第46話 イベントへの招待
「もしもし……」
『中島さんですか』
「はい」
『驚かせてごめんなさい。
私、円城寺いずみと申します』
「円城寺いずみさん・・」
『はい。
この前の灯火のコンサート好かったみたいですね。
私も灯火ちゃんの大ファンなんですよ』
「灯火のコンサート……ああ」
『西田さんのブログで、コンサートレポートを読んだんですよ。
私も弟も、あと友達もみんな感激しちゃったんです』
「西田さんのブログですか」
『西田さんのブログ、観た事無いですか。ブログで小説も書いているみたいですよ』
「西田さんが小説を書くんですか!」
明菜ちゃんは僕に、恨めし気な顔を見せた……
僕には、いずみさんの声が全く聞こえなかったが、
いずみさんの方の会話は、明菜ちゃんの話す言葉と、電話の後で明菜ちゃんから聴いた話から想像して復元してみたものだ。
「小説」以降も、暫く二人の会話は続いたが、いずみさんの巧みな誘いによって、明菜ちゃんは、『灯火ファンの集い』と云うイベントの招待を受けることになった。
必然的な流れで、僕はマイブログと小説のことを熱心に問われた。
そんな趣味があるのに、私に教えてくれないのはひどいと非難され、言おうとは思ったが、照れ臭くて言えなかったなどと、しどろもどろの言い訳を繰り返すばかりだった。
住所氏名携帯番号の外に、ブログのURLとEメールアドレスを記載した、手作り名刺のことまで聴いたらしく、
明菜ちゃんの正当なる要求に従って、僕はその一枚をうやうやしく差し出した。
「ここなのね。智也さんの小説が載ってるブログって。
タイトル、カッコ良いね。帰ったら観に行ってみよ」
明菜ちゃんは結局全然怒っていなかった。
寧ろとても楽しそうだ。
僕は、灯火のコンサートレポートの、特に二日目の記事を、明菜ちゃんが読みませんようにと心の中で祈った。
マイブログの話題が一通り済むと、僕の怖れていた質問が繰り出された。
いずみさんからのメールと、入院のお見舞いで昨日病院を訪ねたことの内、
明菜ちゃんにとても話せない部分だけは、何とか誤魔化しながらも、僕は一通り説明をしなければならなかった。
僕と明菜ちゃんの二人は、明日の土曜日、午後からデートする約束だった。
それがまさに青天の
『灯火ファンの集い』と云う、目的の相当怪しいイベントへ招待され、いずみさんの病院まで明菜ちゃんを同行する羽目に陥った。
明菜ちゃんと別れた後、
バイトを四時から十一時まで勤めてから、家に帰ると二通のメールが僕を待っていた。
一通は円城寺いずみからで、今日の電話に関する僕への謝罪と、奈緒ちゃんのことには全く触れてないから、安心してねと云うものだった。
それで安心できる訳がないこと位、いずみさんにも分るだろうにと僕は恨めしかった。
どうせならあの時、いずみさんから明菜ちゃんに対し、渡瀬奈緒美さんのことも説明してくれた方が助かったのに……
それは虫の良過ぎる話だ。
いずみさんには無理な話だと気が付いた。
当たり前のことだが、渡瀬さんのことは、僕から明菜ちゃんにきちんと説明するしかないのだ。
もう一通は、明菜ちゃんからの初めてのEメールだった。
いつもの携帯メールを使わなかったのは、長文になることが始めから分っていたからだろう。
文面は、僕が書いた短編小説に関する感想が主だったが、
株式投資日記の謝罪文も読んだらしい。
削除前に、それを少しだけでも読んでみたかったと、明菜ちゃんは記している。
その外、灯火の埼玉初日のコンサートレポートに関するものもあった。
あの日僕が灯火の喉を心配していた心境が、話で聴いたよりもずっとよく分ったと書いている。
文章の最後に、
「残念ですが、二日目の記事を読むのは明日以降になります」とあった。
それを読んでほっとした。
少なくとも明日の『灯火ファンの集い』前に、明菜ちゃんが僕の不純と云うよりも、寧ろ純粋な動機を知ることは無くなった訳だ。
後は明日の僕の対応次第か……
僕は先ず、短いメールを書いて下書きフォルダーに保存してから、次に長いメールを書いた……
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