10.熱
頬をぺちっと叩かれ、顔を上げた。
「……どうした」
「遅い! さっきからずっと呼んでたのにぃ!」
「ごめんごめん、集中してた」
本を閉じると、まだ八にも満たぬ
「何の本?」
「医学書だよ。お医者さんが勉強する本」
「
「まさか。……皆が怪我した時に、誰も手当できる人がいなかったら困るでしょ。俺は多くの場合生き残るから」
「ふーん? ねぇボスが呼んでた! スモッグがさっきさぁ!?」
足を振って腕の中で弾みながら話す恋弥の話に耳を傾けながら、少し違和感のあるトワイライトの本部を進んだ。
足を止め、振り返る。
腹の痛み、撃たれて血が出ている。出血多量。
痛みが少ない、まだ時間は経ってない。
静かな暗闇で、ドッと冷や汗が出た。
カツン、カツンとピンヒールの音が聞こえて、振り返るという行動すら浮かばず一歩踏み出した。
足が重たくて、進もうにも進めなくて、逃げたいのに逃げれなくて。
後ろから首に回された腕に、優しいはずの腕に息が詰まった。
「久しぶり」
あぁ怖い。怖い怖い怖い。
なんで、何もしてないじゃん。お前にやられる理由なんてないのに────
「君は永遠に逃げられないからね」
勢いよく咳が出て、それと同時に何かに呼吸を止められているのがわかった。
飛び起きて、見下ろすと茶トラ猫。
「ゲホッゴホッ!」
「だ、大丈夫ですか……!? み、水……」
「ゲホッ……ありがと……」
水を飲み、ふと雪を見上げた。
「なんで私のスペースにいるの?」
「佚世さんが熱で倒れたから看病してたんです!
「……一階は?」
「今日はもう閉じました」
「え何時」
「六時半」
「朝の?」
「夜の! 大丈夫ですか!?」
あぁ記憶の混乱がヤバい。
佚世は水を置くと、そのままバタンと寝転がった。
あぁ頭が痛い。くらくらする。
熱が出たから、あんな夢を見たのか。
「……あの、うなされてたみたいですけど、大丈夫ですか?」
「……嫌な夢を見ただけだよ。苦労かけてごめんね」
「いえ……」
「お前は口を塞ぐな」
にゃーと鳴いて人の体の上で飛び跳ねる茶トラ猫を退かし、寝返りを打った。
あぁ頭痛い。
雪がどこかに行ったかと思えば、すぐに帰ってきた。
「佚世さん、氷枕使ってください。少しマシになると思います」
「ありがと〜……!」
熱出した時に的確な看病されるっていつぶりだろうか。前はずっと、意味わからんことしかされてなかったから。
氷枕を敷いて、そのひんやりとした心地良さに感動する。あぁ極楽。
顔の前にしゃがんでじっと見てくる雪の視線に気まずくなって、目を開けると頬に手を添えた。
「どしたの」
「さっきまで顔赤かったんですけど、今めっちゃ顔色悪いんです」
「……夢のせい。おーいで」
「うわッ!?」
ニャーッと鳴いて茶トラ猫が逃げ、雪は佚世を見上げた。
雪を中途半端にベッドに引きずり込んだ佚世は満足そうな顔をする。
「ふざけてないで寝てください!」
「大きい声やめてー……」
「寝ろ」
「君最近また冷たくなったね」
「佚世さんが熱すぎるんです。ていうかほんとに熱い……」
「雪君ご飯作って? お腹空いた」
「離してくれます?」
佚世は服でわからないが、細身のくせしてかなり筋肉がついている。まぁ雪もそうなんだろうけど。
腕とかもかなりがっしりしているため、捕まったら逃げられない。
「俺も連れてって」
「引きずり回していいなら」
雪の看病で、あと多くは薬の効能で、元気になった佚世は白衣を着て下に降りた。
病院を閉めたと言えど暴れて傷口が安定しない患者や病人などはここにいる。
「こーゆー時に先生がいてくれると助かるんだけどねぇ」
「の、
「まぁ目が見えないだけだからね」
佚世が降りると、患者皆が目を丸くした。
「せんせーまだ寝とけ! 倒れて雪君顔面真っ青だったんだぞ!」
「薬でマシになってるから今のうちにと思って。雪君カルテちょうだい」
「はい」
雪は今いる人たちのカルテを渡し、佚世はそれに目を通しながら先に病人を確認した。
「……だいぶん落ち着いたね。明日には微熱辺りになるかな」
「せんせー薬は治すもんじゃねぇって言っつも言っただろ」
「私の薬は特別さ。用量を間違えれば毒になる劇薬」
雪は患者数人と共に佚世を引きずると、部屋に放り込んで戸を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます