第30話 大型コラボ 3

 

 “ばか”というのは属性のようなもので、たとえばネズミという占い師が先程のように“占い”によってその人の職業・本性を暴こうとする。

 しかし“ばか”という属性がついていると、その結果はランダムになってしまう。

 ネズミの占いは1ゲームにつき一度しか使えないため、それを外すと致命的である。

 そうしてゲームは進み、爆笑の渦。

 

「ん?」

 

 その時ふと、織星のチャット欄が変な荒れ方をしてるのに気がつく。

 主に『もっと甘梨ちゃんに話しかけて』とか『せっかく同じ人狼チームになったんだからチャットを使え!』『アタックだ!』とか……無理にくっつけようと動いているリスナーがいる。

 織星はそういうのを完全無視。

 ゲームに真剣に向き合っている。

 しかし、織星がそうなっていると今度はアマリのチャット欄にそういうのか沸き始めた。

 織星自身、定期的に配信で『甘梨さんには絶対鳩行為しないでね。無理にくっつけようとしなくていいから。俺が自分で頑張るから!』とリスナーに語り続けている。

 こういうナイーヴな話である、と本人が自覚しているからだ。

 だというのに、こういうリスナーが沸いているとは。

 よく観察していると、織星とアマリのチャット欄に同じリスナーが同じ内容で無理やり二人をくっつけるようなコメントを残している。

 なお、俺が確認しただけでも三人はいるな。

 一応名前をメモってあとはシカトしたけれど、やはりこういうのが沸いたのかぁ。

 ……ふと、そういえば明星の方はどうなのだろう。

 悩んでいた横暴リスナーたちは消えただろうか?

 明星の枠のチャット欄を見てみると、実に平和だ。

 タメ口のコメントばかりではあるが、強めの言葉を使うリスナーはいない。

 よかった、あの注意喚起がちゃんと効いたんだな。

 と、安堵したのも束の間、アマリと織星のチャット欄にいた三人のリスナーのうちの一人を発現。

 ギョッとしていると、案の定というか……アマリと織星を無理やりくっつけるのを手伝え、という感じのコメントを明星のところにも残していく。

 立派な鳩行為なのだが、どうやら自覚はなさそうである。

 

「ちょっと……まずそうだな、こいつ」

 

 他の二人も面倒くさいやつの予感しかしないが、織星の相方である明星のところにも出没するということはかなり面倒臭い勘違い正義マンだ。

 正義マンは『正義は我にあり、我こそが正義』タイプ。

 他人下げマンの亜種だな。

 ワイチューブに限らずツブヤキッターにもいるし、なんならリアルにもいる。リアルの方が面倒くさい。

 自らに正義があると思い込んでいるので、周りの言うことはすべて間違っており自分の言うことだけが正しい――ある意味無敵なのだ。

 自分が一番なので言っていることは自分に都合のいいことだけ。

 筋が通っていないので、理詰めにして吊し上げると秒でボロを出す。

 しかし正義マンは基本的にプライドの塊で、そうして問い詰めると逆ギレして暴れるなり物に当たるなりしてなにがなんでも我を通そうとする。

 なぜなら本人の中で自分は絶対間違えていないし、自分は絶対に間違えないからだ。

 他人下げマンの亜種なので、自らの過ちを認めることはない。

 どんなに矛盾していても、「自分は正しい」を突き通す。

 通す筋はそこじゃねぇよ。

 なんなら、法律すら「自分に都合が悪い」から捻じ曲げようとする。無理だけど。

 なにをどうしたらそうなるんだ、という思考回路なので、常人には理解ができないのが正義マン。

 こんなのが現れたら、我ら常人にできるのはかかわらないように距離を取ることくらいなものだろう。

 だが、最悪のことも想定しておかねばならないのが所属ライバーを守るのが所属事務所スタッフたるもの。

 例の三人の名前からIDも控えておき、最悪法的処置もできるようにしておこう。

 よし、まあ、こんな感じで。

 あとはせっかくのコラボを楽しもう。

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

「めちゃくちゃ緊張したぁー」

「お疲れ」

「わあー! ハンバーグ! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 午後二時。

 二時間弱のコラボも終わり、アマリがダイニングに戻ってきた。

 朝に作っておいた料理のうちの一つ、今日食べようと思っていた料理をテーブルに並べておいたのだ。

 少し遅い昼飯に、アマリは嬉しそうに席に着く。

 

「でもね、登録者数が五百人も増えていたの! すごくない!?」

「おお、さすが大手のライバーとのコラボ。よかったなぁ」

 

 コラボというのは登録者数を増やす――新規リスナーを取り込むのが大きな理由の一つだ。

 まあ、ライバー当人たちは「一緒に遊びたい!」が九割だと思うけれど。

 リスナーたちも知らなかったライバーに出会えたり、わちゃわちゃ楽しそうな推しの姿を見られるしで誰も損をしない。

 アマリも大人数のコラボがよほど楽しかったらしく、ずっとコラボの話を聞かせてくれた。

 俺も見てたんだけどね、とは言わず、楽しそうに話すアマリの話を聞いてやる。

 どうやらあのヤベェリスナーのことは気づいていなさそう。

 それならそれでいいか。

 

「それでね、今回は茉莉花さんと夜凪さん、マスヲカート苦手だったみたいだけど魔戒さんと肉球さんがまたマスヲカートで遊ぼうねって!」

「おお、大手箱の二人とまたコラボできるのはありがたいな!」

「うん! すごく楽しみ!」

 

 と、ここまで話してアマリはキュッと唇を結ぶ。

 どうした?


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