第6話
ざああああっ…と雨のままに天がただれて、夜になった。
「おねえちゃん…」
(いやだ)
この夜のことはしっている。これ以上くり返さなくてもしっている。月のかたちから色までおぼえている。ところで
「おねえちゃんってば!」
「うん」
「なんで
「う…ん? うんうん」
「ねえ、にげようよぉ」
「どこへ」
と言いたいのを寸でで
どこへも逃げられない。当て
ここだけの話、そんな思いを巡らせたことはあるにはあった。弟といっしょに
ところがこれが変なもので、途中から温度が下がる。
母をおいてけぼりにすること。
弟まできれいさっぱり忘れていたこと。
後ろめたさに立ち止まれば
「「ちがうか?」」
途端、うしろの正面に肩を引かれる。さて誰が誰だ。真っ黒な顔と顔だ。カチ当たって
「「ご覧よ…?」」
せめて目玉のあるうちに。
このザマ。この
つまりはそれだけのことだったのだよ。
さてもさても。
そんなこんなで。
責めて打って呪いつづける。自分で自分を。ご苦労なことだ。
姿かたちを変えれども化けれども、生きようが死のうが転生しようが、逃げても逃げてもおかまいなしだ。よくよく見ればと、そこで目が覚めそうになってまあ最悪だろう?
そんなくらいなら、いっそこのままが気楽極楽。大人の言いつけどおりに
(???????????????????????????????)
なにを間違えて、なにが悪い?
母こそ何を考えているのか? なにを言ってほしいのか? 母は本当には何を言いたい? なにを叫んでいるのだろうか?
言いつけてくれたら全部その通りにしてみせるというのに。
いやもうまったくわからない。ぜんぶに合点がいかないが、このあたまでは追っつかない。すでにずっとぼんやりしている。いい子になりたい。ただそれだけのことだのに。
そんなこんなで瞬間々々、息継ぎだけまかなっている。あとは膝を抱えてこうして居る。果てもなく居る。これがふつう。つまりは堂々巡り。ほかのやり方などあろうがなかろうが
なんにせよ
逃げたいのは山々のようで、逃げたくもないはなし。
「おねえちゃん」
「わかってるよ!!!」
突き飛ばすように叫んだ自分の声に、ギクリとした。これではまるで母のようだ。ああこわいと下唇をぐっと噛んだ。
が、時間がない。
とにもかくにも言いつけどおりだ。弟の手をこわごわ引いて、薄暗い細道を歩き出した。
「行って、帰るだけだよ…」
「でも」
「あんたも聞いたでしょ、おいしい賭けなんだって。行って帰ってくるだけ。それだけでさ、母さんの独り占めにできるんだって。今夜分の、仲間の稼ぎが全部だよ」
「そんなのウソだよ」
そう思う。子どもの自分でも、それより子どもの弟でもそう思う。
なにしろ行く場所というのがいわく付き。
そんな場所へ行って帰れというのは、賭けというより子殺しでないか。それありきの頼み事か。
「ひとのこころをよむんだって」
弟が言った。
「だからウソつきはトラの手でちぎるんだって」
「猿なのに?」
「わかんない。でもシッポはヘビで、かまれるとみんなくさるの。くさるってなに?」
「よしなよ。だれが言ったのさ」
「雲とか風とかビュービューふくって。影もながいの。すごくはやいの。朝から晩まで、こうやってとんで消したり出したりする。だからだれにもつかまらないって」
「ふぅん。じゃあきっと平気だね」
「え、なんで?」
「だれも帰らなかったら、そんなことわかんないよ」
だから作り話だよと、言いながら口がへの字になっていた。自分で自分をはげましているようなものだったが、それでも多少気は
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