第41話 アマリの戦い 1
「なるほどな。……でも、そうか……優しいファンの人が多いなぁ」
「――っ」
と、俺が呟くとアマリはハッとしたように顔を上げる。
そして急に「そうなの」とまた泣き出した。
ええ……? 感情がジェットコースターすぎない? 大丈夫?
「私のリスナー、みんな優しいの。最初から登録してくれてたまおさん、リオナさん、Q助さん、たまごポールさん、薔薇さん、ちゅぷむくさん、東京特許許可局さん……他にも、私、名前覚えてる……! みんなコメント流してくれて、私、配信中に気づかなかった。気づかせないでくれた……! みんな、優しい……嬉しい……っ! 大好き……! 収益化したら、真っ先にスパチャくれた人たちなの……!」
「……!」
リスナーの名前を覚えていても、贔屓しているとかガチ恋勢にしないために『スパチャの名前呼び上げ』で「いつもありがとう」っていうくらいに留めておくのが常識。
相変わらずワイチューブに登録するアカウント名は個性が出るなあ、とか茶化すつもりはないが……アマリの登録者数は新人連続デビュー作戦のトップバッターということもあり、非常に少なかった。
そんな中でも最初からずっと応援し続けてくれたリスナーの名前を、アマリが覚えているのは当然だろう。
彼らも悪しきコメントをアマリの目に入れないように、できるだけ連続でコメントを書き込んで流してくれていた――と、こうして、アマリにその意図が通じている。
目を細めた。
ああ、それなりに長くこの業界にいるけれど……配信者とリスナーの信頼関係って、本当に美しいな。
これほどまでに信頼関係を築けているのはシンプルにすごい。
滅多に見ないよ、こんなの。
「そうか。恵まれたな」
「うん……うん……! だから、リスナーのみんなのために、私……負けないつもりなの……! 戦いたい。戦う……だから、お兄ちゃんお願い。どう戦ったらいいのか教えてほしいの……!」
「アマリ……」
目を見開いた。
ポロポロと大きな涙を溢しながらも、妹が見たこともないほどに強い光を宿した瞳で俺を見下ろしてきた。
しゃがんで視線を合わせていた俺を、真っ直ぐに。
「――――もちろん、なんでも手伝うさ」
リスナーたちが背中を押して、支え続けてくれたからだろう。
アマリが、強くなった。
ずっと引きこもって逃げ続けてきたアマリが。
自分から、立ち向かうことを決めた。
自分の居場所を自分で守ろうと思うくらいに……!
「でも、ひとまずご飯食おう! 腹が減っては戦はできぬ、ってな?」
「あ……う、うん」
アマリの頭をポンポン撫でて、夕飯の準備をする。
この間作り置きしたロールキャベツをトマトソースで煮込み、コンビニで買ってあったサラダを皿に移してオニオンスープの素でスープも用意。
ゆっくり今後のことを相談したが、配信内容の方針やコラボについて、ボイス収録が木曜日にあるのでその準備。
あ、うーん、我ながらロールキャベツ完璧。
夕飯を食べ終えて、後片付けをして、改めてダイニングテーブルにつき、お茶を飲みながら改めてアマリのチャンネルに沸いたやつらをどう始末するべきか相談だ。
「まず、今回の件はおそらく“正義マン”と、派生の“他人下げマン”が沸いている。実は明星がこの間、他人下げマンが沸いていたんだ。で、明星はいろんなライバーの注意喚起動画を漁って台本作って注意喚起配信したんだ。これがそれ」
と、先日明星が配信した雑談枠で行った注意喚起を見せる。
今回アマリに進めるのは『雑談配信』の中で行う注意喚起。
注意喚起のみの配信は視聴者も多く、当人に届きやすいが法的処置通知に近い配信になるので行わない方が無難。
それのりは、事前に「こういうことで困っているので、みんなで楽しい配信を作りたいからやめてね」とやんわり注意する方向。
それでも続くようなら社内でも相談、対応の検討を行う。
「明星さんはこの動画で改善したのかな……?」
「結構元気になってたから、まったく効果なかったわけじゃないみたいだよ。実際次の配信では乱暴な言葉遣いのリスナーは減った。というか、ほぼいなくなってる。俺も確認したけど、明星のチャット欄やコメント欄はアクティブユーザーが多くないから目立つんだ。注意喚起後にそんな目立つことしたらブロックされる自覚があるからやめたんだろう」
「ブロックのことは言ってないのに?」
「そう。注意を聞かなかった先にブロックがあることを、ちゃんと自覚してるってこと。だから理性の残ってるタイプは、注意されたらすぐやめる。アマリのところに沸いているのもちゃんと理性のあるタイプだ。文章に理性が垣間見えるからね」
理性のないタイプの書き込み例を見せると、アマリの顔色が悪くなる。
マジで『自分至上主義』みたいな、なに言ってんのかわからん知性を感じられない文言が並ぶので、比較的一発でわかるんだよなぁ。
こういうタイプは注意喚起後も自分が悪いと思ってないので、注意の効果が期待できない。
ブロック推奨である。
「だから、アマリが優しくキッパリ注意すれば大丈夫。叱るのは難しいけれど、理性と知性のある人間には届く。今回は完全にやっかみ感丸出しだから問題ない。ただ、それでも理性と知性があるように見せかけた化け物が潜んでる可能性もあるから、半月様子を見てまだ湧くようならまた同じ注意喚起をして、次はブロックも辞さないことを盛り込むといい。二回注意してダメなら次は“忠告”に移る。注意を守らない相手に容赦は必要ないからな。人の言葉が通じないのなら、こちらからシャッターを閉めればいい」
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