第28話 大型コラボ 1

 

「うーん、どれどれ?」

「早く、早く、間に合わなくなっちゃう! 今日は茉莉花さんも来るの!」

「大丈夫だよ、間に合うから」

 

 と、アマリが焦っているのは機材の調子が悪いから。

 本日は久しぶりの休みだったけど、アマリ初の複数人コラボだから仕方ない。

 メンバーは『Starsスターズ』の二人と茉莉花と夜凪、そして他の箱から魔戒アリスと肉球コロロ。

 二人とも大手の箱の古参ライバー。

 なお、二代巨頭と呼ばれる大手の二つの箱、それぞれ別々の。

 二人とも茉莉花のトーク番組常連で、リアルでも一緒に出かけるほど仲がいいらしい。

 今回のコラボ、問題は大手箱のライバーが参加しているよりも茉莉花と夜凪が全然ゲームしないのに大丈夫か? ってところだろうか。

 一応魔戒アリスと肉級コロロはゲーム脳で腕も相当。

 大手箱のライバーなだけあり、登録者数は双方五十万人を超えている。

 この二人とのコラボで、収益化が通ったばかりのアマリの登録者数も爆上がりすることだろう。

 ディスコの方ではもう他のメンバーは揃っているらしい。

 集合時間前なのにね。 

 で、アマリのパソコンの調子が悪いのは季節の変わり目だからと、アマリがほぼ二十四時間ゲーミングPCを稼働させ続けている負荷によるものだろう。

 まぁね、サムネ作りに連絡の取り合い、動画編集や長時間配信など――アマリのPCの稼働時間はちょっとおかしい。

 それでも去年の冬に買って、早くも不調が出ているのはなんというか……。

 

「よし、直った」

「ホント!? ありがとう、お兄ちゃん!」

「アマリ、新しいとはいえ長時間稼働させすぎだぞ。ちゃんとシャットダウンする時間は作るように」

「うっ……ご、ごめんなさい。でも今からコラボだし!」

「はいはい。コラボ終わったら一度ちゃんとした手順で落とせよ」

「はぁい!」

 

 と、言ってアマリは慌ててゲーミング椅子に座り、ディスコを開いた。

 遅くなったことを謝罪するが、全員気にした様子はない。

 まあ、集合時間前だもんね。

 コラボの開始時間は十二時から。

 俺は今日休みなので、自室の掃除をする予定だ。

 ちらり、とアマリのPCの端に出るアイコンに明星がいて複雑な気持ちになる。

 あれから特に連絡もないし……まあ、仕事用のメールアドレスしか知らないしなぁ。

 告白されたから気になるっていうのはちょっと童貞がすぎるだろうか?

 チョロすぎる?

 やっぱり追い詰められすぎていて、それが終わってからの安堵感からぽろっと言ってしまっただけなんだろうか。

 いやいや、ただの事務所スタッフが調子乗るなっての。

 

「じゃあ、にいちゃん自分の部屋にいるけどまたPCの調子悪くなったら言ってくれよ」

「うん、ありがとう!」

『あら、もしかして椎名さんがいたの?』

「はい。今日はお休みだそうです。おかげで機材トラブル頼ってしまいました」

 

 アマリのPCから茉莉花の声が聞こえた。

 この間のコラボのおかげか、アマリはすっかり茉莉花に懐いているようだ。

 茉莉花は元々面倒見もいいし、アマリのことを妹みたいに可愛がってくれているみたいだな。

 

『そうなのね。また今度収録の時はよろしくって伝えておいて』

「はい!」

 

 と、答えたアマリが親指を立てて振り返る。

 俺も親指を立てて応えて、アマリの部屋をあとにした。

 うちの妹やっぱり世界一可愛いわ。

 

「うーん、掃除機はダメそうだから、デスク周りの片付けだけやるか」

 

 自室の片付けをやり、溜まっていた洗濯物を一気に洗濯機に入れる。

 せっかくだからとスーパーに行って大量の食材を買い込み、冷凍庫に入るだけおかずを作り置きにしていく。

 二人暮らしだし、アマリも料理はできるけど最近は配信時間が長くて作ってないみたいだから飯をサボっていそうなのだ。

 長時間配信の時こそ、エネルギーが必要だろうに。

 アマリは喉の形がゲップの出やすい形らしく、炭酸を嫌っている。

 無炭酸のエナドリもあるけれど、ちゃんと体を大事にしてもらいたいので飲ませないようにしているので買ってきてない。

 料理を冷ましてタッパーに詰め、丁寧に冷凍庫に積んでいけばしばらくは保つだろう。

 あとは最近の掃除で溜まったゴミ出しをして……。

 

「もうこんな時間か」

 

 コラボ開始の十二時。

 そわそわしながら自室に戻り、PCをつけてコラボ配信を開く。

 ヘッドフォンをつけて音漏れしないようにして、いそいそ飲み物とお菓子も持ち込む。

 間もなく始まったアマリの配信。

 

『こんにちは! 甘い笑顔でみんなを笑顔に! りゅうせいぐん☆所属新人バーチャルライバー甘梨リンです』

『流星駆け巡り織りなす星々、りゅうせいぐん☆所属新人バーチャルライバー織星ハルトです!』

『同じく、りゅうせいぐん☆の明星ヒナタです』

『こんにちは、りゅうせいぐん☆の茉莉花です。ゲーム初めてなのでお手柔らかにお願いします』

『同じく、りゅうせいぐん☆所属バーチャルシンガーソングライター、夜凪です。私も、ゲーム初めてだから色々教えてください』

『こんアリ〜! 最強魔界令嬢、ごじろくじ所属の魔戒アリスだぉーん』

『おはコロロー! 魅惑のにくきゅうキュッキュキュッー! ムゲンライブ所属の肉級コロロだよ!』

『というわけで、本日は茉莉花ちゃんに誘われてりゅうせいぐん☆の新人ちゃんたちと、シンガーソングライターの夜凪ちゃんと六人コラボだぞー! 皆のもの〜!』

 

 始まった。

 一瞬で馬をまとめ上げたのは魔戒アリスだ。

 さすが、場数が違うな。

 あえてアマリたちを先に紹介させたのは、トリを自分たちがもらうためかな?

 それはさすがに考えすぎか?


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