第40話 スイパラで、チェストで、ござるで、ヒャッハー!

〈Garden Of Fantasia〉では、プレイヤーが幻想の庭園の守護者として世界を巡る設定になっている。


 GvGの拠点も突如出現した庭園を調査する名目で争う設定だ。


 無差別オープン戦の1チームの最大参加人数は36名。計三戦で争われ、一戦毎に10分の休憩と作戦タイムがある。


 ギルド同士の同盟も許されており、同盟ギルドそれぞれに当てられた専用の待機室で開始を待つ。リスポーンもここに設定されるわけだけど。


「噂の新人さんー? どれどれー?」

「黒ウサビスタリアー。ミニマムイケメンですなー。こだわりを随所から感じる造形美」

「よろしくねー。えっと爆走毛玉珍獣ウサボンバー……ウサボンバーさんでおけ?」


〈満腹スイーツパラダイス〉の同盟ギルドである〈Wildワイルド Breakersブレイカーズ〉のみなさんに囲まれてしまっていた。


「よろしくお願いします。みんなはウサボンって呼んでいるので、それで……いいかと思います」

「うわっ! 声若っ!」

「おいこらー? 声を弄るのはルール違反でしょー? 新人いびりやめろー?」

「まったくだ。みんな枯れたおじさんおばさんだからって、若者ボイスに憧れるなよな。普段の声優ボイスモードで我慢してろって。ちな……まじで地声?」

「は、はい」


 いいなあー! と〈Wild Breakers〉みんなが声を揃えて言った。


 ドラさんとちょこさんの元所属先で、大手ギルドの一つとして有名なので緊張したけど……話しやすそうな人たちで安心した。ネトゲ特有のノリと個性が強そうな人たちみたいだけど。


 それでもネトゲなら初対面の人たちでも目を見て話せる。


「スイパラさんたち今日もよっろー。新人のウサボン殿もよろしくねー」


〈Wild Breakers〉のギルマスである不破無頼漢ふはぶらいかんさんが朗らかに声をかけてきた。


 凄い漢みたいな名前だけど、ビショップでコテコテの姫衣装スタイルのヒューマンだ。


「おー。ブラインもよろー」

「ちょこ師もよろー。いつもの感じで荒らし回って、参加勢力の情報共有お願いしまっーす」


 ちょこさんと不破無頼漢さんがハイタッチを交わす。


 ちなみにちょこさんの正式名は〈†Bloodyブラッディ Chocolateチョコレート†〉で、エルフのフォレストレンジャー。


「ウサボン君や。どうかね? 緊張している?」


 ぬっと背後から巨大な鎧を着たドラさんが現れた。


 ドラさんの正式名は〈ドラヤキ大魔王666世〉で、キャラクリで可能な最大サイズの巨漢の髭もじゃドワーフ。ジョブはパラディン。


 普段は動いたら負けTシャツを着てるけど、今回は完全装備で重武装になっている。


「はい、大丈夫です」

「うんうん。ならよかったー。最初だし、どんどん突っ込んで死んで覚えていけばいいよー」

「ドラヤキ。何を言っている。ウサボンはこの俺が手塩にかけて育てたのだ。そう簡単に死ぬことはない」


 他にもいつものトマトのかぶり物をしたトマト大佐に、


「あーし的にはウサボンはヒーラーがよかったけどー。まあ、優男スタイルより、勇者スタイルもとりまオッケーかな」


 マシンロイドという機械人形で手製機械音声で話すハウンドスナイパーのSH=Markマーク.Ⅷさんに、


「うむ。ウサボン殿も共に蛮刀に全身全霊をかけようではないか」


 同じビスタリアのウルフ族でロードナイトの蛮刀両断ばんとうりょうだんマンさんなどがいる。


 ……俺の爆走毛玉珍獣ウサボンバーもそうだけど、〈満腹スイーツパラダイス〉のみんなの方が個性が強そうな気がしてきた。


「よーし! みんな集合ー! いつものいくぞー!」


 ドラさんの号令にスイパラメンバーだけでなく、〈Wild Breakers〉のみんなまで集まってきた。


 ……ま、まさか。あれをここでやるのかな。


「ノーダイエット! ノーロカボ! ノーヘルシー!」

「イエススイパラ! イエス食べ放題! イエス満漢全席まんかんぜんせき!」

「オールゥゥゥゥッ! ゼロカロリィィィィィッー! グラトニイィィィィーッ! ヤアアアアアァァァァッー!」


〈満腹スイーツパラダイス〉のギルドコールが待機室に響く。

 俺もみんなに紛れて叫んだ……風でこっそり言った。


 みんなリアルでは大食いだったり、食べ物関連で悩んでたりするのかな……?

