第38話 古参組 1


 収録も無事に終わり、翌日は松永ナカマルの初配信。

 ゲーム中毒の松永は初配信でもゲームをしていた。

 ゲームしながら『配信タグはこれで、ファンアートタグはこれで! あとあと、ママはこちらの人っす!』と紹介していく。

 チャット欄が……ざわついている……。

 初配信でゲームしてるライバーって、そりゃ俺も初めて見る。

 だいたい三十分から一時間の枠なのだが、普通ゲームを挟んだとしても数十分程度だ。

 だが、松永ナカマルは初手オープニングトーク自己紹介からのゲームスタート。

 ゲームしながらクリアして情報を出していくスタイル。

 チャット欄は、当然ながらずっとざわついている。

 主に『え? マジでずっとゲームしてる?』『立ち絵の公開とかしてほしいです』『ゲームうま』『初配信で合ってる?』『草』『ゲーム好きなのはわかった』『これはゲーム依存』『やべぇ』『コイツァやべーやつが現れたな』『これ初配信?』『ゲームしてる』『ハッシュタグとか覚えられない』『ざわ……ざわ……』『マジかこいつ』などなど。

 俺は松永の配信を事務所で八潮と嶋津と三人で眺めていたが、俺たち、こんな清々しい遠い目の笑顔で所属ライバーの初配信を見たと思う。

 こいつマジでヤベェなぁ!

 

「ま、まあ、登録者数がもう五百人超えているし……上々だな?」

「そう、だな? うちの事務所で初配信五百人登録者は織星以来だし」

「珍獣たなぁ」

 

 松永はゲームをクリアすると『ほんじゃ! 次、十三時から唄貝先輩と織星先輩とFPSでコラボするんで見に来てください! 織星先輩はFPS初めてらしいんすけど、初心者さんとやるの初めて……ってか! 知り合いとゲームするん初めてだからめちゃくちゃ楽しみなんっすー!』と大はしゃぎで初配信を終えた。

 う、うるせぇやつがデビューしてしまったなぁ。

 

「まあ、いい感じじゃないか? 男性ライバー同士のコラボは女性リスナーにウケるし……」

 

 と、八潮がツブヤキッターをチェックする。

 すると、突然「え? あ……う、うーん」と変な声を出す。

 どうした、と俺と嶋津が八潮を振り返る。

 

「椎名、これ大丈夫か?」

「え? なに――」

 

 なにが、と聞こうとした途端、八潮のスマホ画面が目の前に突き出される。

 八潮は松永の初配信感想を検索していたのだ。

 だが、『りゅうせいぐん☆』の認知度が上がったせいなのか、松永の初配信以外の話題がみっちり。

 おそらく松永が一番最後に織星の話題を出したから、だろう。

 ツブヤキッター上では『織星くん、新人の松永くんとコラボするんだ〜、嬉しい!』『ぶっちゃけ甘梨ちゃんより他の男の子とコラボしてくれた方が助かる笑』など。

 もちろんほんの一部だが。

 

「ガチ恋勢かねぇ?」

「ちょっと不穏ではあるな。椎名、甘梨さんの配信、よく見ておけよ」

「ああ、もちろん!」

 

 織星は初配信の時からアマリのことを『可愛い』『連絡先交換したい』『恋愛相談乗ってほしい』と言っていた。

 さらに『甘梨さんへの鳩行為や、俺たちを無理にくっつけようとしないでほしい。見守ってほしい』と注意喚起も忘れていない。

 それでも織星に“ガチ恋勢”がいないとも言い切れないしなぁ。

 帰宅したらアマリにしっかり聞いてみないと。

 

「ちわーっす」

「椎名さん、いますかー?」

「お、ボイス撮りにきたな?」

「はい!」

 

 事務所に来たのは茉莉花、夜凪、そふらの、瓜アラ子、鍵置ルラの古参組。

 古参組は本日新しい販売用ボイスの収録だ。

 振り返ると、偶然茉莉花と目がバチっと合った。

 アマリに言われたことを思い出して、一気に意識してしまった。

 いや、もう、俺どうしたらいいんだ。

 でも茉莉花にははっきり言われたわけではないし!

 

「どうしたん? 椎名さん」

「な、なんでもないよ。じゃあ収録スタジオ行こうか」

「社長たちも新人さんの配信見てたん? ヤバかったなぁ、アイツ」

「ウリコ、収益化通らないしちょっと真面目に路線変更考えようかしラー」

「「「「そうしな」」」」

 

 八潮と嶋津込みで満場一致。

 瓜はいまだに収益化が通っても数週間後に収益化撤回されるという、ヤバ目の配信しかしていない。

 電流喘ぎ声、風呂トイレ洗面所の掃除ASMRがよくないのだと思うのだが、反省の色がない。

 こう見えて結構いいところのお嬢様らしく――マジそれがどうしてこうなるんやって感じだけど――収益化していなくても生活に困ってないそうだ。

 

「ねー、それよりウリコ茉莉花たちに相談したいことがあるんだけどさー」

「なに?」

「なんかあんまり相談に乗りたくねぇ」

「関わりたくないなー」

「そう言わず聞いてよぉー。ダンナが浮気してるくさいのー。最近帰りが遅くて休日出勤しててぇー、こう言うのってニチャンネルとかで相談してる人たちの浮気症状と当てはまるでしょー? いい復讐方法ないー?」

「まずはちゃんと証拠を集めてからにしなさい」

 

 スタジオまでの移動中、とんでもない話題をぶっ込んでくる瓜。

 そういえば既婚者だったわ。

 そして配信内でも既婚者なのを隠していない。

 時折子どもの声が配信に乗ったりするので『人妻ライバー』『子持ちライバー』『人妻の水音配信クソやばい』などとまあ、そういう意味でも収益化が遠のいている。

 まあね、別に人妻が興奮要素の人種以外にはただの属性だしね。

 つーか、そのプライベート情報ここで言うのどうなん?

 茉莉花にピシャリと言われて唇を尖らせる瓜。



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