11.王子様
ノックして、返事が来てから扉を開けた。
「失礼します、ボス。動きました」
「予定よりも遅いねぇ」
「こちらの妨害が思ったよりも効いたようです。おかげである程度は揃いました」
「準備を。
「……はぁ。ぼったくり野郎……」
「傷口を広げないで」
「てことで来い」
「見てわかんないかなぁ今絶賛無理なんだけれども」
術中の
「ぼったくって音沙汰ないから諦めたかと思えばいきなりて」
「しょーがねぇだろこっちだっていつ動くかわかんねぇんだ」
「なんで? 何すんの? 戦闘なら嫌なんだけど」
「締結決定したのはお前です」
「……雪くーん客人の相手して!」
「はい!」
ひょこっと顔を出した雪を睨むと、佚世に舌打ちしてから外に出た。
階段前で、立ち話をする。サイズ感的に言えば、だいぶん小さめの二人。
恋弥は威圧的に不機嫌そうに雪を見下ろし、雪は少しビクビクしながらそっと視線を逸らした。
「あ、えと……お話というのは……」
「ウスノロに伝えろ。ピステルの二番と腹心がこっちに仕掛けに来てる。先手必勝、夜中に立つ」
「わかりました。……えと、他には……」
「あんまり舐めると喰い荒らすぞ」
恋弥は雪の頭に強めに手を置くと去っていき、それと入れ替わりで片腕がない患者が入ってきた。
佚世は足を組み、背もたれに頬杖を突いて雪の伝言を聞く。
「今日……時間ないな……」
「あ、あと、最後に……あんまり舐めると喰い荒らすぞ、と……」
「わー怖。よし、雪君準備しよか」
「……俺も行くんですか!?」
「だって君戦闘能力高いでしょ?」
「いやいやいやッ! ただの一般人ですからッ!」
「どうだろうね。まぁ私がいない間に政府にちょっかい出されても君が怖いだろうし、おいで」
「はぁ……」
と言っても持つのは拳銃を各一丁ずつと、弾倉一つだけ。
「これ君持ってていいよ」
「あの、俺、銃とか使ったことないんですけど……」
「大丈夫だよどうせ使わないから」
「持っていく意味……」
「まぁ威嚇みたいなもの? はいこれ着て」
「行こうか」
「あ、の、
「あの人は飄々と生きるよ」
二人で路地裏のさらに奥に行くと、路地裏を突っ切ってトワイライトの本部に向かった。
「本部って近いんですね」
「うん、私が店持つ時に近くにしたんだよ」
「そうなんですか?」
「超過激派だからね、医者として緊急の時にすぐに行けた方がいい」
「なるほど……」
二人で本部の正面玄関に行くと、既に幹部数人と数百人の部下が待っていた。
その中の一人にいた恋弥は二人に気付くと、ギョッとする。
「遅い! なんでそのガキもいんだよ!?」
「餓鬼って、さして歳変わんないでしょ〜?」
「……お前何歳?」
「じゅ、十五……」
「ガキッ!」
「はいはい。恋弥より使えるから黙りなさい」
佚世は恋弥の顔面を掴み、恋弥はその手を払った。
あーあ、何が悲しくてこんなウスラトンカチに頼ってんだろ。まともに会話するだけ馬鹿馬鹿しくなってきた。
トワイライト所有の船で海上を移動する。
ボスから傍で監視するよう言われているので、向かいで。
「佚世さん、ピステルってなんですか?」
「トワイライトと似たような感じ、てかこっちと似た感じかな。半中立の超巨大組織」
「半、中立……?」
「基本は民間人を助けて政府と結託してる。けど、組織が不利益を被るような何かがあった時は殺しも闇取引もやる半、中立。どちらかと言えば政府寄り、ただし黒いこともやるよって組織」
「……ただの悪?」
「まそうだね。一つ罪を犯せば百の善行も意味を成さない」
「それの二番と腹心が仕掛けてきてるって言うのは?」
佚世は甲板の手すりに座ると、フードを脱いだ。潮風が目に滲みる。
「裏切りか、ボス敬愛ゆえの暴走か。どっちにしろトワイライトは全面戦争になる前に片付けたいんだよ、もし全面戦争になったら勝てないから」
