第6話 俺は泥人形じゃない

選抜試験に落ちた勲は、

勉強に励んだ。


彼は自分は上等な人間で、

泥人形ではないと証明したかった。


その甲斐もあって、成績は上々で、

進路指導の教師と相談の上、

東北、仙台市にある有名国立大学を第一志望とすることにした。


別に、仙台に行きたいわけじゃない。

ただ、有名大学に入って一角の人間だと認めさせたかった。


選抜試験以降は、成績も順調に伸び、

模試でも良い評価が取れる様になった。


そして、勲は無事第一志望の大学に合格した。


感動はなかった。然るべきことをして、

然るべき場所に、ふさわしい場所に行くだけだという認識だった。


もちろん、寺の子の様に東京の国立大学に合格したわけではない。


だが、考えて見てほしい。

仙台の国立大学は日本でも有数の大学であり、同世代でこのレベルの学校に進学できる人間はほんの一握りに過ぎない。


このレベルの大学に入れる人間は、

継続的な努力、そして賢さ、尊敬されるべき人間性を有した人間だ。


正に、日本の選良である。


一番喜んだのは、学の無い両親だった。

大学に受かると、これまで以上に、自分の両親含め周りの人間が自分と異なる泥人形に見える。


ただ、一方で憐憫に近い感情も感じる。

彼らは生まれながらにして、泥人形だった。

そこに罪はない。


ならば自分が彼らの保護者になってやらねばと思うのである。


仙台の国立大学に合格したことは、

彼の自尊心をこれまで以上に肥大化させた。


何も社会的に為していない。ただの学生になっただけにも関わらず、彼の脳内は幸福な神経伝達物質が大量に出ていた。


満州から引き上げ医学部を出たある作家は

受験の幸福感を「麻薬」と呼んだのも納得できる。


そんな彼の合格祝いが祖父の家で開かれた。


彼の合格を皆が称える中、

叔父が一言。


「合格おめでとう。良かったな。でも、仙台は遠いぞ。地元の国立の方が良かったんじゃないか。」


勲は叔父を一生許さないと誓った。

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