第17話 同僚の誘いはお断り

「明菜ちゃんの普段の服装はこんな感じなんだ」


 思いついたことを、そのまま口に出すと、会話は思いのほかかろやかに進んだ。


 僕の持っていた固定観念よりも、女子と話すことは難しくなさそうだ。


 すでに電話でも話したことだが、昨日の灯火の様子を訊きたがるので、東京駅で乗り換える時の歩行中も、その話題は続いていた。


 座席で並ぶ時よりも、気軽に目を合わせたり、綺麗な襟足えりあしなどが見られて、この時間が嬉しかった。


 会話中、軽やかに動く女子の口許くちもとを、僕自身の目で、間近で見ていることが何故か不思議だ。


 そういうものは、スクリーンとかTV画面で見るものと、昨日までの僕は漠然ばくぜんと思い込んでいたらしい。


 京浜東北線 車中の四七分間は、席に座れなかった前半二十分の方が楽しかった。


 あかない方のドア側に立った、二人の距離は近かったし、無意識だが、角度的には自然の成り行きで、明菜ちゃんの、胸の谷間の奥が垣間かいま見えたりもした。


 打ち解けた雰囲気で、緊張感も消えた極楽の時間帯。

 明菜ちゃんが堅苦しく見えた、火曜日と水曜日のことについて、僕は率直に訊いてみた。


 明菜ちゃんは、職場の先輩である僕と、これまで通り、同僚として良い関係を続けて行きたかったらしく、デートの申し込みみたいなものは、できれば受けたくなかった。


 今の職場の雰囲気が好きだから、それをこわしたくなかった。


 それでも、僕からの申し出があった以上、それを受ける受けないに関わらず、関係に変化が生じることは避けられない。

 そんな気持ちが出てしまったのかな、と明菜ちゃんは言った。


「昨日の電話で、打ち解けてくれたのは何故」


 今までだったら、絶対訊けなかったようなことを、僕はすらすらと口にした。


 答えは率直だった。


 以前似たような経験があって、携帯番号を教えた途端、その夜から男の電話が一方的に続いたことがあった。


 普段大人しそうな人に対しては、返って警戒心が強くなっていたのかも。

 と笑って見せたが、明菜ちゃんの目は瞬間的にはマジだった。


「でもね。西田さんは違ってた。うんボクの勘違いだった」

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