第4話 女心は仕手株
僕のバイト先は、JR稲毛駅の海岸側ターミナル近くにあるコンビニだ。
そこは株式市場が終わってから働きたいと云う希望条件にぴったりでかなり気に入っている。
平日の夕方からラスト午後十一時までのシフトは、一緒に働くバイト仲間との調整さえ付けば気軽に変更することもできる。
中でも特に好きなシフトは月曜日から水曜日。
中島明菜さんと一緒に働ける午後四時から六時までの二時間なら、ボランティアでも良い位だ。
それでも現実的に考えると、やっぱり報酬無しで働くなんて僕にはきつ過ぎる。
何故なら僕は二年前の七月、家族の心配を他所に、父の経営する司法書士事務所を自己都合で辞めて、割と暇だった二年間で勉強してきた理論を実践に移すべく、僅かな元手で堅実とは程遠い株式投資業を始めていたからだ。
親の家に住み、朝食は母が作ってくれる。体の良い寄生だ。
昼食はカロリーメート、夕食に至っては、バイト先で廃棄処分になった期限切れ弁当や惣菜で済ませると云う徹底した倹約生活。
安い時給で得た僅かな給与のできる限りを株式投資資金に回していた。
投資運用成績について見ると……始めの半年は、行ったり来たりで利益にならず、次の半年は、巧く回転していた時に調子に乗り過ぎて、早耳情報に飛び付いたばかりに、それまでの利益と元手の一部を吐き出してしまった。
初心に返った二年目は、手固い株取引で損はあまり出さなくなったものの、僅かな利益を上げるのにも四苦八苦。
両親の冷たい視線が背中に突き刺さる毎日を送りながら、この春頃から漸く軌道に乗って来た。
実際この六月からに限ってみれば、かなりのパフォーマンスを上げていたが、それはあくまで
それにどういう訳か、好調になればなるほど投資資金を増やしたいと云う願望が強くなり、僕の生活はさらに窮乏を極める。
親達を早く見返したいという気持ちが益々強固になっていたからだ。
そんな僕でも、たとえ気持ちだけとはいえ、ボランティアしても良い位中島さんと一緒の時間は大切なものだ。
中島さんが僕の気持ちに気付いているかどうかは分らない。
それでも観察する限り、中島さんに恋人とか仲の良い男友達が居るようにも思えない。
僕はこの三ヶ月間というもの常に希望を持ち続けている。
女心にも買い時を計る株価チャートみたいなものがあれば良いのにと、都合良く考えないことも無いが、そんな便利なものがある筈もなく、僕にとって女性の心はいつまでたっても動きの読めない
結局は予測のつかないまま、何となく上がりそうな気がするからつい買ってみると云う、相場のド
その日の僕は、遂に戒めるべき危険な手法を取る所まで自らを追い詰めていた。
信用買いで投資している新日鉄が、せめて前日の様に上昇してくれれば、少しは勇気付けられるかとも思ったが、この日は三円安。
一万二千株の
でも待てよ、僕はデイトレードをやっている訳では無いのだから、
先週の月火水を思い出すと、僕と中島さんの関係は中々良い感じだった筈だ。
木金は中島さんが休みで土日は僕が休み。五日ぶり、何と長い隔離期間だろうか!
とにもかくにも漸くめぐり来た昨日の月曜日。
僕が入店すると、中島さんは雲間からお日様が覗いたように素敵な笑顔を見せて、
まさか僕との再会を待ち侘びていた訳では無いだろうが、僕はそう信じたかった。
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