第15話 横須賀線で人身事故、またかよ

 待ち合わせを、明菜ちゃんの都合に合わせたら、電車は昨日と同じだった。


 津田沼駅十七時十一分発 東京行きの総武快速線で、中央に連結された二両ある内の、前側グリーン車の二階席と決めておいた。


 昨日と違い、僕は、快速で一駅手前の稲毛駅から、八分前の電車に乗る。


 さいたま新都心駅着が、コンサート開演二八分前になることを考慮して、会場で二人が食べる夕食は、明菜ちゃんに用意してもらうことにした。


 今日の午後三時の株式市場かぶしきしじょう終了後は、はなかった。

 僕はユニクロで買ったばかりの白地のTシャツに、紺の半袖シャツを重ね着し、ヴィンテージ風ジーンズに合せてみた。


 精一杯おしゃれしているつもりなのだが、なにせ倹約けんやく生活がこうまで長くなると、自慢できる品物と言えば三年間履き古したレザースニーカーの、ニューバランスM577L位だった。


『男の価値を決めるものは決して外見ではない』

と云う、頼りない説にすがりながら、

『中身の方はどうなんだ』

と自問する前に、僕はさっさと身繕みづくろいを完了した。


 父から拝借した、明菜ちゃんの為の双眼鏡など、コンサート対策グッズ一式は二人分セットしたし、これで一安心、今日は雨の心配も無い。


 渋滞も無く、バスは定刻に稲毛駅へ到着した。


 人波を縫うようにして改札口を通った。


 発車案内の電光掲示ボードを見上げると、まだ十七時前なのに

「今度の上り電車は、十七時十二分発 横須賀行き」

と表示されている。


(十七時三分発東京行きが先やろが! 一体どうなってるんや)

 気分が悪い!


 五、六年前に、チャットをやっていた時のくせで、驚いた時や怒りが湧いた時、僕は関西弁になる時がある。だけどw

 特に、声に出さない時はその傾向が強い。


 三番四番線ホームへ通じる、右側階段下の時刻表で再確認する。

 パソコンソフトの「乗換案内」通りだ。


 千葉寄りの後ろ側階段を登り切り、ホーム中央まで戻って、グリーン券発券機でスイカに記録する。


 宇都宮線車内では千円も取られたが、事前に購入しておけば二五〇円節約できるのだ。


 昨日の落雷事故のことを思い出した途端、またしても!

 独特な抑揚よくようをつけて構内アナウンスが流れ出した。


「お急ぎの所大変ご迷惑をおかけしております。

 横須賀線にて人身事故が発生した影響で、当駅十七時三分発東京行きは運休いたします。

 その次の十七時十二分発横須賀行きは、東京行きに変更いたします。

 東京から先へお向かいのお客様は、ご面倒でも東京駅にてお乗換え下さい。

 繰り返します……」


 またかよ!

 その時、僕のポケットで『Change my feeling』の着メロが鳴った。灯火のデビューシングルだ。


「西田さん、予定の電車に変更があったみたい。

 その次の津田沼十七時二十分発の快速に乗れば良いのかな」


 明菜ちゃんからの電話だったが、その電車に乗ってもらうしかなかった。

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