第3話 ふさわしい場所
勲は中学時代も成績優秀で、県内有数の進学校に合格した。
両親や中学の教師連からは大層喜ばれたが、本人からすれば当然のことだった。
周囲や社会の愚かしさ、不合理さを見るにつけ、自分はその持てる能力を持って、社会を少しでも良い方向に近づけようという青年期特有の理想主義が彼の頭を占めるようになった。
そして、自分自身もここではないふさわしい場所で、然るべき位置を占めるべきだとの認識を強くした。
県内有数の進学校なだけに、彼の出身の公立中学校の同級生達よりは、皆勉強が出来た。
とはいっても、勲はやはり数学、英語の成績が優秀で、進学校といってもこの程度かという認識を持っていた。
そうして、順調な高校生活を送る中、高校1年の正月、彼の人生に大きな傷痕を残す事件が起こる。
元旦、勲の家族は近所の神社に初詣の後、地方都市から車で40分程離れた祖父の家に親族で集まるのが通例となっている。
その年の元旦も勲達は、祖父の家に行き、親族と挨拶を交わしていた。
お節料理、オードブルなどを囲みながら夕食を取り、お酒を飲みながら、親族間の近況報告で場が盛り上がる中、勲の父方の叔父が勲に話しかけた。
「勲、いい高校に進学したってな。おめでとう。勉強も頑張ってるみたいだけど、将来は大学進学も考えてるのか。」
勲は叔父の言葉に、初め反応出来なかった。
大学進学を考えてるかって。
俺が高卒で就職すると思ってるのか。
あり得ないだろ。
色々と頭の中を言葉が駆け巡ったが、
言葉になったのは、
「そうだね。今の成績なら国立も狙えるしね。」
という当たり障りのない言葉だった。
新たなビールを自らのグラスに注ぎながら叔父はより上機嫌になりながら、
「おっ。そうか。そりゃいいね。そうしたら通学も楽だろうし、下宿もしなくていいし、負担が少なくて兄貴も大助かりだな。勲、親孝行だな。」
と発言し、勲の肩を叩くのだった。
叔父に悪意はまったくなかった。
地元で小さな建設会社の社長をしている叔父はまったく悪意なく、自らの思ったことを話しただけだった。
勲はただ「そうだね。」と言葉を返すのが精一杯だった。
帰りの車の中で、勲は激しい不快感と怒りを感じた。
俺が地元の馬鹿みたいな国立大学に進学すると思っているのか。この俺が。
なんでこんな陰気臭い地方都市で骨を埋めなきゃならないんだ。
あり得ないだろ。あり得ない。
あいつは俺のことを馬鹿にしているのか。
あの無教養で学の無い叔父は俺を何だと思ってやがるんだ。
ふざけるな。
おれにふさわしい場所はそんなとこじゃない。
ふざけやがって。
彼にとって屈辱的な思いを残したこの事件はその後の彼の人生に大きな影響を与えることになる。
本人が思っている以上に。
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