 そんなことを思いつつ、もうすぐ午後8時。


 待機室の中央に設置された時刻表示板が、いよいよGvGの開始を告げようとしていた。


 ◆


 GvGが行われるフィールドは毎週ランダムで決定され、拠点の位置や数も変化する。


 今回のフィールドはメドロア腐毒樹海。

 鬱蒼うっそうと生い茂るジャングルに、腐食、毒の状態異常を付与する沼が所々にある。


〈Wild Breakers〉のみんなは拠点の位置の把握、制圧しようとしているギルドの調査。


〈満腹スイーツパラダイス〉は遊撃隊としてフィールド全体を動き回り威力偵察を行う。


 これが〈Wild Breakers〉と〈満腹スイーツパラダイス〉の通称〈WBスイパラ〉同盟の流れらしい。


 俺は見学も兼ねての大佐さんと行動を共にし、他のみんなも数名に別れて動いている。


「いたでござるか?」

「いないでござるな?」

「もう少し探すでござるよ」


 ジャングルの奥地でたくさんのござる口調の声が聞こえてきた。


「いたでござるよ! あ、あいつは!? 赤いトマトでござるよ!」

「まことに赤いトマトでござるか!? これは行幸ぎょうこうでござる! 叩き斬るでござる! 今日こそ赤いトマトの果汁をぶちまけてやるでござる! 皆でほまれをあげるでござるよ!」

「やや! 待つでござるよ! 隣の薄汚れた布きれまみれの黒ウサギを見るでござるよ!」


 種族は違えど全員羽織を着た侍の風貌で、ジョブも刀を帯刀しているところから見てサムライだ。


 ただみんなござる口調で誰が何を言っているのか分かりづらい……。


「〈幕末辻斬りごめんご藩〉だ。全員SAMURAIの切り捨て御免のチェストバカだ。ちなみに加入条件として全員ござる語必須だ」

「な、なるほど」

「そして、ベルセルクのジョブを異教徒とみなし激しく嫌ってチェストしてくる。ウサボンよ、俺の教え。ここで実践じっせんして見せろ」

「え? 大佐さん!?」


 大佐さんがシャドウアサシンのスキルである〈シャドウウォーク〉で姿を隠してしまった。


「赤いトマトが消えたでござるよ! 我々に恐れをなして逃げたでござるか!」

「いいでござるよ。まずはこの異教徒である黒ウサギから狩るでござる」

「皆の者であえであえでござる!」


 全員が目の色を変えて刀の柄に手をかける。

 数は……ざっと見て、七人。


「皆の者、〈精神一到の構え〉でござる!」


 承知でござる! と全員が答え、赤いオーラをまとい始める。


 サムライのスキルで〈精神一到の構え〉――次に放つスキルの威力が二倍になり、状態付与率があがる。


 だから意識して――〈ウォークライ〉と呟く。

 俺の口から自分の声ではない獣の叫びが発せられ、黒いエフェクトがほとばしった。


 相手を強制スタン状態にさせる足止めに加え、自身の攻撃力を増加させるスキルだ。


「ござ!?」

「黒ウサギの遠吠えでござる!」

「こしゃくな真似をするでござる!」


 スキル発動は音声式と無詠唱と呼ばれる思考型がある。


 慣れれば思考型でいいけど、音声式は即時発動が可能だ。


 思考型は魔法などに詠唱時間が設定され、すぐには発動しないものもある。


「いかんでござるよ!」

「こやつ明鏡止水の構えでござるよ!」

「腹切り蛮族スタイルでござる!」


 もちろん思考型も発動エフェクトが出るので、バレないわけじゃない。


〈アンガーコンボ〉、〈ライフバースト〉で連続攻撃ダメージアップ、HPを削って攻撃力増加。とにかくベルセルクは攻撃力増加のバフが多い。その分、防御力や最大HPが減少する。