「規模の違いですか?」
「規模的にはトワイライトの方が大きいよ」
よくわからない雪が首を傾げると、佚世は少し俯いた。
「勝てないんだよ、今のトワイライトじゃ、たとえ弱小だったとしてもね」
三十分ほどだろうか、船に揺られていると、岸が見えてきた。
岸から見える、超高層ビルが三棟。
「高い……」
「あれがピステルの本部」
「あれがッ!? と、トワイライトの本部より大きいですよね……!?」
「うん? トワイライトは山改造して本拠地にしてるよ。あれは本部であって本拠地じゃあないから」
船が着くと、既にピステルの下っ端が何百人も銃を構えて立っていた。
下っ端の争いの最中に、恋弥は船から降りた。
「雪君ちょっとじっとしててね」
「えわッ!?」
佚世はフードを被ると、雪を片腕で抱き上げ夜闇に紛れビルの周囲にあった木々を飛び移る。
一番高い木の、なるべくてっぺん。人二人の重さにギリギリ耐えれる程度まで枝が育っている高さから、そのまま上に飛んで開いていた窓から部屋の中に入った。
中に人はいない、鍵がかかっているから。
廊下の足音を聞いて、扉を開ける。
「佚世さん……」
「大丈夫だよ、君には傷一つ付かないなら」
佚世は雪の頭に手を置くと、廊下を進む。
下で人が死ねば死ぬほど上の人間は少なくなる。だから、そこを狙う。
エレベーターに乗り、五十八階まで。
「エレベーターはリスキーでは?」
「安全が確約されてるからね。リスクはないよ」
「……裏で繋がってるんですか?」
「まさか。長らく会ってない」
「…………なんでもいいですけど。怪我しないでくださいね」
「優しいねぇ!」
「うわちょっと……!」
エレベーターが五十八階に着き、佚世は雪をエレベーターの傍に立たせた。
「君はここで待ってて」
「え……!?」
「大丈夫だよ、すぐ戻ってくる」
「人が来たら……!?」
「堂々と立ってればいい。ほら」
佚世は雪のフードを深く被せると、踵を返した。
銃のスライドを引いて、引き金に指をかけ、大きな扉の前に立つ。
ノックをして、声音を変えた。
「社長」
「どうした……」
ガチャッと扉が開き、眉間に銃口を付けるとそれを撃った。
倒れるそれを蹴り飛ばして、扉を閉めると踵を返す。
「雪君」
「佚世さん……! 銃声……」
「私だよ。おいで」
エレベーターで四つ下に。
奥にある部屋をノックすると、雪がギョッとする暇もなく扉が開いた。
「あ、佚世君ッ!」
「終わったよ」
「ほんとに!? さっすが〜!」
顔を出した、白の長髪をまとめた薄紫の目をした男の人。
佚世に抱き着いて、子供のような笑顔で頬擦りをする。
「王子様みたい」
「そりゃよかった。さっさと降りるよ」
「つーめたっ! ライム、行こ」
「はい」
四人でエレベーターを使って降りると、
「降ろして。馬鹿面が余計馬鹿に見えるよ」
「二言ほど多い」
「ごめんねートイトの皆。ちょろっと利用させていただいた」
「あ……!?」
幹部が愕然とする間に、恋弥が降りてきた。
「頭気を付けろグズノロマ」
佚世が雪の頭を抱き寄せると、それすれすれを通って恋弥が着地した。
「俺らが利用されっぱと思うなよ」
「あれ、バレてた?」
「うちのボスはだいたい見通してる」
「そっかー。まぁ協力してくれたから感謝しま〜す」
恋弥はフンッと顔を逸らすと、ボスに連絡を取り始めた。
佚世は腰に手を回そうとする律から離れ、溜め息をつく。
「帰ろうか」
「はい……」
「佚世くーん、その子新しいお気に入り? 相当気に入ってるよね、恋弥君より気に入ってる? ねーねー」
「ちょっと寄り道していい?」
「え、あ、はい……」
「ちょっと付き合ってね」
佚世は律の言葉を全無視すると、夜闇に姿を消した。
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