第30話 普通で不思議な友だち
「へぇーここが兎野君の家か。一軒家でいい雰囲気。惜しいけど、兎野家訪問イベントはまた今度にして。服乾きってないし、お風呂入ってちゃんと温まるんだぞ?」
「うん。獅子王さん、送ってくれてありがとう」
我が家の前に停車した
ゲリラ豪雨の範囲から抜け出したのか、
「いーってことよ。兎野君!」
獅子王さんが俺に向かってピースし、ウインクする。
「明日からガチでかましてがんばろーね!」
「ガチで頑張るよ」
シンプルな決意表明に、夜空にも負けない明るい笑顔が返ってくる。
「ならよしっ! じゃあ、兎野君! また明日ー!」
「獅子王さん、また明日っ」
「兎野様、ごめんあそばせさよならですわー!」
獅子王さんを乗せた四脚ビークルの姿が消えるまで見送り、空を見上げる。
俺も夜を越えて、朝に歩きだそう、なんてセリフは似合わないか。
言われたとおり風邪をひいて台無しにするわけにはいかないし。
風呂に入って温まろう――と思ったけど、視線を感じて振り返る。
背後には小柄で長い後ろ髪を束ね、白いワンピースを着た妹の
「白雪、おかえり。買い物? 荷物持つよ」
「ま――」
「ま?」
無言で、もの凄い驚いた顔でこっちを見てくる。
あ、まだ濡れてるからかな? それとも後ろに誰か……って、見ても特にいない。
別に白雪に霊能力なんてないし、夏のホラーもリアルではやめてほしい。
「真白お兄が不良に戻って盗んだ四脚ビークルで帰ってきたー! お父さーん!」
「白雪ー!?」
なんか凄い勘違いしてる!?
いや、客観的に見たらそうなのかな!?
友だちと遊びに行くとしか言ってなかったし!
急いで白雪の後を追って、玄関に入る。
白雪、速い! さすが俺の妹だ……!
「何を言ってるんだいー白雪。真白がそんなことをするわけないじゃないか」
白雪に連れられてエプロン姿の父さんがやってくる。
そして、俺を見ていつもの柔和な笑みを浮かべた。
「……うん。髪を切ってサッパリしただけじゃないかな?」
「急に髪を切る!? わたしそんな話聞いてないもん!」
「真白にも色々あるんだよ? 年頃の男の子だからねえ」
「なんだなんだー? 騒がしいじゃねえか。お! なんだ真白! ついにスカジャン着るに相応しい見た目になったじゃねえか! さっそく試着するか!?」
金髪にジャージ姿の母さんが、俺を見て大笑いし始める。
兎野家大集合です。
「ってか、マジでどーしたんだよ、真白? 母は気になって仕方がない」
「
「あー……あいつか。学生時代はみんなあいつに髪をやってもらってたからな。腕は確かだな。つーか、キンジもベルもいいかげん意地はらねーで結婚すりゃいいのに」
母さんが昔に思いを
「真白、どうにかしてあいつら結婚させれない?」
「無茶言わないで」
「うん。さすがに息子に言うことじゃないな。母、反省」
と、白雪が俺の腕を引っ張り始める。
「真白お兄? 本当に不良に戻ったわけじゃないの? 芝狩小に生息する
「戻ってないし、返り咲いたわけじゃないから安心して」
まあ、理由があってずっと髪を伸ばしてた家族が、何もいわず急に髪を切ってきたら驚くよね。
だから、ちゃんと言わないと。
「友だちと遊んできて、髪を切っただけだよ」
母さんと白雪が驚いて目を見開き、父さんだけは目を細めた。
「真白お兄の友だち!? イマジナリーフレンズじゃなかったの!?」
「イマジナリーフレンズ……どこでそんな言葉を」
最近の小学生はそういう会話もするのかな? カタカナ横文字が飛び交ってそう。
というか、俺はそこまで追い詰められてると思われてたのか……そうだよね。
「白雪? 現実の友だちだからね。さっきの四脚ビークル――」
「え!? もしかして真白お兄の友だちってあの四脚ビークルさん!? 変形するの!?」
白雪は時々凄い方向に勘違いする。
「AIじゃなくて……あ、でも知人みたいな人? はできたかな。それだけじゃなくて、俺たちと同じ人間の友だちもいるからね。車内に乗ってた人」
「そっか。あの中に本当に友だちいたんだ。よかったね、真白お兄」
白雪には今まで迷惑をかけてきたのに、心配して自分のことのように喜んでくれる。
「心配してくれてありがとうな、白雪」
「んーっ」
白雪の頭を撫でると、くすぐったそうにしながらも微笑んでくれる。本当にできた妹だ。
「はっ!? べ、別に心配はしてないよ!」
でも、すぐに払いのけられてしまう。
最近ちょっと距離感が遠くなりつつある。
やっぱり兎野家の子どもは小六になると多感なお年頃になる運命なのか。
「で、男か? 女か? どっちだ?」
そして母さんは母さんで
親としても、マンガ家としても。
どう答えるか考えて。
「……普通で不思議な友だち、かな」
なんとなく今はこれでいい気がした。
「おい、真白。ラブコメ主人公気取りか? 母は意味分からんぞ? 性別聞いたんだが?」
残念ながら母さん的には不満だったらしく、効果はいまひとつだった。
引かない母さんを見て、父さんが間に入ってくれる。
「
「ぐ。ゆ、
母さんが恥ずかしそうに父さんのほっぺを突いた。
今も昔もずっとこんな感じだ。
ラブラブなのはいいけど、子どもの前ではもう少し落ち着きのあるスキンシップをお願いしたい。
「真白、遠慮せずにいつでも友だちを家に呼んでいいからね? 美味しいお菓子作るから」
「分かった。ありがとう、父さん」
「おう! ルナティック☆キララ先生のサイン色紙もいくらでも配布してやるぜ? つーか学園で宣伝してくれ、息子よ。兎野家のために」
「……母」
まあでも、獅子王さんならもの凄い喜びそうだ。
「さ、夕ご飯の続きを作らないと。今日は真白の好きなハンバーグだよー」
「なにか手伝う?」
ハンバーグ二連投。でも、好物はいくらでも食べられるお年頃だ。
「その前にお風呂に入りなさい。風邪ひくよ?」
「忘れてた。着替え取ってくる」
まだ半乾きのシャツを着たままだった。
自分の部屋に向かおうとすると、白雪がついてくる。
「ねえねえ、真白お兄。さっきの四脚ビークルってタクシー? 最近のってあんな凄いデザインのもあるの?」
「違うよ。友だちの……自家用車でいいのかな?」
「えー! 本当に凄いっ! 真白お兄のお友だちって何者? 裏社会のドンの隠し子?」
……白雪、最近どんな会話をして、どんなものを見てるの?
兄としてちょっと心配です。
「普通の、真っ当で、ちゃんとした家の子でクラスメイトだよ」
それでネトゲの相棒だ。
「へぇーやっぱり
「それはどうかな? 聞いてみないとね」
獅子王さんに言えばこれまた喜んで乗せてくれるだろうけど。
この先、いつかの日。
獅子王さんが家に遊びに来た時に考えればいいかな。
「むっ!? ラブコメの香りがするな! やはり女か!?」
母、恐ろしい嗅覚。
……獅子王さんの匂い、残ってたりしないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます