第27話 コラボのお誘い
(昨日のアレは……なんだったんだろう)
ぼーっとしながらパソコンに向き合い、動画を編集しながら明星のことを考える。
女の子に縋られて、「好き」なんて言われたのは正直言って――生まれて初めてだった。
いや、だがしかし、俺はプロのVtuber事務所スタッフ。
所属ライバーとどうこうなんてなるわけないし!
「はあ……」
「椎名、集中できないなら一回帰って休んだらどうだ? 昨日の夜から様子が変だけど、なんか悩みがあるんなら相談してくれ?」
と、社長の八潮が後ろから肩を叩いてきた。
ハッとして見上げる。
どうしよう、一応相談しておいた方がいいのか?
「あ、あのさ……」
「うん?」
「昨日、明星に……聞き間違いかもしれないけど……」
聞き間違いなわけがない。
俺の胸に飛び込んできて、涙まで浮かべていたのだ。
そう、あれは――聞き間違いじゃない。
普通に考えれば、多分、告白。
「す、好き、と言われまして」
「マジで? ライバーとスタッフの、かぁ。まあ、バレなきゃいいんじゃねぇの?」
「は!?」
思いも寄らない社長・八潮の答えに、ギョッとして聞き返してしまった。
バレなきゃいいの!?
「人間同士だし、節度を守って交際するのは別にいいんじゃねぇ? 実際個人勢の中には普通に結婚してるやついるし。大手箱には配信中に子どもが部屋に入ってきたりしてるし。まあ、そのライバーさんは自分に妻子がいるのを公表してるし」
「それは……まあ、そ、そうかもしれないけど……」
「別に恋愛禁止のアイドルってわけじゃないんだ。少なくともうちの事務所は恋愛禁止にするつもりはないしなぁ。元々Vtuberは私生活の切り売りをしているようなもんだし、リスナーの恋愛感情の利用って、俺あんまり好きじゃねぇし」
「そ――そ、そう……なんか……」
もっと自由でいいと思うんだよ、と八潮は語る。
ガチ恋勢のアンチ化はトラブルの元になりやすい。
だが、八潮の言ってることもよくわかる。
Vtuberはガワこそバーチャルワールドに住んでいるが、ちゃんと血の通った人間が中に入っているのだ。
私生活は本人に任せている。
ただガワがある、バーチャルの世界に生きるタレントのようなもの。
「身バレする可能性もあるから、あんまり身切りしすぎると危険だと思うけど」
「そ、そうか」
「恋人になって、別れてもその時こそ“プロ”だろ?」
「っ!」
付き合うのが悪い、じゃなくて別れたあと――こそ、プロとして割り切る。
そうか。
「……それも、そうか……」
確かにその通りかも。
茉莉花とアマリのコラボの時も、別れたあとのことを語り合っていた。
別れる時に綺麗に別れて、しこりを残さないようにする――。
「だからまあ、どんな恋愛してどんなゴールをしてもいいけど汚い別れ方だけはするなよ、って」
「うん……」
「明星と付き合うかどうかは任せるよ」
そう言って両肩を叩き、八潮は手をヒラヒラさせて社長席に戻っていく。
椅子に座ったまま、背もたれに背中を押しつけて天井を見上げ、額に腕を当てがい息を吐き出した。
……そうか、いいのか。
仕事上、ビジネスパートナーに手を出すなんてあり得ない。
厄介ごとにしかならない。
そう思っていたけれど……。
「帰るか」
結局集中できないと思い、退勤。
自宅のある二駅隣の町に戻り、駅前のスーパーに寄って食材を買い込む。
のんびり家に帰り、食材や生活用品を補充し、アマリに声をかけて久しぶりにリビングもダイニングも掃除機をかけた。
キッチンも油汚れにクレンザーを使ってガッツリ。
換気扇までしっかりピカピカに磨き上げ、トイレ掃除、風呂掃除も負担やらない所まで全力を尽くした。
「わ、わあ……お兄ちゃん、どうしたの? いや、めっちゃ綺麗だけど」
「いや、ちょっと考えがぐるぐるしてて」
「そうなんだ? ……あ、あのさ、相談したいことがあるんだけど」
「ん? どうかしたのか?」
部屋から出てきたアマリが狼狽えたように視線を右往左往させながら人差し指をツンツン合わせる。
なんだ、どうした。
「……お、お、お、おり、織星くん、から……コラボの、お誘いが……きたの……」
「…………。へぇ」
そういえば織星が配信で「近いうち甘梨先輩にコラボを申し込みたい!」って言ってた。
本当に申し込みしたのか。
赤い顔であわあわとする妹は今日も世界一可愛い。
「それで? 受けるのか?」
「でも、だって、そんな……どうしよう……配信であんなこと言ってる子のコラボって……受けていいのかな?」
あー。
茉莉花にも色々相談してたよな、と聞くと「うん」と頷いていた。
結局のところアマリの選択次第なんじゃないか?
「アマリはどうしたい?」
「他にも人がいるのなら……」
まあ、それもそうか。
明らかに狙ってきている相手とのコラボって、普通に緊張してしまう。
リスナーたちに見守られているとはいえ、二人きりはまだ早い。
「――じゃあ、明星にもいてもらったらいいんじゃないか? あの二人、一応『
「そ、そっか!」
「でも、なにするんだ?」
三人ともゲームはやるが、ぶっちゃけアマリと織星と明星はイマイチゲーム得意なイメージがないんだが。
「まだ決まってない、かな」
「そうか。人数が多ければ選択肢も増えるから色々相談するといい」
「う、うん。そうだね。私も……茉莉花さん誘ってみる!」
「おう」
でも茉莉花、ゲーム全然やらないはずなんだけど……大丈夫かな?
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