ!!!」
そいつは俺の姿を見つけて威嚇のように咆哮した。
全長15メートルはある巨大な、トカゲのようなモンスター。四足歩行で歩く恐竜のようでもあるモンスター、地竜と呼ばれるドラゴンの一種だ。翼はないのだが、強靭な肉体と火炎の息吹が特徴的な強敵だ。
「地竜ですね。深層にしては弱い方のモンスターですが、硬い鱗で攻撃を弾き、凶悪な牙や膂力、火炎の息吹で攻撃してくる厄介なモンスターです」
ちらりと見たら視聴者数が5人に増えていた。初配信を漁るタイプの人達だろうか。
「あ、視聴者さん増えてますね。ありがとうございます」
礼を言いつつ地竜が口端から火の粉を散らしたのを見て回避を選択する。
「ドローン、もう少し離れて」
撮影を担当しているドローンへの音声認識で距離を置かせてから、自分も飛び退く。直後地竜が口から火炎の息吹を吐いた。
「地竜で苦戦しているところを見てもらっても仕方がないので、反撃しますか」
地竜は深層でも弱い方のモンスター。深層ソロ攻略とかやってる配信者もたくさんいる中で、今更こいつに苦戦していても面白くないだろう。
ここからが、鍛冶師たる俺の戦い方だ。
“武器持ってないように見えるんですが、どう戦うんですか?”
おっとここで初めてコメントが。こんなにも嬉しいとは思わなかった。
「コメントありがとうございます! 実は俺、鍛冶師なので。ダンジョンにあるモノで武器造って戦おうと思います。次息吹が来たら、やってみますね」
言って、地竜の突進や噛みつきを避けて距離を保ち息吹を誘発する。
「おっ、来た来た」
ようやく2回目の息吹。練習はしてきているが、人前でやるのは初めてだ。
地竜の息吹が放たれる。先ほどとは違って直撃する距離に構える。両手を前に突き出して集中した。
そのまま火炎に呑まれる。
「材質――炎。形状――大剣」
俺を包み込んでいた地竜の火炎が俺の魔力によって操作され、突き出した両手の元に集まっていく。
――炎を素材に、新たな武器を創造する。
「構築完了――
炎の中から身の丈もある片刃の大剣を引き抜いた。デザインもなかなかいいんじゃないだろうか。
“は?”
“えっ、なに? どういうこと?”
“炎から武器を造った……ってコト!?”
「ふっ!」
息吹の中から出てきた俺を見て驚いているらしい地竜へと、大剣を振り下ろした。大剣から通路を埋め尽くすほどの炎の奔流が放たれ、巻き込まれた地竜は燃え尽きて炭になり倒れる。
地竜の討伐を確認して武器を地面に突き刺し手放すと、炎となって消失していく。
「上手くいきましたね。こんな感じで戦うんで、興味のある方は観ていってくださると嬉しいです」
俺は最後にカメラへと手を振って、次のモンスターを探しに歩き出した。
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