第99話 盛っていいのはメイクとプリとフォトとご飯に……あれ、色々あるね?
「ごめん。その日はバイトでさ」
俺の答えを聞いて、レオナさんは残念そうに笑った。
リアルのハロウィンの仮装パーティーを、二人で楽しむなんて期待をしてくれていたのかもしれない。
「予想はしてたし、謝らないでいいよ。
「うん。ハロウィン限定で喫茶・武流姫璃威はカフェ・ヴァルキリーになります」
テキストチャットでそれぞれの店名を入力し、レオナさんに送る。
「お、おおー……」
レオナさんは感嘆の声を上げ、
「え? 見た目はほとんど変化ないけど、中身がリファインされて高性能化されてるあれ?
眉をひそめて疑問を口にした。
「まず内装がここみたいにハロウィン仕様になります」
「お、おおー……」
「ついでにメニューもハロウィンスイーツが提供されます」
「お、おおー……」
「さらにスタッフの制服も和風給仕服や洋風メイドから男装仕様になります」
「お、おおー……」
レオナさんはずっと感嘆と疑問が交じった声を上げ、相づちを打つ。
そしてようやく言葉を発した。
「男装かー……鷹城さんはもちろん、背の高いかっこいい人もいたし、みんな映えそうー」
「最初はレオみたいなコスだったらしいんだけどね」
「なにかあったの?」
「なんで男装なんだろ? と思ってさ。鷹城さんに聞いてみたんだ」
その時のことを思い返しながら話を続ける。
「……ハロウィンにかこつけた勘違いクソ野郎が多すぎてぶっ殺したくなっちゃったんだよねー、ってお菓子に使うナッツをめん棒で叩きながら笑顔で言ったんだ。それ以上は怖くて聞けなかった」
あの時の鷹城さんの笑顔は、このイベントの比じゃないくらい血と死の香りが漂っていた。
男としての本能が危険を訴えていたのを覚えている。
「そ、そか。ウサボンが怖いとなると、相当な迫力だったと見える。まあ、うん。コスは、ね。軽く見ちゃう人もいるしね」
「そうだね。だから男装に変えたんだって」
「じゃあ、ウサボンはいつもどおり? ハロウィン仕様っぽくなる?」
レオナさんが俺がどんなコスをするのか気になり、質問をするのは分かっていた。
言葉につまる。
……言いづらいな。
「ウサボン? どーかした?」
レオナさんに顔をのぞき込まれ、反射的にそらしてしまった。
それを見てレオナさんは顎に手を当て、考えを口にする。
「んー……変なウサボン。女子のみなさんは男装コスでしょ。別にウサボンは男子だし、そのままじゃ……え?」
どうやら答えに行き着いてしまったらしい。
「え? まさかウサボンは女装、するの?」
無言で頷く。
「ごめん。彼女としての意見を言ってもいいでしょうか?」
手をあげるレオナさんに頷く。
「許可します」
「ウサボン。マジでごめん。さすがにそれは無理がない? 大事故の予感がビンビンしてるんだけど」
レオナさんは気まずそうに言った。
ほっと息を吐く。
「よかった。レオナさんもそう思うよね?」
俺は背が高く、がたいもほどほどによく筋肉質。顔つきも強面の男。女装は無理があるレベルだ。
「まあ、俺が話題を変える意味もあって――そうなんですか、別に男女逆転ってコンセプトじゃないんですね、よかった、って。うっかり言っちゃったのが始まりなんだよね……」
「なるー。ウサボンの爆弾発言がここで発動しちゃったかー。なむ」
「それでみんなのコス魂に火をつけてしまったというか。不可能だからこそ挑戦したくなるというか。盛り上がっちゃって」
「そーなんだ。なんとなく、分かるけどね。私も、見たいかー見たくないかーって聞かれたら? 絶対見たい! って言っちゃう自信あるし」
「素直な意見ありがとうございます」
俺がお辞儀をすると、レオナさんが同じように返した。
「どーいたしまて。でも、さ。嫌なら断った方がよかったんじゃない? 鷹城さんが無理にコスさせるような人とは思えないし」
「そうだね。無理にコスさせる人じゃないよ。ただ初めてバイトをして、人と接することが全然できなかった俺をみんなで指導して助けてくれたから。少しでも力になりたいなって」
他にも個人的な理由はあるけど、大したことじゃない。
「あと、男装でも勘違いクソ野郎対策の魔除けは多いに越した事がないから、とのことです」
「なるほど。それはウサボンが適任だね。納得です」
わざとらしく
「心配してくれてありがとう。もうコスの試着はすませてて、素肌が見える部分は顔くらいだよ。後は全部服とかタイツで隠す感じ。
普段の
「色々属性てんこ盛りすぎない? 盛っていいのはメイクとプリとフォトとご飯に……あれ、色々あるね? し、しかし属性てんこ盛り大渋滞は大事故の予感があ……!」
レオナさんは手をわなわなと震わせ、戦慄している。
昔盛りすぎて大事故を起こした経験でもあったのかな……?
「ミーティングでみんなが白熱した議論を繰り広げた結果、いつの間にか盛られまくってしまいまして。まあ、当日も鷹城さんや先輩にサポートしてもらえるし。頑張るよ。頑張るよ」
ただ、とまだ完成していない部分について話す。
「ちょっと問題があって。鷹城さん的には長髪のウィッグがしっくりこないらしくてさ。明日
以前、髪を切りにレオナさんに連れて行ってもらったヘアサロンEDENの店長だ。
俺の悩みに寄り添ってくれた優しい人でもある。
「キンちゃんのところ? 確かにキンちゃんなら最高のウィッグに仕上げてくれそうだしね。あれ? でも鷹城さんとキンちゃんって、昔は交際して同棲してたんだよね? 気まずくはー……なさそうだったけど、平気かな?」
「お互いに色々あるみたいだけど。関係は良好みたいだから。連絡は取り合ってるみたいだし。明日、お礼も兼ねて行ってくるよ」
「……そっか。ウサボンが一人で行けるようになって。私も嬉しいよ」
レオナさんは胸元に手を当て、自分のことのように喜んでくれる。
前はレオナさんの協力がなければ、足を踏み入れることさえできない場所が数多く存在していた。
今は一人で歩けるようになり始めている。
もちろん一緒の方が楽しいに決まっているけど。
「ありがとう。もちろんレオも当日は来ていいからね。サービスします、お嬢様」
演技じみたように胸に手を当て、
さすがに白い毛玉ウサギじゃ絵にはならならいけど。
レオナさんは嬉しそうに笑ってくれる。
「えへへ……ありがと、ウサボン。お呼ばれします」
と、レオナさんが空に指で四角を描き、真剣な眼差しになる。
「ちなみに写真撮影はオーケーですか?」
「スタッフに許可を取った上で、マナーを守った良識ある写真撮影はオーケーです、お嬢様」
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