もし余命1万日になったら

@pocomaa

もし、余命1万日になったら、あなたはどうしますか?

私は、30歳のしがないサラリーマンである。


小学校の時は、友達が多かったが、中学校→高校→大学→社会人と進むにつれて、友達が出来なくなっていった。その結果、現在の友達は0人である。もちろん、恋人もいないし、出来たこともない。連絡を取るのは、家族くらいだ。


今日もいつものように上司や顧客に怒られて、帰宅したところである。こんな家と職場を往復するだけの生活をずっと続けるくらいならいっそのこと自殺してしまおうかと考えてしまう。


そして、そんな気持ちで自宅にある包丁を手に取り、眺めていると突然目の前が光った。


「あなたを助けにきました。」


目の前に天使っぽい見た目の人?が現れた


「あなたは、今自殺しようと考えてますね?そんなことはしてはいけません。」


自殺しようとまでは考えていないのだが…


「そんなあなたに良い知らせがあります。あなたに能力を授けましょう。」


能力?


「はい、能力を授ける代わりに余命1万日になってしまいますが…今自殺するよりはいいでしょう」


余命一万日?結構長いな…30年くらいか?ていうか能力って何?


「はい、その能力とは「時間巻き戻し」です。こちらも使用毎に代償に余命1日減りますが、1万日のうちの1日なので、特に影響はありません。使用方法は簡単です。頭の中で「時間よ。巻き戻れ」と願うだけで、24時間時間を巻き戻せます。」


24時間時間を巻き戻せる?何か嫌な出来事があったとしても、無かったことにできるってこと?


「その通りです。その1日に起きた出来事が完全に無かったことになります。巻き戻したら、24時間前にいた場所で同じ状態でスタートです」


デメリットは、余命が1日減るだけ?


「その通りです。能力を使えば、何が起きたとしても、無かったことに出来ます。」


凄い能力だな…余命1万日っていうのもあと余命30年くらいと考えるとそこまで悪くない…


「どうですか?契約しますか?」


よし…契約しよう。別に長生きしたいわけでもないし。


「では、今の言葉を契約とみなし、能力を授けました。今後より良い人生を送ってください。さようなら。」


天使っぽい見た目の人?は、その言葉を最後に消えた。


体に特に異変はない。本当に能力が使えるようになったのだろうか?


試しに使ってみようか?今日会社で怒られて、明日行きにくいし…


―――時間よ。巻き戻れ


目の前がパッと光ったと思い、目を閉じ、開いたら、同じく自宅にいた。昨日の同時刻もそういえば自宅にいたなと思いながら、スマホを見ると驚くべきことに本当に時間が巻き戻っていた。


これは…本物だ。


今後のことを考える。能力は確かに凄いが、やはり一日の寿命の代償は大きい。頻繁には使用せず、ここぞという時だけ使い、慎ましく残り9999日生きよう。そう考えながら、今日は眠りについた。


それからというもの、会社で何かミスした時に能力を使うのみで順調に生活していた。


ミスがなくなったため、会社で怒られる事は無くなったどころか、上司や顧客からの評価も上がり、会社での居心地は凄く良くなった。


ただ、そんな毎日を続けている時に、ふと考えた。能力をもっと別のこと使えないかと…例えば、宝くじを時間を巻き戻すことで当てることはできないかと。


実際にやってみて…成功した。最初は何度か失敗した。自分のした行動が少しでも変わると未来が変わってしまうのだ。初めは、出来るだけ前回の行動をトレースしようと考えたが、少しの行動で未来が変わってしまうため、無理だった。


では、どうしたかというと、宝くじを買う行動以外一切他人と関らず、家に引き篭もることにした。そうすると、他人と干渉しないためか、多少の誤差があっても未来は変わらなかった。


そうして、宝くじを当てることに成功した私は、会社を辞めて、悠々自適な生活を送っていた。


また、しばらくすると、何か物足りないことに気付く。家や車、食事やスマホ、ゲーム…様々なものは買ってきたが、心が満たされない。


そうだ。彼女が欲しい。思い立った私は、彼女を作ろうとするもなかなかできない。


元々人付き合いが苦手であり、コミュニケーション能力が無いのとイケメンでもないため、女性を振り向かせることが出来ない。


振り向かせるために自分がお金を持っている事を告げるも、それでこちらに近づいてくるのは、金目的の詐欺的な女性ばかりだった。まあ、詐欺に合っても、時間を巻き戻したので、ノーダメだが。


うまくいかない日々が続き、ある事に気付く。そもそも振り向かせる必要がないのではないかと。自分には、時間巻き戻しの能力がある。仮にレイプしたとしても時間巻き戻しの能力を使えば、無かったことに出来る。


そうして、私は、会社の同僚や学生時代の憧れの女性、アイドルや通りすがりの女性までレイプしていった。お金も必要がないと判断し、欲しい物は窃盗で得て、捕まりそうになったら、時間巻き戻しの能力を使う毎日になった。


するといつのまにか、29歳の誕生日にまで遡っていた。そこでまた、突然目の前が光り、また見覚えのない天使っぽい見た目の人?が現れた。


「あなたを助けにきました。」


今度はなんだ?


