第34話 恋愛リアリティ 2


 さすがにツブヤキッターでこんなに盛り上がってたらトレンド入りしたり――は高望みすぎかな?

 トレンド入りすれば話題性からアマリと織星の登録者数増加が見込める。

 実際ページ更新してみると甘梨リンの登録者数が一気に二百人増えていた。

 おそらくまだ増えると思う。

 ツブヤキッター効果、バカにできねぇな!

 

『えっとえっと、次のコラボの日時を決めたらいいの? そ、それもそうだね! えーと、スケジュール帳どこやったっけ……ど、どうしよう、あんまり待たせたらいけないし、先に送った方がいい? え、スケジュール帳探せ? りょ、了解!』

 

 リスナーたちに急かされて、ゴソゴソやっている。

 Live2Dが動いてないってことは、スケジュール帳は物理の方か。

 しかし、すぐに『見つけたよ』と戻ってきた。

 今のところ事務所に行って収録するような話は聞いてない。

 他のライバーとのコラボも、茉莉花とのものか直近だったはずだから予定は余裕があると思うのだが。

 

『あ……明日……いや、でも一応今週の予定表は出してるし』

 

 と呟く。

 そうだな。アマリは毎週『今週のスケジュール』と評して予定をツブヤキッターに上げている。

 今週はもう、やるゲームを決めているのだ。

 

『来週の水曜日なら……いつでも大丈夫――です、と……こんな感じでいいです? え、まだだめ? でも、他になにをいえば……?』

 

 リスナーたちの添削が激しい。

 だがこれ以上の内容は高望みすぎない?

 

『うーん、えーと……あ! 明星さん! は、はい! さっきはありがとうございました! こちらこそ、またコラボしてくださいっ』

 

 お、アマリのチャット欄に明星がいた。

 丁寧に『コラボありがとうございました。またコラボしましょうね』とコメントを残していったみたいだ。

 これにはチャット欄もまた沸き立った。

 織星の相棒だもんなぁ。

 しかし、この明星の登場でどこか過剰に返信の内容を盛れ、というチャット欄の流れが変わった。

 もしかして、明星はそれを狙って入ってきてくれたのだろうか?

 優しい……。

 

『えーと――じゃあ返事を読み上げるね。お返事ありがとうございます。コラボ、ぜひまたやりたいです。今週はスケジュールを出してしまったので、来週の水曜日なら何時でも大丈夫です。明星さんにはこちらから連絡した方がいいですか? ――って感じでいい? だよね? よ、よし、じゃあ送るね……!』

 

 おお、頑張って文言を増やしてもまとまってていい感じだな。

 とか言っても明星はチャット欄にいたから、この連絡内容見ているだろう。

 可愛いアマリの『えいっ』という掛け声にチャット欄がまたワイワイ始まった。

 気がつけば雑談枠なので三十分がすぎている。

 時間が過ぎるの早ぇー。

 

『じゃ、じゃあ、返事が返ってくるまでまた雑談しましょう! 今回のコラボに関しまして……え! 返事返ってきた……! 早っ!?』

 

 気を取り直したアマリがリスナーに向き直ると、その途端に返事が来たらしい。

 早すぎるって……絶対アマリが読み上げた時に返事考えてただろ、織星。

 

『えっと……迅速なお返事ありがとうございます! 来週の水曜日ということで了解しました。ヒナタに連絡して時間の方調整します。決まりましたらご連絡致しますので、しばらくお待ちください。この返事は公開OKです! それでは、またよろしくお願いします! とのことです……コラボ決まりました!』

 

 と、アマリが言うとリスナーたちからはすごいコメント量。

 登録者が五百人も増えてるし、視聴者数も2,000人を超えている。

 アマリの配信でこんな人数になったの初めて見たわ。すげっ。

 

『多分来週の水曜日になると思いますけど、明星さんとのスケジュール調整もあると思うのではっきりとしたことはツブヤキッターでお知らせしますね。まだの方は、ツブヤキッターとチャンネル登録者よろしくお願いします! と言うわけで……雑談始めた理由は織星くんからのメッセージで悩んでたからなんですけど……なんかコラボまで話が進んじゃいましたね。あっという間に三十分すぎてるし……!』

 

 と、まとめにかかる。

 コメントは『おめでとう〜』『よかったね』『コラボクソ楽しみ』『織星くんとのメール定期的に教えてくれると嬉しい』『付き合っちゃいなよ』『知らないうちに仲良くなってくれ』『交際宣言待ってる』『またいつでも相談してくれ』『いいってことよ』『コラボ楽しみにしてるね!』『最高』『めっちゃ楽しかった』とかとか。

 初コメです、とか初見です! という人もかなり多いし……やはり恋愛リアリティはVtuber業界でも“アリ”なのか。

 まあ、本人たちがいいというのならやはりら俺から言うことはなにもない。

 スマホを手放して、天井を見上げる。

 アマリに……このままだと彼氏ができるかもしれない。

 リスナーたちは二人がうまくいくことを望んでいるし、強引なリスナーが現れても織星が注意喚起すると思うし、どうなるかな。

 マジで付き合うことになったりとかしたら――俺はちゃんと妹離れして祝福してあげられるだろうか。

 いや、ここは兄としてちゃんと祝福して、織星に任せよう。

 もうアマリは怖がって部屋に引きこもっている小さな女の子ではない。

 自分の力で人を惹きつけ、収入を得られるようになった。

 立派な自立した社会人だ。

 いつかこの部屋を出て、彼氏と住む、とか……そういうことになるかもしれない。

 つまり、俺も――俺も自分の人生を考えなければならないのかも。

 自分の人生か。

 そう考えた時、頭に浮かぶのは二人の女性の顔。

 でもまあ、はっきりと言われたわけじゃないし、今はまだ深く考えなくていいよな?


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