第53話 アアアアアァァルティィィィッエヌッ!

「オーホッホッホッ! 獅子王レオナ! 先は不覚を取りましたが、玉入れは負けませんわッ! 雑草抜きで鍛えたエレガントな手さばきで圧勝してみせますわッ!」

「分かってないなー、フル美。力極振りじゃ肝心の敏捷&器用を殺しちゃうぜー?」

「だから、フル美なんて変な呼び方は即刻おやめになってくれませんこと!

 わたくしの名前は花竜皇かりゅうこうフロレンルティーヌ美来みらいですわッ! いつになったら学習するんですの!」


 玉入れの場所が隣とあって、獅子王さんと花竜皇さんが挨拶がてらいつものやり取りをする。


 みんなはもう慣れっこなのか、気にせず準備している。


「もち知ってるって。習い学びまくってるし。あ、そだ。じゃ、今日の勝負で勝ったらフル美呼びでオケ?」

「勝手に決めないでくれませんか! でも、いい機会ですわッ! その提案飲みましょう!

 私が勝ったら金輪際こんりんざいフル美呼びはやめてもらいますわッ! そして貴方の方こそレ……レレレレレ……レ、オ……美」

「レオ美呼び? 別にいーよ? その呼び名もまたエモくね?」

「そうなんですの!? エモいんですの!? ハッ!? と、とにかく力を上げれば敏捷も自ずと上がりますわッ! 多分器用さも!」


 確かに思いっ切り投げるだけじゃカゴに入りにくいだろうし、ちゃんと調節しないといけない。


 しかし、軽いノリで呼び名まで賭けちゃって平気かな……花竜皇さん。


「ま、今のうちに好きに言っておくといいよ。こっちにはとっておきの作戦があるし」

「ぐっ! さっきみたいなトンチンカンな奇策ですの! 玉入れは基本が物を言う競技ですわッ! 地道にコツコツが一番ですわッ!」

「略してRTN!」

「あ、あーるてぃーえぬ!?」

「そう、アアアアアァァルティィィィッエヌッ!」

「RTN……一体どんな作戦ですの!?」

「むざむざ敵に教える愚行を犯す軍師がいるとでも? 玉の数を数える度にRTNの恐ろしさをその身に刻むといい……」


 ぐぐぐと悔しそうにする花竜皇さんに背を向け、獅子王さんがドヤ顔で戻ってくる。


「レオナ。フル美に大口叩いたけどマジで考えてんの?」

「むぅ。軍師レオにゃんの采配はいかに」


 虎雅こがさんと豹堂院ひょうどういんさんが半信半疑で尋ねる。

 ……RTN。


 RTA――リアルタイムアタックみたいな感じかな。相手が地道にコツコツなのに対して、とにかく手数で勝負的な作戦?


