第10話 さいたま初日開演
そろそろ開演の時間だ。
谷底にあるかのような右手奥の大ステージを、
丁度その時、
僅かな時間が異様に長く感じる。大観衆の
突然、暗闇の中に巨大な光が咲いた。
無表情に目を大きく見開き続け、一見スチール写真のように見えて、髪だけがさらさらと風にそよいでいる不思議な絵だ。
大写しと同時、待ってましたと言わんばかりに、会場全体に
アルバム「エキゾチック」からの『オープニング』のようだ。
それきりだった。
灯火のアップ映像以外何一つ起こらないのだ。
タイミングをミスった拍手は次第次第に静まった。
「トーカー!」との呼び声がこだまするだけ。
灯火の登場まで、
ステージ中央にセットされたスタンドマイクに、きっちりと焦点を合わせたままじりじりと待ち続ける。
ステージプロデューサーの
巨大ディスプレイに目をやると、強い視線で遠い一点を
バンドは「Passage」のイントロを
光の円の中心に、ぱっくりと四角い穴が開いた。
三万六千個の視線が一点に
観客側の
まるで自ら発光しているような美しいフィギュアは、全身がせり上がり切ると同時に魔法が解けて
しっとりとしたバラード。ろうろうと響き渡る歌声は、聴く人の中に深く
生灯火の全身は、高性能な双眼鏡の中で丸く切り取られて輝いている。
オープニングの一曲で僕は魅了された。
一人でここに居て良かったとさえ思えた。
実際中島さんと一緒だったなら、僕は灯火に対しここまで
木の葉の大ステージは、淡く純白に輝き始め、くっきりと格子柄が浮かび上がった。
二曲目は最も新しいが、
知らぬ間に、僕は首と膝でリズムを取っている。
それでもまだこの時は、左席を
右側は元々気にする必要が無い。皆が皆、右下ステージしか見ていないのだから。
ステージの灯火は会場のノリの良さに刺激されて、パフォーマンスは早くもアクセル全開。
サビの終りで灯火が
アーティストとオーディエンスの刺激のキャッチボールはエスカレートしていく。
のっけからの飛ばし過ぎがやや気になったが、全開で歌ってくれるのはファンにとって文句なしに嬉しいことだ。
以前NHKの特番で、僕は
ベテランアーティストならではの貫禄、ゆったりとしたステージメイク、存在感も際立っていた。
名曲ナンバーの歌唱シーンとジョーク
古くから彼に付いているファン達は、自分達自身の
アーティストだけでなくオーディエンスもまた超ベテランなのだ。
歌唱について言えば熱唱とは程遠く、お酒でも飲みながら気持ち良く流してるように聴こえた。
父から勧められたCDとは大違いだ。
CDで聴いたヨースケには
ベテランのオーディエンスも、昔はあのヨースケに嵌ったに違いない。今のヨースケにはあの頃のパフォーマンスは無理なのだろうか。
若い僕から観ると、両者の関係はひどく物足りなかった。
何故熱唱を要求しないのか。
どうしてかったるい歌唱に我慢できるのだろう。
年だからしょうがない、そこは多目に見てやろう。
古き良き時代、若く輝いていた頃を思い出せるだけで良い。
お互いに、甘やかし、甘やかされた関係。
ベテランアーティストのライヴは僕には
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