7.甘えん坊
「雪君さぁ」
「はッ、はいッ!?」
「大丈夫? どうした?」
「あ、いえ……なんか、さっきの……佚世さんと話してた人、見たことある気がして……」
「ほんとに?
「名前は、わからないんですけど……」
少し俯く雪を見下ろすと、頭に手を置いた。
「まぁまぁ顔が広いからね。どっかで見たかも」
「……すみません、わからなくて……」
「怒らないよべつに。また思い出した時に教えて」
小さく頷いた雪の頭を撫でて、用件言えなかったなぁとぼんやりする。
小雨は大陸を管理する政府の、
でも施設とやらから逃げ出したって言ってたし、ねずみごっこしたとてたかが一般人が小雨に勝てるとは思えないし。
暗い顔をする雪の顔を覗き込むと、頬を撫でた。
気付いた雪は不思議そうな顔をする。
「悪い奴じゃないから。怖くもないよ」
「……さっき佚世さんが押える前、手伸ばされた時になんか、この人に近付いちゃ駄目だって思って……」
「……まぁ私の助手になりたいなら近付かない方がいいね」
「やっぱり……」
「でも賢明な判断と言えるのは向こう側につくことだよ? 法の中で世界の要に守られるんだから」
雪は少し残念そうな顔をしてから、そっと佚世を見上げた。
「俺が向こうに行くって言ったら、佚世さんは止めますか」
「……止めないよ。私は君の身が安全な道である限り君のやりたいことを応援する」
「それが佚世さんから離れることでも……?」
「まぁね。……正義に生きたいなら手配はしてあげるよ」
佚世が空を見上げながらそう言うと、ふと雪が立ち止まった。
佚世も足を止め、そちらに向く。
「どうしたの」
「俺は……正直、法律とか、どうでもいいです。法律があっても破る人はいるし、破らない人はなくても悪は起こしません。法律は常識を唱えているだけだと思っています」
佚世が首を傾げると、雪は俯いていた顔を上げた。
「俺は、俺にとっては優しい人が正義です。強い力を優しさで使える人が好きです。その力で、俺を助けてくれる人のそばにいたいです。……それでも、佚世さんは俺が行くことを止めないんですか?」
何か苦しそうな顔をする雪に首を傾げながら、そばに寄ると雪を抱き締めた。
「とんだ甘えん坊だ。……私は君の道を応援するし向こうに行きたいなら応援して送り出す。けれど、君が自分に嘘をついて向こうに行くなら私は君にそれを教えるよ。雪はそっちに行きたがってないよって」
「…………すみません」
「まだまだちびっ子だからね。……大人に頼りなさい。甘え方を覚えなさい。君の保護者は私だよ」
雪は震える手で佚世の背に手を回すと、自分より遥かに大きいその人にしがみついた。
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