「あなたが契約したのは、悪魔です。あなたは、騙されています」


どういう意味だ?


「私が契約を無効にし、全て無かったことにしてあげます」


全て無かったことに?


「そうです。契約以降の記憶を全て無くし、契約する直前の状態に戻します。あなたの寿命も元に戻ります」


能力も無くなるのか?


「当然、無くなります」


それは困る。能力をもらう前の自分に戻ったとしても、絶望の未来しか視えない。今のままでいる方がずっといい。


「これが契約を無効にする最後のチャンスですよ?本当に良いのですか?」


いらない。私は、今まで通り、この能力を使って、やりたい事を好きなようにやる。


「残念です」


そう告げると天使っぽい見た目の人?は消えていった。


寿命といっても、まだ千日も使ってないだろう。残り9千日もある。まだまだ、好きな事をするぞ。そう決めて、またしばらくが過ぎた。


いつの間にか、大学生時代まで遡っていた。今まで通り、好き放題遊んでいた。寿命も大学生時代まで遡ったとしても未だ5千日以上残ってるはず。余裕である。


ふと街中に行くと、嘗ての上司と会った。目が合ったため、一応軽く会釈した。だが、嘗ての上司は無視して、そのまま行ってしまった。それもそのはず、今の自分は大学生であり、会社員として8年間勤め上げたことは無かったことになってしまっているのである。


少し、不安感を抱きながらも、社会人の経験なんて、貴重でもなんでもないと切り替え、また好き放題遊ぶ事にした。


またしばらくすると、いつの間にか高校生時代まで戻っていた。大学生時代は友人はいなかったが、高校生時代は数少ない友人がいたため、その数少ない友人と仲良くしようとするも現在の自分との価値観の違いからかうまくいかない。大学生・社会人を経験していることや今まで好き放題してきた経緯もあり、自分が大きく変わっているためである。


また、好き放題遊んでいたのもだんだん上手くいかなくなってくる。元々体も大きくなく、体力等もないことや、学校や家の縛りが強くなったことで、一日遊ぶ等も難しくなってきた。


この辺りで契約をした事を後悔し始めた。残りの寿命を考えるのが怖くなってきたし、失敗を無かったことにする能力があったとしても、そもそもうまくいかないため、ずっと失敗続きになっているのである。


また、今までの自分の人生を無かったことにしてしまったことも、後悔した。友達がいなかったにしても大学をきちんと卒業し、就職したこと、そしてその後8年間会社員として勤め上げたことは、思い返すと、大切な自分の人生であり、無かったことにしてしまってはいけないと気付いたのである。


ただ、気付くには既に遅く、日々を巻き戻すしかなくなっていった。


またしばらくすると、中学生時代の15歳の誕生日の前日まで遡っていた。2度目の高校生時代は、ずっと上手くいかなかったため、気持ちを切り替えて、今までのことを全て反省し、学生時代の友人たちとまた仲良くできるように頑張ろうと心を入れ替えていた段階であった。


そこでまた、突然目の前が光り、初めに出会った天使っぽい見た目の人?が現れた。


「お久しぶりです。寿命が残り一日となったため、お伝えに伺いました」


そんな馬鹿な。30歳から1万日前まで遡るなら0歳とまではいかなくとも、3歳くらいまでは遡れるはずだ。


「ええ。ただ、契約してから過ごした時間も、もちろんカウントしてますので、合計で9999日になってます」


嘘だ。何もない虚無な時間を、9999日過ごしたというのか。それだけではなく、私の大切な人生まで奪ったのか。


「どうせ自殺する程度の人生なら、無かったことにしても、何ら問題はないでしょう」


ふざけるな。私は自殺する気なんてなかった。今までの自分の人生を振り返り、少し感傷に浸っていただけだ。


「そうだとしても、色々好き放題できる夢を見ることが出来て、良かったではないですか」


夢?


「そうです。あなたは、ずっと楽しい夢を見ていたんです。代わりに自身の人生を失ったわけですが…」


どういうことだ?


「私は、貴方がこの日まで戻ってくることがわかっていました。また、この先までは戻れないことも。私は、悪魔で、死神です。貴方の命を15歳までに頂くために、ここまで夢を見せることで案内したのです。」


そんな…お前は天使ではないのか?


「私は天使だと名乗った覚えはありませんよ。あと、寿命が尽きた場合の死に方については、選べませんので、お知りおきください。どんな死に方にしようかなあ」


不気味な笑みを浮かべながら、悪魔が言う。私は…


「楽しみにしててください。ではさようなら」


私が、次の言葉を言う前に悪魔は一方的に話して消えていった。


天罰かもしれない。無かったことにできるからといって、何でもしていいわけではない。自分が好き放題し、他人の人生を無茶苦茶にした記憶は残っている。


私は、悪い夢だといいなと思いながら、眠りにつく。


私の人生で最後の最低で最悪な絶望の一日が始まる。




終わり

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