 とにかくだ。ござる口調にまどわされては駄目だ。

 相手は俺よりも対人戦の経験値がある。

 周囲を見回す。


 リアルと見間違うほどのジャングルで、太い木々に草の茂み。集団戦をするには障害物が多すぎる。


 だから跳ぶ。


「おや? 黒ウサギが消え――?」


 近場にいたサムライを大木ごと死角から斬りつける。


 リアルと物理法則はほぼ変わらない。斬撃なら木は切れ、打撃なら砕ける。踏みしめれば、跳べもする。


 大剣がサムライの胴体を食い込んだ。ダメージエフェクトの赤い粒子がではじめ、


「いかんでござる! こやつ! 火事場の馬鹿力でござる! 天誅てんちゅうでござるか!?」


 そういった一人の姿が死亡エフェクトに包まれ、霧散した。


「こやつめ! 不届きでござるよ! チェストでござる!」


 俺を取り囲む三人のサムライが抜刀した。


 刃に青い炎が付与された――〈断罪の刃〉。高火力に高クリティカル率で、パーティメンバーが死んだ分だけ威力が上がる


 少しでも触れれば、俺が死ぬ。だけど大剣はまだ振り下ろされる途中。防ぐ手段は、


「ござ!?」

「また味な真似をするでござる!」


 鎧装備の一つである外套を刀に投げつけ、強制的にスキル発動を早める。ついでに切り倒した大木を蹴り上げてぶつけ、態勢を崩す。


 自身の装備を放棄すると、一戦中は自分の手で回収しない限り戻ってこない。

 終わったら回収しないと。

 でも、その前に。


「〈狂気の咆吼マッドネス・ハウリング〉」


 振り下ろした大剣が地面に触れた瞬間、無数の黒い斬撃がサムライたちを斬り伏せた。


「む、無念でござる……切腹でござる。しかし、また舞い戻ってくるでござるよ。リメンバーラストサムライでござる」


 サムライの人たちが全員リスポーン地点である待機室に戻っていった。


 復帰まで三十秒かかるけど、全員戻ってきてまたござるござるで――あ、俺もちょっと毒されてる。


 ともかく全員納刀スタイルだったし、今回のフィールドが障害物が多かったおかげで楽に立ち回れただけ。フィールドによっては難しい相手になると思う。


「地形をうまく利用し、敵の攻撃を阻害する。武器は自分が所持している装備やアイテムだけではない。覚えておくといい。しかし、ウサボン。やはり君にはロマン型があっているようだな」


 スキルを解除した大佐さんが現れて言った。


「そうですね。自分が思っているように動けている感じがします」


 大佐さんと対人戦の特訓をする中で話合った結果、ステータスを変えることに決めた。


 GvG中は不可だけど、対人戦用マップに登録したキャラクターのステータスは何度でも変えられる。


 今のステータスは力と敏捷も最大まで振った。敏捷は回避率判定や物理攻撃スキル速度に反映される。


 俺の反応速度なら十分に活かせるということで残りは器用――ではなく、運。クリティカル率アップ狙い。


 さっきのサムライの人たちのように、一撃にかけるスタイルになっている。


「偵察を続けよう。ちょうど面白いのを見た」

「いつの間に。分かりました。行きましょう」


 ◆


「へいへい! 俺たちにみんなビビって、リアルで漏らしちゃってんのかーい! ヒャッハー!」

「今日も爽快快感ド派手に盗むぜ! ヒャッハー!」

「オラオラ! 俺様たちが怖いのかーい! 隠れて見てないで装備もゴールドもおいてきな! ヒャッハー!」


 今度はファンキーなヘアースタイルの人たちが……多分、ハイローグだ。

 毒沼付近に陣取り、自分達の周辺に罠を置きまくっていた。


「〈世紀末ヒャッハー珍走団〉。全員ヒャッハーでヒャッハーだ。全員語尾にヒャッハーをつけることを義務づけられている」

「な、なるほど」


 大佐さんと揃って対岸の茂みに隠れて様子をうかがう。


「ちなみにベルセルクをトゲ付き肩パッドアーマーをつけない半端者とみなしてヒャッハーしてくる」

「ベルセルクの扱い酷くないですか……?」

「ウサボンが休止している間、一時期ベルセルクだけ上方修正されてな。その時、特に煽られたのがハイローグとSAMURAIなのだ」

「それは……しょうがないですね」

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