「臨機応変にとにかく投げまくる!」


 だいたい合ってたみたいだ。


「略してアアッ――!」

「あっそ。とりま、その場のノリでなんも考えてないと思ったからいいけど」

「うむ。レオにゃんに軍師ポジは無理よのう」

「ちょ! だから考えた結果がRTNなんだってー!」


 二人に冷めた眼差しを向けられながらも、獅子王さんはめげずに言う。


「ま、RTN。いいんじゃね?」

「そーそー。ようは数打ちゃ当たるって感じでしょ!」

「おう! つまりは肩がもぎれるまで投げ続ければいいって話だぜ!」


 逆にクラスのみんなの火を付けたらしい。

 恐るべきバフ効果だ。


「み、みんな! ありがとう! そう! つまりはだいたいそんな感じ! とりまガンガン投げ込もーぜ! RTN!」


 おー! RTN! とみんなが返事をする。


「それでは一学年対抗玉入れ競争スタートです! どのクラスがより多くのお手玉を入れられるのか! 注目です!」

「UuuuuMッ! 一つ一つが武士もののふの命を繋ぐ兵糧ひょうろうと思って投げ込むべし! BUUNNッ」

「だそうです! ぶん!」


 玉入れ競争は小学生の運動会からやってきたけど、ちゃんとした攻略法があるのかは分からない。


 ただ数回も投げれば、だいたいの力加減は把握できる。


 あとは確実にカゴに入れる。外してしまう無駄玉をなくす。とにかく試行回数を減らす感じだと思う……んだけど。


 ひょい、ひょい、ひょい。

 どんどんお手玉をカゴに投げ込んでいく中、


「あの、豹堂院さん……?」


 散らばるお手玉を拾い集め、俺に手渡してくる豹堂院さんに声をかける。


「シズコのことはお気にせず。シズコのフィジカルではカゴに入れるのはノーフューチャーで至難の業。よってウサノスケのサポートに回るが吉。これもRTN」

「コラッ、静子ッ! 楽しようとすんな!」

「そーだよ! シズぽよだけずるい! 私も兎野君にパスしたい!」

「そう言われてものう。シズコは本より重い物は持てない文学少女ゆえ。フィジカルモンスターの二人とは雲泥うんでいの差よ。勝つためには致し方ないこと」


 豹堂院さんは小柄だ。

 俺より遙かに高い位置にあるカゴに投げ込むのは、確かに至難の業かもしれない。


「いやいや! この前めっちゃ重そうな辞書平気で持ってたでしょ!」

「そーそー! この重み……知識の歴史を感じる……レガシー……とか決め顔で言ってたじゃん! そもそもお手玉ってめっちゃ軽くね!?」


 獅子王さんと虎雅さんも的確にお手玉を投げ入れながらツッコミを続ける。

 もちろん勝ち負けは大事だけど……。


「豹堂院さん、やっぱり自分で投げるべきじゃない、かな」


 みんなと一緒に参加したって思い出も大事だと思うから。


「うーむ。皆にここまで言われたのなら仕方ない。シズコの本気、お見せしよう」


 豹堂院さんがやる気を出し、自らお手玉を放り投げる。


 ぽて、ぽこ、ぽふ……。


 今度は俺の頭に確実に乗っかっていく。

 コントロールは凄く、いい。


 どうすれば、と考えながら頭に乗ったお手玉もカゴに投げ入れる。


「やはりシズコのフィジカルではこれが限界の模様……」

「うらやまたのしおもしろそう……! クッ! 静まれ! 私の右腕!」

「レオナは集中しろって! 兎野、悪いけどそのままよろしく!」

「う、うん!」


 豹堂院さんも一生懸命なのは分かっている。狙ってやっているわけじゃない。

 頑張りを無駄にしないために、無駄玉は一つも出さない。


「オーホッホッホッ! あっちは指揮系統が乱れていますわ! 皆さん今ですわッ! 土いじりも玉入れも地道にコツコツが一番だと証明して見せましょう!」

「花竜皇さんの言うとおりだね! 地道にコツコツビクトリィィィを目指そう!」


 B組は本当に地道にコツコツながらカゴにお手玉がどんどん溜まっていく。

 想定外の事態が起きながらも玉入れ競争はあっという間に終わった。


「な、なんとA組とB組が全てのお手玉を入れきりパーフェクト! 同数で同率一位!」

「UuuuuMッ! 恐るべき集中力と精密さ! そして最後まで投げきれる胆力よ! 見事なり!」


 結果としては玉入れは同数で引き分け。


「おかしいですわッ! あれだけ紛糾していたのにパーフェクト!? こ、これがRTN! 恐ろしい作戦ですわッ!」

「でしょー! 確実に作戦を遂行したA組の団結力をみたか! アアアアアァァルティィィィッエヌッ!」


 やっぱり……地道にコツコツが一番の近道なのかも。

 やってることはまあ、その、同じだったし。


「ありがとう、ウサノスケ。シズコの分も頑張ってくれて感謝。頭、痛くない?」

「悪かったね、兎野。なんか色々」


 そのかたわらで豹堂院さんと虎雅さんに労われてしまった。


「平気だよ。お手玉は軽いし、柔らかいし。同率だったけど、一位には変わりないし。よかったよ」


 こういう機会だからこそ深まる仲もあるだろうし、いつもより気軽に話せることだってできる。


「さすがレオにゃんの無茶ぶりに耐えられるだけある」

「だね。あ、でも。本当に嫌な時は言いなよ。そういうなあなあがさ、関係をこじらせるんだから」

「うむ。いくら丈夫といえど、ウサノスケもうら若き青少年だからのう」

「えっと、うん?」


 あれ? 労われてるというより心配されてる?

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