第5話 関所

高校生活も折り返し地点を過ぎ、勲も志望校を具体的に考える時期になった。 


勲の高校には、特に成績優秀な学生を集中的に支援する特別講座があり、特に成績優秀な寺の子は、既に1年時からここに参加していた。


ここの学生は、東京や京都の国立大学への進学を期待されており、この講座に入ることが情報が乏しい地方から一流大学に入るための登竜門であった。


都市部在住の方には、理解が難しいかもしれないが、多様な情報通信技術が発達した現代でも、教育における地域間格差は大きい。


そのため、こうした講座への参加が時として、本人の進学先に大きな影響を与える。


当然、立身出世を望み、高い自尊心を有する勲も特別講座への参加を希望した。


成績面で言うと、高校内で上の中といった成績だった勲は、十分に参加資格はあった。


学校側は、多くの参加希望者が出たことから、2年の10月に選抜試験を実施し、その成績上位10名を特別講座の受講生とすることとした。


試験は勲の得意な数学と英語であり、

これまでの成績を考えれば当然、合格するものだと本人も周囲も信じて疑わなかった。


試験の前日、勲は夢を見た。


大きな蔵の中に幼少期の勲が居て、積み木を組み立てていた。どうやら城を作ろうとしているらしい。


城の完成まで後一歩のところで、祖父が蔵に入って来て、勲の腕を掴んだ。


「勲、ここにずっといちゃいかんと言ったじゃないか。だめだ。早く出なさい。」


積み木を持った勲は積み木を離さず、

クズっている。


「どうして、じいちゃん。ここは楽しいのに。いやだ、ここにいるもん。」


「分かりました。それで結構です。どうぞ気がお済みになるまで、蔵の中にいて下さい。」


急に腕を離された勲は、尻餅をついて、その場に倒れた。


先程まで祖父だったものは、見たことがない男になっていた。


「あなたが望んだんですよ。」


勲は汗びっしょりで目を覚ました。


気分が悪いまま、勲は特別講座の選抜テストを受けていた。


まったく分からない。


今までだったら、スラスラ解ける問題が分からないのである。


一番驚いたのは、先生連だったが、勲は選抜を通ることが出来なかった。


勲は選抜試験に落ちたショックを受けつつ、

それよりも、夢の内容に薄気味悪さを感じていた。


試験結果を告げる先生の「今回は運が悪かったんだ。次は頑張ろうな。」との声を聞きながら、左肩が重たくなった気がした。

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