第7話 影の都

勲は、電車を乗り継ぎ、仙台の地に降り立った。


仙台市は東北地方唯一の政令指定都市であり、近隣の県からも買い物などで訪れる人が多い、中核的な都市である。


勲の出身地である日本海側の県庁所在地とは昼間に歩いている人の数も、都市の規模も段違いに大きい。


ただ、勲はこの大都市に若干、陰鬱な影に近い印象を受けた。


かつて、明治維新政府が奥羽列藩同盟を戊辰戦争で打ち破って以来、東北地方は日本の日影者として、戦前、戦後扱われて来た歴史がある。


戦後、テレビなどで田舎者と言えば、上野駅から降り立ち、東北弁を話す「金の卵」と呼ばれた若者達だった。


長州藩、現在の山口県出身の佐藤栄作をはじめとする戦後の政治家達も彼らを都市部における安価な労働力として、日本の経済発展に利用した。


低学歴で過酷な労働環境の下、必死に働いた彼ら彼女らのおかげで、日本の奇跡とも言える高度経済成長が実現した面もある。


もちろんそこには、多くの犠牲と屈辱を伴っていた。


読者の参考に、戦後の労働者蔑視を体現する事例を紹介しよう。


政治家や官僚、大企業関係者を心胆を寒からしめる程、労働運動が激しかった会社がある。


「日本国有鉄道」である。


半官半民のこの会社は、超が付く程の学歴社会であり、当時は監督官庁の運輸省より、人気の就職先であった。


あまりの労働運動の酷さに、国民的な非難を浴び、分割解体の運命を辿ったが、労働運動が過激化した背景には、人を人とも思わない、労働者蔑視思想があった。


こんな話がある。


ある時、現場作業をしていた労働者が、

「こんな暑くちゃ敵わない。水が欲しい。」とぼやいていると。


それを聞いた管理職が

「そんなに喉が渇くなら、水をやるぞ。」

と、薄汚れた雑巾を労働者の顔にかけ、笑ったそうである。


こんな屈辱的な扱いを受ければ、誰だって怒りを覚える。


こうした労働者蔑視の背景には、勉強出来なかったのは、努力が足らず、人間性が劣るというある種の学歴主義が見え隠れする。つまり、勲の思想だ。


そうした背景が、知ってか知らずか、勲に影を感じさせたのかもしれない。


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